70話
「今日からここが私の家か」
みっちゃんの家でみんなでご飯を食べて
その日は解散してから私の新しい家に帰ってきた
「愛ちゃん今日も泊っていいのよ」
「もう少し片付けしたいので、今日は帰ります」
「なんかあったらすぐに連絡してね」
「ありがとうございます」
真奈さんはもう一日泊っていいといってくれたが、松岡家にお世話になりっぱなしだったのと、部屋の片づけをもう少しやっておきたかったのもあり、今日は帰宅した。
さっきまで賑やかな空間にいたから一人になると少し寂しくなるなと思う。
でも、この部屋はベランダにでるとみっちゃんの家がみえる。ベランダにでてみっちゃんの家をみてみるとちょうどみっちゃんの部屋の電気がついたところだった。
多分今みっちゃんが自分の部屋で一息ついているところなんだろう
私はみっちゃんに電話をかける
すぐにみっちゃんが出てくれた
「どうしたの?」
「今ねベランダからみっちゃんの家をみていたら、ちょうどみっちゃんの部屋の電気がついたから電話してみました」
そういうとみっちゃんの部屋のカーテンが開き、みっちゃんの顔がみえる
「へへへ。さっきまで一緒にいたのにまたみっちゃんの顔がみれて嬉しい」
「カーテン開けたら愛が見えるっていうのが不思議な感覚だけどね」
「悪いことしたらすぐにばれるからね」
「カーテン閉めているから見えませんよ」
「そしたらすぐに家にいく」
「秒で来れる距離だしね」
「俊哉さんがいい家探してくれてよかった」
「父さんの行動力は見習うところがあるね」
「うん」
「片付けはできそう?」
「大丈夫」
「明日また手伝いにこようか?」
「お願いします」
「わかった。今日も疲れているだろうから無理しない程度にやめて寝ないとだめだよ」
「はぁい」
「じゃぁおやすみ」
「おやすみ」
電話が切れると部屋にはまた静寂が訪れる
でも、最初に感じた静寂とは違って、今の静寂は心地よかった。
窓を開けると見える距離にみっちゃんがいるのを改めて確認出来たら
寂しさはなくなっていた
みっちゃんは本当に優しい。
自分のことをマイナス評価しているけど
みっちゃんみたいに優しくて誰かのために行動できる人はそういないと思う。
私はみっちゃんだから好きになったと思う。
お祖母ちゃんが倒れて私のことを覚えていないって言われたときには
頭が真っ白になって何も考えることができなかった。
祭りに誘われたときも全然乗り気にはなれなくて、行くのを躊躇った。
でもみっちゃんはそれでもいこうと言ってくれて真奈さんが浴衣を着せてくれてみっちゃんと花火を見た。
「だからさ、俺は愛とずっと居続けるよ。未来の約束はできないかもしれないけど、今日一緒にいる。それを繰り返して証明していく。それがずっと続いていけば愛を1人にすることはない。倒れそうになったら肩を貸すよ、立ちあげれないなら手を貸すよ。だから愛はこの先1人じゃない。両親が近くにいなくてお祖母ちゃんが病院にいても愛の傍には俺がいるし、松岡家の家族もいる。甘えていいんだ。みんな愛のことが大好きだからしてあげたいと思うし一緒にいたいと思うんだよ」
あの言葉嬉しかったな。
お祖母ちゃんが倒れた時に一番怖かったのは「一人になること」だった。
その私の不安をみっちゃんは気づいてくれたのか「居続ける」といってくれて私はすごく安心できたし嬉しかった。
みっちゃんが言ったように未来の約束はできないんだと思う。お祖母ちゃんも私を1人にしないといったけど病気になってしまった。約束したお祖母ちゃんが悪いわけではない。仕方がないことなんだ。
でも割り切るには今の私は未熟で、みっちゃんや松岡家のおかげでまた立ち上がることができた。
これからのことは私にも誰にもわからない。
お祖母ちゃんの記憶も、もしかすると思い出すこともあるかもしれない。
それは誰にもわからない。
お母さんのとも久しぶりに話した。最後に俊哉さんと話しているときのお母さんはいつもみたいな強気なお母さんじゃなくて、少し不安そうな声になっていた。
私とお母さんは距離があきすぎてお互いがどう接していいのかわからないけど、いつかは普通に話せることもあるかもしれない。
「愛ちゃん、嶋野さんとは私が連絡とるけど、それでいいかな?」
「私は大丈夫ですが」
「きっと愛ちゃんが思っているよりも愛ちゃんのお母さんは優しい人だと思うよ」
「どうでしょうか」
「母親にしかわからないこともあるから、そこは私が引き出しておくね」
真奈さんの明るさは本当に尊敬している
母親と父親のぬくもりを特に感じたことがなかったから真奈さんと俊哉さんをみていると両親が近くにいたらこんな感じだったのかなと考えたこともある。
でも、それは真奈さんと俊哉さんだから作れる空気なんだと思う。
あの2人の子供だからみっちゃんも真紀ちゃんも素敵に育っているんだろう。
みっちゃんの家族と出会えたことも私の幸運の一つなんだろう。
いつか「結婚」ってなっても2人ならありのままの私を受けれてくれるだろうな
もう一度ベランダに出て空を見る
久しぶりに見上げる空には綺麗な星が見える
お祖母ちゃんも星が好きだった。
私が眠れなかったときには外に連れ出して星をみにいったな
そんなことを考えるとまた涙が出そうになる
お祖母ちゃんとの思い出は本当にたくさんで、最初から変わらずに私を愛してくれた。
「愛ちゃんのお祖母ちゃんとの面会はしてきていいからね。でも愛ちゃんが一人で心細かったら僕たちも一緒に行くから」
俊哉さんはそういってくれた。
確かに私が一人で病院にいって、また「誰」と言われたらわかっていても辛いと思う
「ありがとうございます」
「それに記憶はないって言っても寂しいとは感じると思うから、できるだけ会いに行ってあげよう」
俊哉さんの言葉を聞いて「おばあちゃんに寂しい思いはしてほしくない」と思った。
お祖母ちゃんが私に寂しい思いをさせないようにしてきたように、今後は私がお祖母ちゃんに寂しい思いをさせないようにしたいと思った。
これが少しでも今までの恩返しになればいいし、きっと賑やかな方がお祖母ちゃんも嬉しいだろう
「よろしくお願いします」
できるだけ会いにいこう。
もう大丈夫。
たまに涙が出そうになるけどもう泣かない。
いっぱい泣いたしいっぱい弱音も吐いた。
私も強く生きるんだ。
みんなに今日のお礼のメッセージを送る。
すぐに既読がついて返事がくる。
その返事をみながら初めての家で最初の眠りについた。
夢をみた
「愛ちゃんごめんね」
お祖母ちゃんが私に謝っていた
「なんでお祖母ちゃん謝るの?」
「約束守れなくて」
お祖母ちゃんはすごく悲しそうな顔をしている
「仕方ないよ」
私はもう下を向かない
「大丈夫かい?」
「みんながいるから大丈夫」
はっきりとお祖母ちゃんに伝えることができた
「そっか。それならよかった」
さっきまでの悲しい顔じゃなくて、お祖母ちゃんはいつもの笑顔だった
「お祖母ちゃん、今まで本当にありがとう。お母さんとお父さんの代わりに私をここまで育ててくれて。私の中にはお祖母ちゃんの愛情と優しがいっぱい詰まっているよ。」
「それならよかった」
「たくさん会いに行くからね」
「待っているよ」
「またね」
最期に見たお祖母ちゃんの顔は私が小さい時からみていた顔だった。
気づけば朝になっていた。
さっきの夢が現実かただの夢かはわからない。
もしかしたらお祖母ちゃんが会いに来てくれたのかもしれない。
最期に「待っているよ」と言ってくれた
お祖母ちゃんに会いに行こう。
そう思い、朝早かったけどみっちゃんにメッセージを送る
「おはようみっちゃん」
「おはよう。早いね」
「みっちゃん、今日一緒にお祖母ちゃんのところに行ってくれない?」
みっちゃんからはすぐに返事が来た
「わかった。行こう」
「じゃぁ準備してまた連絡するね」
「俺も起きて準備する」
「はぁい」
「みっちゃんいこう」
「朝から元気だね」
「いい夢見たから」
そして私はみっちゃんの手を握り歩き出した




