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80話

僕は長崎県で5人家族の三男として生まれた。

上には2人の姉がいて、2人とも僕には優しくしてくれたし。

お母さんもお父さんもやっとできた男の子を本気で愛して育ててくれた。


2人の姉がいる家庭だと珍しくない話だけど、家には女の子用のおもちゃの方がたくさんあって

男兄弟がいる家庭に比べると車のおもちゃは少なくおままごと系のおもちゃで遊んでいることが多かった。

年は4つと5つ離れている姉とは一緒におままごとをしていた思い出がいまもある。

しかし、お父さんだけはそんな僕をみて

「冬樹は車で遊んだらどうだ」


「冬樹、一緒に野球しないか」


「冬樹おままごとばっかりするのはダメだ」


と僕が男で女の子の遊びばかりしていることが気になっていたんだと思う。

ただ、そんなお父さんの気持ちを小さい僕が理解できるはずもなく、僕は自分が遊びたいように姉さんたちと一緒に遊んでいた。

ある日姉さんが


「冬樹、顔が可愛いから私の洋服が似合いそう」


もう一人の姉さんが


「それならネイルもしてみよう」


そういって僕は姉さんがきていたスカートをはいて、足と手に子供ながらネイルをしてくれた。

今考えたらただの着せ替え人形としか僕のことを思っていなかったのかもしれない。


「冬樹可愛い!!」


「うん。女の子みたい」


姉さんたちにそう言われて鏡の前に立ってみると

そこには可愛い女の子が立っていた。

僕は元々顔がお父さんよりではなくお母さんよりで姉さんたちもお母さんに似ていて鏡に映る自分が姉さんやお母さんみたいに可愛い顔になっていた。

その時が最初だったんだと思う。

自分がこんなに可愛くなれるんだと思ったのが。

そして何よりも可愛い自分のことが僕は好きになっていた。

その後も姉さんたちに可愛いを聞きながら少しづつ可愛いを勉強していった。

お母さんは可愛いを勉強している息子のことを純粋に可愛いと思っていたみていで何も言わなかった。

ただ、父さんは違った。

姉さんの服を着て、ネイルをしてもらった日の夜、僕はお父さんに可愛い自分をみてほしくて帰りを待っていた

すると玄関の鍵が開く音がしたので僕は玄関に向かって走った


「ただいま」


「お父さんお帰り、みてみて!!姉さんたちに可愛くしてもらったの」


「。。。。。」


お父さんは僕のことを言葉を失っていた


「これはお前がしたのか?それとも姉さんたちにしてもらったのか?」


「姉さんたちにしてもらったよ」


「そうか」


そういって、父さんは家の中に入っていき


「お前ら何考えてんだ!!!!!!」


突然姉さんたちを怒鳴った。

姉さんたちは突然の出来事で一瞬で泣き出した

僕は何が起きているのかわかなくなったけど泣いている姉さんたちをみて泣き出した

すると母さんが慌ててリビングに戻ってきた


「どうしたの?」


「なんでお前がいてやめさせないんだ」


「なにをいっているの?」


「冬樹にこんな格好させて言い訳ないだろうが、冬樹は男なんだぞ。男らしく生きるんだ」


「子供がすることでそんなに怒らなくても」


パチン

泣きながらその音を聞いたとき目を開くとお父さんがお母さんの頬を叩いてた


「なにするの?」


「いや、これは」


後に聴いた話によるとお父さんがお母さんに手をあげたのはこの時が初めてだったらしい


「いくわよ」


お母さんは瞬時に僕たちを子供部屋に連れて行った


「ここで待っていてね」


そういって出て行ったお母さんはお父さんと本気で喧嘩を始めた


「僕のせいでお父さんが怒ってしまった」


すると1番上の姉さんが僕を抱きしめてくれた


「冬くんは悪くない。私たちが悪いんだよ。怖い思いさせてごめんね」


もう1人の姉さんも抱きしめてくれた


「私たちは何があっても味方だからね」


子供ながらでもその言葉が嬉しくて気持ちが楽になったのを覚えている


それから僕は男であるようにしていたが、あの時鏡の前でみた「可愛い自分」を忘れることはできなかった。

それから小学生になった時にテレビでオネエ系のタレントの人がでているのをみたときにいろんな人がこの世界にはいるんだと思った。

そして1人のオネエ系のタレントさんが

「なりたい自分になるのに我慢しなければいけない意味が分からない。かっこよくなりたい、可愛くなりたいと思うのに男も女も関係ない、男が女らしく可愛くなって、女が男らしくかっこよくなることの何が悪いんしょうか?それに女が男らしくかっこよくなるのは許されるのに、男が女らしく可愛くなるのには嫌悪感を抱かれる。これも私はおかしいと思う。誰だってなりたい自分になるのに努力しているんだから、その努力を否定欲しくはないです。」


僕はこの言葉を聞いたときに自分の中の価値観が変わったんだと思う。

あの日以来、女の子用の洋服は着ないようにしているし、家の中ではメイクもネイルもしないようにしているけど、動画では可愛い洋服の紹介動画やメイクやネイルの可愛い動画をたくさん見ていた。

小学生の時の僕はこの時間が楽しかったし、中学生になった姉さんたちが可愛い恰好をしているのをみて羨ましいと思っていた。

ただ、姉さんたちが僕に可愛い要求することはなくなってしまい、家の中ではできるだけその話題から避けるようにしていた。

お父さんとお母さんは、喧嘩をすることはないが話す回数は極端に少なくなったような気がする。


中学生になった時に男子は学ラン、女子はスカートと男女の格好が完全に分かれてしまった時に初めて自分の本心に気づいたのかもしれない。

「僕はかっこいいより可愛いが好きだ」と。

かっこいいが嫌いなわけではないし、テレビをみていて女優さんやアイドルを可愛いと思っていた。テレビでみるような恋愛的に男性しかみれいないわけではない。

本当に「可愛い」が好きなだけだった。

でも、この気持ちは家ではもちろん、学校でも「男」でいなければいけないのは精神的にきつかった。

そんな僕の心の癒しは100均みたいなプチプラコスメを集めて誰もいない家で自分を可愛くすることだった。


中学3年生の時には「ジェンダーレス男子」という言葉が生まれていた。

初めて聞いたときはどのような意味かわからなかったけど

ネットで「ジェンダーレスとは」と検索してみると

男性らしさや女性らしさといった境界線を取り払い、ジェンダー(社会的・文化的な性差)にとらわれない考え方で髪型やファッション。言葉遣いや家庭での役割、職業選択、心の在り方など、あらゆる場面でジェンダーによる区別をせず教会をなくそうという考えかた。

このように出てきた。

僕にとっては待ちに待った出来事だった。

男が男らしくなくていいというのを世の中が認知してくれたような気持になった。

だからこのままいい方向に変わればいいと思っていた。


「なんだこのくだらないニュースは」


お父さんがそのニュースをみたときの最初の言葉だった


「自分らしくいていいってことでしょ」


姉さんがお父さんに反論した


「ふっ。自分らしくってなんだ。人間は生まれた時から「男」か「女」でわかれているんだ。それは何があっても覆ることがない。ジェンダーレスみたいな考え方自体が愚かなんだ。わかったか冬樹」


「はい」


僕の抱いた希望は一瞬に打ちひしがれた。

やはりお父さんがいる限り僕の自分らしさを出すことはできないんだろう


「嫌ね、昭和の男の人って」


下を向いているとお母さんが小さく呟いた


「今何かいったか?」


「別に」


「お前最近態度悪いな」


「誰のせいかしら」


バンっとお父さんが机を叩いた


「誰のおかげで暮らしていけてると思っているんだ」


「はいはい。あなたのおかげね」


「もうやめて」


姉さんが止めに入る。

これはあの日以来特に珍しいことでもない。

お父さんとお母さんが喧嘩したら姉さんたちが止める


「冬くんは部屋に戻っていいよ。あとは私たちに任せて」


これもいつもパターンである。

姉さんたちは僕を守ってくれる

すごくありがたいけど、時々仲間外れにされている気がして悲しくなる時もあった。



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