60話
「瑞樹も敬都も顔も腕も真っ赤だよ」
海で一日遊んだ俺たちはバスで帰っていた。
さくらさんの言う通り、俺と敬都の顔も首も腕も真っ赤になっている。
日頃から日焼けをしない生活を送っている陰キャにとって今日の紫外線は強すぎた。
しかも俺たちは強がって日焼け止めを塗らなかったのが仇になった。
「みっちゃんに日焼け止め塗ってあげるっていったのに」
「男は少し黒いくらいがいいかなと思って。なぁ敬都」
「そうだよ。僕たち日光浴びていない肌の色しているから、このぐらいがちょうどいいよね」
完全な陰キャの強がりである。
今日の夜のお風呂で俺と敬都は日焼け止めを塗らなかったことを死ぬほど後悔するのが目に見えている。
「みっちゃんは白くてもかっこいいから大丈夫」
「うん。ありがとう」
「一緒にいて再認識したが、嶋野さんはいつもこんな感じなんだね」
「愛様のプライベート尊いです」
そりゃ学校での愛しかみていなかったらこんな反応になってしまうよね
「「いつもこんな感じだよ」」
敬都とさくらさんの声が重なる。
あまりに当たり前のようにいったことで桐生さんも納得したようだ。
まぁこの愛をみていたらそうなるのは仕方ないよね
「天音ちゃんと鏡ちゃんはどうだった?急に誘ってしまったけど楽しめたかな」
「私はこんな人数で海にいったことがなかったけど、実際にいってみると思ったよりも楽しかったよ」
「私は人生で絶対に遭遇しないであろうナンパに遭遇して楽しくなかった」
「ははは。確かにあれはめんどくさかったよね。敬都が起点利かしてくれたおかげでよかったけど」
「あれはかっこよかった」
「なんか僕のこと話していた?」
「なんでもない」
「そっか」
鏡さん、心の声が漏れています。
今のは流石にさくらさんにも聞こえたんじゃないかな。
なんかさくらさんの目が大きく見開いているし
それにしても敬都の耳は都合のいいことは聞こえないように設定でもされているのだろうか
「次はどこにいこうか」
「また次があるの?」
文化祭がきっかけでこのメンバーで集まっているけど
さくらさんの予定を立てるペースが早すぎて陰キャたちはついていくのがやっとなんです
「なに、嫌なの?」
「嫌というわけではないんですが、夏休みは長いんだしぼちぼち遊んでいけばいいかなと」
さくらさんは少し考えて周りを見渡した。
多分、さくらさん以外は俺よりの考えだと思う
その空気を読んだのか
「まぁそうだね。ぼちぼち遊んでいけばいいね」
「そうしよう」
ふぅ。なんとかさくらさんの陽キャテンションを乗り越えた
そして一人、また一人が海で遊んだ疲れで眠りに入る。
既に俺の肩には愛が寝ている。
相変わらずすごく可愛いな。
愛の寝顔を少しみていると俺も眠りについた。
1時間ほどバスに揺られ最寄りのバス停に到着してその日は解散した
「みっちゃん楽しかったね」
「日焼けが既にヒリヒリしていて、今日の風呂が怖い」
「みっちゃん真っ赤に日焼けしたね」
「常日頃から外に出ないから人よりも紫外線吸収しやすくかったりするのかな」
「単純に日焼け止めを塗らないからだよ」
「おっしゃる通りです」
「みんなで遊ぶのもいいね」
「そうだな」
「多分、みっちゃんと付き合っていなかったらこんな経験はできていなかったと思う。みんなで宿題してみんなで海にいくなんて付き合う前の私がみたら驚くだろうな」
「それは俺も同じだよ。愛と付き合ってさくらさんと敬都と仲良くなって、この文化祭で桐生さんと鏡さんと仲良くなれて、俺の始まりは愛からなんだよ」
「へへへ。私との出会いがみっちゃんにとっていい方向に進んでいるなら嬉しい」
「いい方向にしか進んでいないけどな」
これは本当にそうだと思う。
自分が中学の途中から人と関わることをできるだけ避けてきたのは事実で。
高校に入っても教室の隅で陰キャとして3年間過ごすつもりだった。
でも愛と付き合いだして人と関わることの大切さを改めて再確認できているんだと思う。
「ねぇみっちゃん」
「どうした?」
「このお祭りに一緒にいかない?」
愛が指した先をみてみると近所のお寺で開かれる夏祭りのポスターが貼られていた。
この辺では一番大きな祭りで打ち上げ花火が1万発ほどあがるらしい。
海同様に祭りにいったのも小学生の時に家族でいったとき以来でそれからいったことがない
「いいけど、愛がこんな祭りに行きたいって思うのは意外」
「確かに私も行きたいと思っている自分が意外だと思う。みっちゃんといってみたいと思ったのもあるけど、みっちゃんとたくさんの思い出を作りたいなと思って。私が最後に祭りにいったのは幼稚園の時にお祖母ちゃんに連れて行ってもらったのが最後だと思うから」
愛は小さい時から両親が仕事で家にいなくてお祖母ちゃんと暮らしていたといっていた。
俺は小学生の高学年までは連れて行ってもらっていたと思う。
めんどくさいと思いつつお祭りの雰囲気は好きだった。
でも優しい愛はお祖母ちゃんにわがままは言わずに我慢していたのかもしれない。
「行こう!!愛が今までやりたくてもできなかったことたくさんやろう。二人の思い出たくさん作っていこう」
恥ずかしいことをいっている自覚はある。
それでもこの言葉を伝えたかった。
愛も俺あこんなことを言うなんて思っていなかったのか少し驚いている。
むしろ引いている?
「私みっちゃんと付き合えて本当によかった。大好きだよ」
「俺も好きだよ」
いつものように愛が俺に抱き着いたところで携帯の着信音が鳴った。
それは俺の携帯ではなくて愛の携帯だった。
付き合って結構経つけど、愛の携帯に電話がかかってくるのは珍しい。
両親かな?
「知らない番号だ」
「なかなか切れないね」
セールス系の迷惑電話なら5コールぐらいで切れるのに愛の携帯にかかってきている着信はなり続けた
「出てみたら?迷惑電話だったらきればいいし。スピーカーにしてたら俺も一緒に聴けるし」
すぐ横に公園のベンチがあったので俺と愛はそこに腰をかけた
「そうだね」
愛は着信に出た
「もしもし」
「嶋野愛さんの携帯でお間違えないでしょうか?」
「はい」
「○○病院の○○と申します」
病院からの電話で少し嫌な予感がした
愛もそれを察したのか表情が硬くなる
「えっ」
「溝口なつきさんのお家に連絡させてもらったんですが、誰もいらっしゃらなくて溝口さんの携帯を開くて嶋野さんの携帯番号が一番上にあったのでかけさせてもらいました」
「はい。溝口なつきは私の祖母です」
「そうなんですね。それはよかったです」
「それで祖母に何かあったんでしょうか?」
「実は溝口さんは道で倒れているところを近所の方が発見して救急車を呼んで今○○病院に搬送されているんです」
「えっ。。。。」
愛の表情がなくなる
「嶋野さん」
「嶋野さん」
「嶋野さん」
「愛!!!」
「どうしたのみっちゃん?」
これはダメだ。突然のことで頭がまわっていない
たった一人のお祖母ちゃんが搬送された連絡がきて普通でいれるわけがない。
「すいません。嶋野愛ではないんですが俺が代わりに聴いてもいいでしょうか?」
「君は?」
「嶋野愛とお付き合いしているものです」
病院のスタッフの方は住協を理解したのか、そのまま話を続けた
「嶋野さんのご両親は?」
「日本にはいないといっていました」
「そうなんですね。とりあえず保険証をもってきてもらっていいでしょうか?」
「わかりました。ちなみに嶋野の祖母はどういった状況なんでしょうか?」
まずはこれを聞いておかないと状況が全く見えてこない
「検査をしてみないとわかりませんが、おそらく「脳梗塞」を起こしていると報告があがっています。ただ、軽度なのか重度なのかはこれから検査してみないとわかりません。それもこれからなので、とりあえず病院に来ていただけますか?」
「わかりました」




