63話
「愛、起きてる?」
「うん」
部屋の中から小さく愛の返事がした。
「父さんと母さんが朝ご飯を食べながら話そうっていってくれているよ」
「。。。わかった」
そして部屋から愛が出てきた。
愛の顔は明らかに疲れており、昨日の夜も部屋にははやくに案内したけど、眠れなかったのかもしれない。
それが見た目でもすぐわかるぐらい愛の顔は憔悴していた
「いこうか」
「うん」
俺は愛の手を引いて1階のリビングに向かった。
「「愛ちゃんおはよう」」
リビングに入ると母さんが朝ご飯を用意してくれて、机には既に父さんも座っていて、ソファーでは真紀がテレビをみている。
いつもの松岡家の朝の風景がそこにはあった。
愛に気を使っていつも通りを演出しているのかはわからないが、この空間を作れる両親を尊敬した
「おはようございます」
愛は挨拶を返した。
それを聞いて両親は微笑んでみんなで朝ご飯を食べ始めた
ご飯を食べだすと父さんが話し出した
「愛ちゃん、昨日は突然のことで混乱しているだろうし、今も整理はできていないと思う。でも今の現状を愛ちゃんは知っておいた方がいいと僕は思っている」
「はい」
「昨日瑞樹と愛ちゃんを送ったあと、僕は先生にお祖母ちゃんの状態を聞いてきた。最初は親族でもない人にって渋られたけど、愛ちゃんのご両親が日本にいないことを話したら話してくれたよ」
「ありがとうございます」
「それで、お祖母ちゃんの病名は「脳梗塞」という脳の血管が突然詰まって、血流が途絶え、脳の神経細胞が死んでしまう病気らしい。脳梗塞自体は軽度から重度まで症状があって、軽度だった場合、日常生活を普通に遅れるほどに回復できるケースも多くて、重度だったら死んでしまうことだってある怖い病気だね。それでお祖母ちゃんの脳梗塞は死んでしまうほどの重度なものではないといわれたからまずは安心してほしい。ただ、愛ちゃんのお祖母ちゃんの場合、記憶に障害が残りやすい「大脳」で脳梗塞を起こしてしまっていることで愛ちゃんのことがわからなくなっているらしい」
「じゃぁ二度と私のことはわからないんでしょうか?」
愛の声は少し震えている
「これは僕の方ではわからないというのが答えになると思う。昨日の夜ネットとかでいろいろ調べてみたけど、脳梗塞による記憶障害は一時的なものもあれば二度と元には戻らないこともあるみたい。あとはお祖母ちゃんは高齢になるから「認知症」みたいな症状も考えられる。認知症はなんとなく聞いたことがあるよね」
「はい」
それは俺も聞いたことがある。
実際にうちのひいおばあちゃんは認知症で父さんのことがまったくわからなくなっていた。
確かに愛を見た時にお祖母ちゃんの感じとひいおばあちゃんの感じは似ていたかもしれない。
「どちらにしろ病院からはすぐには退院できないと思う」
「そうですね」
「愛ちゃん、これは昨日の夜真奈ちゃんと話していたことだったんだけど。これからのことがある程度落ち着くまではこの家に住まないかな?」
それは俺も聞かされていなかったことだった。
愛も父さんの言葉に驚いている感じだ
「突然こんなことを言われてびっくりするよね。でも今愛ちゃんのご両親は日本にいないし、お祖母ちゃんもいない。ということはお家に1人になってしまうよね。僕たちは今の愛ちゃんを1人にしたくないと思っている。幸い今は夏休みだし、家には真紀もいるからみんなで一緒にいた方が安心できるんじゃないかなと思って」
「でもみなさんに申し訳ないです。。。」
「愛ちゃん」
母さんが話し出す
「はい」
「愛ちゃんが申し訳ないって思う気持ちはすごくわかる。でも私たちと愛ちゃんは既に他人じゃないのよ。瑞樹とお付き合いしてくれて真紀と仲良くしてくれて私たちからしたら娘みたいな存在なの。それに愛ちゃんはまだ17歳。なんでも一人で背負っちゃダメ。私たちを頼っていいから。愛ちゃんのことを大事に考えているのは瑞樹だけじゃなくて、私たちも負けないぐらい愛ちゃんことを大事に思っているの」
母さんの言葉を聞いて愛の目からは涙が溢れる
真紀が愛の背中をさする
「よろしくお願いします」
愛は母さんと父さんの方を向き頭を下げた
「任せなさい」
「大丈夫だからね」
「ありがとうございます」
「瑞樹」
「何?」
母さんが突然俺の名前を呼ぶ
「愛ちゃんがうちに住むのはいいとして、ちゃんと節度を守るということだけが条件です。家には真紀もいるんだから。好き勝手するのはダメよ」
それはそうだと思うが、親に直々に言われるのは年頃の男としては恥ずかしい
「わかっているよ」
「それならいいの。いきなり自分の家と思ってゆっくりというのは難しいかもしれないけど、少しでもゆっくりしてまずは休んでね。愛ちゃん、昨日から自分の顔をみていないでしょう」
そういって母さんは愛の前に鏡をだしてやる
「ひどいですね」
愛も自分の顔が想像以上に疲れていると感じたようだ
「それが今の愛ちゃんの疲れ方なの。まずは休んで元気になるところから始めようね」
「はい。ありがとうございます」
「とりあえず、今から僕たちと一緒に愛ちゃんの家までいって準備と保険証なんかを用意してもらっていいかな。病院におばあちゃんの入院に必要な書類をもっていかないといけないんだ」
「何から何まですいません」
「愛ちゃん、すいませんより僕たちはありがとうを聞きたいんだよ」
父さんはそういって微笑む
「はい。ありがとうございます」
朝ご飯を食べた後、出かける準備をしてみんなで愛の家に向かった
愛の家はお祖母ちゃんの掃除が行き届いており、特に片付けは必要なかったが戸締りの確認や大事な生類の整理や愛の生活に必要な準備などを済ませて家に戻った。
家では基本的に愛が寝るときに使った部屋をそのまま使ってもらうことになった
家は一つ部屋が余っていたのもあり、スムーズに愛の住むところは確保できた。
そして片付けなどが終わったのがその日の夕方で夜ご飯を食べてお風呂の入って一日が終わった
愛が部屋に入ったのを見送り自分の部屋に戻った時に父さんからラインが届いていた
「愛ちゃんが部屋に入ったら下におりておいで」
「わかった」
父さんのラインをみて下に降りると
母さんも座って待っていた
「愛ちゃんは寝れるかな」
「多分今日は大丈夫じゃないかな。気持ち的にも安心していると思うし」
「それならよかった」
「愛のことありがとう」
俺はこの二日間のお礼を両親に伝えた
実際両親がいなかったらどうなっていたのかわからないし、両親が愛のことを受けれ入れてくれているから今の状況になっている。
本当に二人には感謝しかない
「瑞樹に面と向かってお礼言われるのは初めてかもね」
「真奈ちゃんちゃかさない」
「はーい」
母さんのニヤニヤしている顔をみたらお礼をいうのはいっときやめようと思った
「それで話って?」
「愛ちゃんの両親のことは瑞樹もあまり知らないのかな?」
「うん。詳しくは知らない。ただ愛は幼稚園ぐらいのときからほとんどお祖母ちゃんと暮らしてきたみたいなことをいっていたからこっちにはいないことの方が多いんだと思う」
「今回の件でこっちに帰ってくると思う?」
「それは俺にもわからないかな」
「そうだよね。もう一回大変な思いを愛ちゃんさせてしまうけど、一度両親に電話してもらう方がいいかもね」
確かに両親の言う通り、今の現状を一度愛の両親に報告しておく必要はあるだろう
愛の両親がどうゆう対応をとるのかはわからないが
「それと明日学校にいって担任に状況の説明をしてきてもらっていいかな?」
「担任の先生に?」
「うん。今の状況が特殊なケースというのは瑞樹にもわかると思うけど、学校にも一応言っておく必要があると思う。一応僕たちも手紙は書くつもりだけど、瑞樹が先生に直接言葉で説明してもらうのが一番いいかなと思って」
あの適当な担任に真面目な説明は必要ないんじゃないかなと心の中で少し思ったが
特殊なケースというのは間違いないだろう。
ここで一人で行けというのは父さんと母さんの愛に対する優しさかもしれない。
両親が愛のためにここまで頑張ってくれているのに俺がここでいかない理由はない
「わかった。明日いってくるよ」
「よろしくね」




