69話
「どうして?」
次の日、愛と真紀と一緒に愛の家に向かうと、そこにはさくらさん、敬都、鏡さん、桐生さんが立っていた
「愛ちゃん、なんでもっと私たちのことを頼らないかな」
「ほんとだよ。僕たち友達でしょ」
「愛様に呼ばれたらどこにでもいきます」
「松岡くんにはいったけどもっと頼ってくれていいんだよ」
愛は突然の出来事で頭が真っ白になっている感じだった。
そしてすぐに俺の方をみた
「昨日の夜、愛が寝た後にみんなに連絡しておいたんだ。そしたらすぐに了承してくれた来てくれたんだよ」
「そっか。。。。みんなありがとう」
「「うん」」
みんなは愛の素直な感謝の言葉に驚きつつも頷いた。
若干一名、愛の感謝の言葉を聞いて倒れそうになっているところを桐生さんに支えられている愛オタクがいるのは放っておくことにした。
愛の家は数日前に一度来ていて掃除もある程度していたから掃除に時間はかからなかった。
洋服の整理、冷蔵庫の中身の整理、持っていくものと置いていくもの仕分けなど、7人で作業すると時間も特にかからずに、その日の夕方には終わった。3人でしていたらあの数日は多くかかっていただろう
「あとは当日の引っ越しの時でいいね」
「引っ越しも手伝ってくれるの?」
「もちろん。みんなそのつもりで予定は開けているよ」
引っ越しの日当日までは流石にお願いしてはいなかったが
さくらさんたちの中では当日も予定にいれてくれていたみたいだ。
本当に感謝の気持ちしかない
愛もその気持ちを無下にするつもりはさらさらなく、みんなの気持ちを受けいれた
「ありがとう」
夜に母さんたちに今日の片付けの成果とみんがきてくれたことや当日も手伝ってくれることを報告した
「もう終わったの?」
「あとは細々したところだけかな」
「早かったわね。お友達にも感謝しないとね」
「うん」
「俊哉さん、不動産には連絡したの?」
「もちろん、土曜日の午前中に契約して、午後からは部屋に荷物を搬入していいって言ってくれたよ」
「そんな都合合わせてくれるんだね」
「最近は今回の僕たちみたいに内覧なしで契約しするのも珍しくないらしく、大家さん次第って感じらしいけど、今回の大家さんは融通を利かせてくれる方でありがたかったね」
「じゃぁ土曜日に引っ越しして、夜は友達の子たちもここでご飯を食べましょう。お寿司でも取りましょうか」
「やったぁお寿司」
「真紀はお寿司好きよね」
「うん」
引っ越しはみんなが手伝ってくれたのもあってスムーズに進んで
土曜と日曜の2日間で予定していてが、土曜日だけで終わってしまった。
愛の荷物が少なかったのもあるが、やはり数に勝るものはないなと改めて思った。
冷蔵庫と洗濯機だけは愛の家から持ってきたので、それは俺と敬都と父さんで、父さんがレンタルしてきた軽トラックに積んで運んだ。
これが今日で一番疲れた。
アパートに運び込むときは桐生さんと愛も手伝ってくれたが、終わったころには敬都の腕はプルプルして戦線離脱していた。
それをみたさくらさんが敬都に夏休み明けから筋トレをするうようにといっていた。
鏡さんは終始興奮していたのはそっとしておこう
興奮している鏡さんをいて真紀が
「お兄ちゃん、あの人なんか変じゃない?」
「あの人は愛の大ファンっていっておけば納得するかな」
「了解」
真紀は察してくれたのか、一言だけ残してその場を後にした
部屋の細々したところは完全には終わっていないけど
それは愛が少しづつやっていくところだろう。
思っていた以上にいい部屋で
「この部屋で7万は安かったわね」
母さんは部屋をみてそういっていた
部屋の相場はわからないが、確かにいい部屋だなと思った
1人でクラスには少し広いぐらいだが、セキュリティ面もいいしお風呂とトイレは別だし収納もちゃんとある。
17歳の一人暮らしにしては贅沢すぎるぐらいかもしれない
「今度みんなでパジャマパーティーしようよ」
さくらさんが提案する
「もちろん女子だけでね」
そんなのわかっている
愛は俺もいいっていいそうだが、さすがにその空間に入れる気はしない
「わかっているよ」
「僕はその空間にいるだけで他の男子に刺されると思うな」
敬都、気持ちわかるぞ。
最近好感度上場の鏡さんを含めてこのメンバーは本来俺と敬都が一緒にいていいメンバーではない。
今では普通になっているが、改めて考えると異常なのだ
「愛様のパジャマ・・・」
「パジャマパーティーが私にもできるだろうか」
2人とも変なことをいっているが触れないことにした。
桐生さんと一緒に思うことだが、意外にこの人天然なんだと思う
パジャマパーティーが私にできるだろうかって聞こえたけど桐生さんはパジャマパーティーをなんだと思っているんだろう
引っ越しは終始楽しいムードで終わることができた。
愛も気づけば自然に笑顔になっていてその顔を見れただけで俺も嬉しくなった
自分の考えは間違っていなかったと思う。
この笑顔は俺たちだけがつくったものではなく、みんながいてくれたからこその笑顔だ。
たくさんの友達はいらないけど、この人たちとはこれからも仲良くやっていきたいと再確認した。
「それにしても」
「どうしたの?」
「類は友を呼ぶって言葉は本当だったのね」
「私もそう思う」
「よね。愛ちゃんが可愛いから集まってくる子もみんな可愛いのね。それに敬都くんも瑞樹に雰囲気が似ていて、あなたたちをみているとこの言葉はあたなたちのためにできたんじゃないかと思うぐらい」
母さんと真紀がいっていることは俺も理解している。
実際に松岡家でこのメンツで晩御飯を食べているだけで異常な光景なんだと思う。
まぁ異常もなれれば「普通」になってしまうのが怖いところだ
「確かに瑞樹も敬都も見た目は陰キャで教室の端っこの方でいつもオタクトーク全開でちょっとキモイところもあるんですが、中身が素敵ですから仲良くしたいと思うんですよ」
「さくらさん、それは褒めているの?ディスっているの?」
「褒めているに決まっているでしょ」
「これも全部愛ちゃんと瑞樹が付き合うようになってできた繋がりなんですけど」
「それはその通りだけど」
さくらさんが言うように、愛と付き合っていなかったらこの光景はなかっただろう。
愛と付き合って敬都とさくらさんと仲良くなって鏡さんと桐生さんも一緒に遊ぶようになって。
「友達はつくるよりできるもの」か。
みんなでお寿司を食べ終わって
桐生さんは母さんと父さんと話している。
大人びている桐生さんと話が合うみたいだ。
敬都と鏡さんは2人でアニメの話をしている。やっぱりあの二人いい感じにみえるのは気のせいだろうか
さくらさんと真紀は2人で最近の女子トークをしている。
そんなことを考えていると愛が庭に出て行っている姿が見えた
「愛どうしたの?」
「みっちゃん。私幸せだなと思って」
「そうだね。」
「みっちゃんありがとう」
「どうしたの改まって」
「感謝の気持ちを伝えたいけど、ありがとう以上の言葉が見つからないんだよ。そのくらいみっちゃんには感謝している。」
「俺はできることをしただけだから」
「自分ができることを一生懸命頑張ってくれるところがみっちゃんの優しくてかっこいいところだよ」
「嬉しいけど照れるな」
「きっと1人だったら私は壊れていた。そのくらい自分にとって今回のことは大きかった」
「うん」
「だからみっちゃんがいてくれてよかった。ありがとう」
その時の愛の笑顔はここ数日ではみれなかった本当に素敵な笑顔だった。
「みっちゃん???」
「なに?」
「涙出ているよ」
「えっ」
最近自分の意志とか関係なしに涙が出てくる。
情緒不安定なのかな。。。。
「ごめん。なんか安心したのかもしれない」
「安心」
「やっといつもの笑顔がみれたから」
「うん。やっと私も心から笑えた気がする」
「よかった」
俺は愛の役に立てたのだろうか。
ここで「俺はなにもしていない」という言葉はきっと違う。
愛がいったように今回はやれることをやれたと思う。
完璧ではないが、昔の自分にはできなかったことができた。
向き合うことから逃げる臆病な男は少し成長できているのかもしれない。
自分がこんな思っているだけで人間は簡単には変われないんだと思う。
これはきっと俺にとっては成長の始まりでしかない。
少しずつ、少しずつ成長していこう。
「瑞樹泣いているの?」
振り返るとさくらさんが立っていた
「泣いていない。ちょっとうるってきただけ」
「それが泣いてるっていうんだよ」
「さくらどうしてここに?」
「愛ちゃんと瑞樹が話しているのが見えたからこっそり見て聞いてました」
「聞いていたの?」
「こっそりね」
さくらさんの言葉で一気に涙が引いた。
今は羞恥心の方が上回っている
「2人にいいたいことがあったの」
「言いたいこと?」
「私は2人に怒っています!」
さくらさんは真顔で俺たちを指さしてそういった
「怒っている?」
「うん。瑞樹から連絡をもらったときに最初に思ったのは「なんでもっと早くに言ってくれなかったんだ」って。だって愛ちゃんが苦しんでいるなら力になりたいと思うのは当然でしょう。それなのに瑞樹が連絡してきたタイミングはことが落ち着いた後だった。怒りたくもなる」
さくらさんのいうことは至極全うで。
愛の親友としては話されなかったことはさくらさんにとって悲しかったということだ
「ごめん」
「瑞樹の気持ちも理解しているし、仕方なかったのかもしれない。でも寂しかったんだよ」
「「ごめん」」
今後は愛も一緒に謝る
「でも、きっと私じゃ今の愛ちゃんの笑顔を取り戻すことはできなかったかもしれないと思う」
「さくら」
「愛ちゃんが瑞樹と付き合っているって知った時は「なんでこんな陰キャと」って心の中ですこーしだけ思ったけど、今は愛ちゃんが選んだ相手が瑞樹で良かったと思う」
さくらさんはそんなことを思っていたのか。
ここでそれを言うのは空気が読めていないから言わないが。
でも結構辛辣な事言っているよね
「次は私を、私たちを頼りなさい。これは約束」
「うん」
「人は頼られないと頼ることができないんだよ」
「うん」
「約束だよ」
「約束する」
「じゃぁ私からの話は以上。真奈さんと俊哉さんが愛ちゃんのこと呼んでいたよ」
「わかった」
愛が家の中に入っていく
「さくらさんありがとう」
「瑞樹もお疲れ」
さきほどまでの雰囲気と違って、今のさくらさんの言葉はすごく優しくて
その声音の優しさで涙が出そうになる
「次は遠慮なく頼らせてもらいます」
「任せなさい」
さくらさんを胸を張ってそういって家の中にはいっていった
今自分がみているこの家の中の温かい光景を俺は今後忘れることがないだろう。
「みっちゃん。お家に入ろう」
「うん」
愛に差し出された手を俺は取った。




