66話
「みっちゃんお待たせ」
「。。。。。」
「なんか言いなさいよ」
愛の浴衣姿に本気で見惚れてしまい言葉がでてこなかった。
そんな俺の頭を母さんが叩いた
「あっ、うん。すごく綺麗だよ」
「最初からそう言いなさい。女の子は無言になられるのが一番不安になるんだから」
確かにそうだと思う。
今度から気を付けよう
「いこうか」
「うん」
俺の手を愛が握って祭り会場に向かった。
隣町で開催されている祭りだったので、今回はバスで移動した。
歩いていけないこともないけど、愛は浴衣姿だし、この暑さの中歩いただけで汗だくになる。
「人混み」「汗だく」は最悪のシチュエーションだ。
通りすがる人に「あの人汗臭い」って言われたら死ねる
隣町ということもあり祭り会場にはすぐについた。
そこまで大きな祭りではなかったけど人は多かった。
俺たちはとりあえず適当に食べ物を食べて人気の少ないベンチに座った。
実はこの場所は父さんに教えてもらった花火スポットで、昔母さんと一緒に来た時にみつけたらしい。
俺も人が多いのは好きな方ではないし、愛も祭りにはきたけどいつもみたいな元気があるわけではない。
だから今日は最初からゆっくり愛と話すために祭りに誘った。
「愛、浴衣似合っているね」
「真奈さんに感謝だね」
「。。。。。。」
「松岡家の人たちにはなんてお礼すればいいのかわからないな。そのくらい今回は迷惑をかけてしまったな」
「迷惑なんて」
「みっちゃんの彼女でははあるけど、松岡家の家族からしたら私は他人同然だよ。そんな私をこんなに受け入れてよくしてくれて本当に幸せだと思う。でもなんにも返すことができないと考えたら少し辛い」
愛はそんなことを考えているのかと思った。
確かに俺からしたらうちの両親は愛のことを本当に受け入れてくれているしよくしてくれている。
でも愛からしたらそれは当たり前ではないんだろう。
ここで「気にするな」という言葉はきっと違うと思う
「愛はこれからどうしたい?」
「う~ん。お祖母ちゃんが倒れてからずっと考えているけどわからない」
それはそうだろう。
ずっと一緒にいたお祖母ちゃんが急に倒れて自分んことを覚えていないんだ。
これからなんてわからないよな
「私一人になっちゃった」
愛は小さく呟いた
その言葉を聞いた俺は愛の前にしゃがむ
そして下から愛を見上げると涙を浮かべる愛の目と目が合う
「みっちゃん?」
「愛」
俺は愛の手を握る
「今の愛に対してどんな言葉をかけるのが正解なのかわからないし、どの言葉も薄くてぺらぺらに聞こえてしまうかもしれない」
俺がここで「結婚しよう」なんていってもなんの解決にもならない。
「俺は愛のことが好きだよ。本当に好きだよ。あの時愛に突然告白されたときのこと覚えている?」
「うん」
「俺は不釣り合いでも、嶋野さんのことを全然知らないけど、これから知っていけばいいのかなと思っている。あれから時間が経っていろんな愛のことを知れたと思う。まだまだ知らないことはあるかもしれないけど、愛と付き合って一緒にいれてよかった」
「私もみっちゃんと付き合えてよかった」
「俺はずっと愛と一緒にいたい。この先何年も何十年も。でもそれを約束することはできない。だって未来のことは誰にもわからないから。今回のお祖母ちゃんの件もそうだと思う。愛にとってたった一人のお祖母ちゃんが急に倒れて愛の前からいなくなったのをみていて未来の約束は簡単にはできないと思った」
「うん」
「だからさ、俺は愛とずっと居続けるよ。未来の約束はできないかもしれないけど、今日一緒にいる。それを繰り返して証明していく。それがずっと続いていけば愛を1人にすることはない。倒れそうになったら肩を貸すよ、立ちあげれないなら手を貸すよ。だから愛はこの先1人じゃない。両親が近くにいなくてお祖母ちゃんが病院にいても愛の傍には俺がいるし、松岡家の家族もいる。甘えていいんだ。みんな愛のことが大好きだからしてあげたいと思うし一緒にいたいと思うんだよ」
「私の前からいなくならない?」
「いなくならないよ」
「ほんとに?」
「大丈夫。愛の傍にいるよ」
「みっちゃん。。。。。。」
愛の目から涙がこぼれる
「私一人になったのが怖かった」
「うん」
「両親は近くにいなかったけど、お祖母ちゃんだけはずっといてくれると思っていた」
「うん」
「でも急に私のことも忘れてしまって、また一人になると思った」
「うん」
「松岡家にいてすごく幸せだなと思った。でも私はここの娘ではないからどこかで不安になっていた」
「もう愛は一人にしないよ」
「みっちゃんありがとう」
「こちらこそありがとう。本当の気持ちを話してくれて」
「さっきのみっちゃんの言葉すごく嬉しかったよ。私もみっちゃんと一緒に居続けるって約束する。あの時にみっちゃんに告白した私は間違っていなかった。本当に本当にみっちゃんと出会えてよかった」
「俺も愛と同じ気持ちだよ」
「みっちゃんんんんんんんん」
愛は俺の胸に飛び込んできてたくさん泣いた。
愛に何を言っていやれるのか、どうゆう言葉をかけるのがいいのかをずっと考えていた。
結局俺が愛に与えてあげるのは「安心」なんだろうなと思った。
急に家族になることはできない。元の状態に戻すことはできない。未来を約束することもできない。
ただ、1日1日を一緒にいてあげることはできる。
今胸の中で子供のように泣いている女の子を守ってあげたい。
周りからは才色兼備で完璧な女の子と思われている彼女が実は寂しがりやで泣き虫なのを俺は知っている。
今すぐにすべてを上手くいかせるのは無理でも、少しづつ愛に「安心」を与えていくことをこの花火に誓った。
「みっちゃん花火綺麗だね」
「来年も花火みにこよう」
「うん」
そして5000発のそこまで多くない花火が打ちあがり
空には静寂が訪れた。
花火が終わった後の空の静けさっていいなと初めて思った。
子供のころにみた花火の終わった後の空は嫌な気持ちの方が多かったかもしれない
「もう終わったの」「帰りたくない」
久しぶりに観た静寂の空はさっきまでの熱い気持ちを落ち着かせてくれる空だった。
「帰ろうか」
「うん」
愛が俺の手をとる
街燈に照らされた愛の顔は家を出た時の顔よりもほっとしているような感じだった。
花火が終わり父さんに連絡すると、すぐに迎えに来てくれた
車には既に真紀と友達の子も一緒に乗っていた。
真紀の友達の子は愛をみてキラキラした目でみていた。
きっと愛のファンが一人増えた瞬間だろう
真紀の友達を家に送り、車には父さん、俺、真紀、愛だけになった
「愛ちゃん」
父さんが話し出す
「はい」
「家に帰ったら、一度ご両親に電話しようか」
「電話ですか?」
「うん、きっと今の状況は一度報告しておく方がいいと思う。愛ちゃんのご両親がどんな人たちなのかはわからないけど、こうゆうことは連絡だけでもしておいた方がいいと思う。それからご両親がどうするかはわからないけど一応ね。僕たちも一緒にいるから安心してね」
愛のご両親か。
話を聞く限り仕事に生きる人たちって感じでどうゆう動きをするのか想像がつかない。
父さんの話を聞いた後の愛の表情は少し堅くなっていた。
俺は愛の手を握ると愛の力が少し抜けたのがわかった
「大丈夫」
「うん」
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