54話
「それにしてもすごい人の数だな」
「そんなに有名な人が出演するのかな」
「う~ん。うちの学校に有名なバンドとかいたかな」
「まぁみていればわかるんじゃないかな」
「そうだね」
西村さんが言っていたように体育館には学校の生徒だけじゃなくて郊外の生徒もたくさんきていて、体育館の前の方は場所取りでごちゃごちゃになっていた。
生徒会の人たちが一生懸命誘導しているけど大変そうだ。
すると進行の生徒会役員の人が話し出した。
「みなさん、今日は青春祭にご来場いただき誠にありがとうございます。私たちが思っていた何倍もの方にご来場いただき驚きが隠せません。さて私の感想はこれぐらいにして、本日みなさんのお目当てのバンドは最近SNSなどで話題になっていた「freedom」というバンドですよね。実際このバンドがSNSで話題になり始めたのも文化祭が始まる1月前ぐらいで、私たち役員ですらfreedomが当校の生徒ということ以外は情報を知りません。唯一マネージャー的な生徒がすべての打ち合わせをし今日の出演という形になりました。なので実際誰が演奏して誰が歌っているのかは全くわからないので私たちも楽しみです。」
1月前ぐらいからSNS[でバズりだしたバンドを俺みたいに同級生を全くフォローしていないやつが知っているわけもないし、愛なんてSNSすらしていないといっていたので知るわけもなかった。
進行の役員の人が話しているときにすぐにSNSで検索してみるとすぐにヒットした。
全員動物の可愛い覆面をしている。イメージとしては「MAN WITH A MISSION」をもっと可愛くしたような感じだ。
どんな歌を歌うんだろう
「では早速歌ってもらいましょう。青春ライブ一発目のバンドはfreedomです」
体育館の照明が暗くなり、壇上の幕が上がった
幕が上がると同時に演奏がスタートした
一発目の曲はオタクが大好きで、オタク以外の人にもかなりの認知を得ている「God Knows」
いきなりの上げソングで会場のボルテージは一気に上がる。
本当に学園祭のライブなんだろうか
しかも歌がめちゃくちゃうまい。
なんかこの歌声聞き覚えがあるような
「みっちゃんみっちゃん」
「どうした???」
演奏の音量もあり愛の顔が予想よりも近くにあることに少しドキッとしてしまっているが、周りの目もあるので平常心を保っている。それにこの大きな声で話す感じが青春っぽいと思っている自分が少しキモイなと思った
「この歌声聞いたことがない?」
「俺もそう思った。多分というか確実に桐生さんだよね」
「私もそう思った」
愛も同じことを考えていた。
先日路上ライブの時に聞いた歌声とfreedomのボーカルの歌声は同じだった。
つい最近聞いたということもあるが、俺は桐生さんの路上ライブで泣いてしまった恥ずかしい経験すらあるので、俺の脳裏には桐生さんの歌声がしっかり刻み込まれているのだ。
それにしても覆面バンドのボーカルを桐生さんがしているのは意外でしかない。
あのビジュアルだったら顔だけでもファンがつくだろうし、普通の人気アーティストばりに売れるかもしれない。
そして最高のスタートダッシュをきったfreedomの1曲目が終わる
「みなさんこんにちはfreedomです。実際に活動して1ヶ月ぐらいしか経っていないのにこんなにたくさんの方が見に来てくれていて正直驚きでしかありません。SNSってすごいね」
ボーカル(多分桐生さん)が話し出した。
「ボーカルの人の声綺麗」
「やっぱり女の人だったんだ」
「ボーカルの歌が上手いのは知っていたけど、他のメンバーの演奏もすごくね」
確かにそれは俺も思った。
桐生さんの歌声が目立っていたけど、単純に他のメンバーの演奏もすごい。
本当にプロのバンドを聞いているような演奏だった。
おそらく他のメンバーも同じ学校の生徒なんだろうが、桐生さん以外のメンバーは流石にわからない。
「私たちは元々友達同士で、カラオケに遊びに行ったときにお互いの趣味があってバンドしちゃう?みたいな学生のノリで始まったバンドで、今回の文化祭のために集まったバンドなので今後の活動なんかはわからないんですが、今日のみんなの反応をみていたら続けるのもありなのかもね」
「でも高校生は忙しいからね」
「そんな現実聞きたくない」
「まぁ今後の活動に関してはこのライブが終わった後にでもみんなで話しますか」
「「だね」」
「じゃぁ2曲目いってみようか。次の曲はみんなが知っているモンゴル800の「小さな恋のうた」です。一緒に盛り上がりましょう」
桐生さんのMCが終わると同時に2曲目が始まった。
この曲もバンドの定番曲で盛り上がりがお約束されているような雰囲気で
会場のボルテージはもうひと段階上がった。
隣の愛をみてみると曲に合わせて体が揺れていて手も一緒に振ろうかなと思っているけど恥ずかしくてできない感じが非常に尊い。
俺もライブに来たときは手を振ったりするのに少し恥ずかしさがあるタイプで、ライブ会場で頭振っている人とかみたときは場違いなところにきてしまったと思ったぐらいだ。
2曲目もかなり盛り上がってfreedomのMCが始まる
「ふぅ。やっぱり人前で歌うって緊張するね」
「人生初めてのライブがまさかこんなたくさんの人の前になるなんて思っていなかったよね」
「動画もスタジオで人がいないところで撮っていたしね」
「普通のバンドだったらメンバー紹介すると思うんですが、私たちは顔も名前も出さないコンセプトなのでメンバー紹介はありません」
「えっあの人がドラムなんだとか思われたくないよね」
「私もベースがあの地味なやつかよって思われる自信しかない」
MCも自由な感じで3人で放課後話しているような雰囲気である。
でも、こんな雰囲気のバンドっていいな。
「このままゆっくり話しているのもいいけど、次のバンドの方々も控えているので、次で最後の曲です」
会場からは「えーっ」という声が飛び交う
「ありがとう。でもまたいつか機会があれば聞きに来てください」
小さく楽器の音が鳴りだす
会場の空気が少し変わる。
そして静かにボーカル(桐生さん)が話し出す。
「私たちの人生は私たちだけのものです。いろいろなことで悩んで傷ついて挫けそうになっても人生は続いていきます。私たちはいつだって選べます。今の時間を楽しい時間にするのか、なんとなく過ぎていく時間にするのか。この文化祭が思い出に残るイベントになるのか、振り返ったときに何も思い出せないイベントのなるのか選ぶことができます。私たちの演奏と歌がみなさんの思い出になれば嬉しいです。最後の曲はミセカイさんの「アオイハル」という曲です。この学校と同じ名前の曲なので、ぜひ今日のみなさんの人生の思い出に刻んでください」
先ほどまでの空気から一転して桐生さんのMCで会場は一気に静まり返った。
たった数秒~数分の話の中で中には泣いてる生徒もいる。
俺も桐生さんの言葉が声が胸にささっている。
今泣いている生徒も同じだと思う。
多分、これは桐生さんが持っているカリスマ性なんだと思う。
最初の盛り上がる曲から始まったライブが終盤には涙に変わる。
本当に桐生さんは天才なんだと思う
曲が終わり最後に
「上手くいないこともたくさんあるかもしれません。それでも勉強も恋愛も人間関係も全部全部頑張ってください。私たちも頑張ります。今日は本当にありがとうございました」
会場は大きな拍手の音につつまれた。
freedomのライブは大成功といっていいが、この後に出てくる人たち出てくるの大変だろうなと思った。
思った通り、その後の2組のバンドのライブはいまいちの盛り上がりだったのは言うまでもない。
「桐生さんの歌声ってやっぱりいいね」
「多分、俺も愛も桐生さんのファンなんだろうね」
「普段から私は歌っている人にはそこまで興味がないけど、桐生さんの歌はこれからも聴けたらなと思ったよ」
「また聞けるさ」
「みっちゃんと一緒にこのライブにこれたことが私の人生の思い出にちゃんと刻まれたよ」
「俺も愛とこの文化祭に一緒にいれた一日がちゃんと刻まれれているよ」
「次いこうか!!」
その振り返った時の満面の笑みを俺は一生忘れない
「愛好きだよ」
「へへへ。みっちゃんから言ってくれるのは初めてかも。私も好き!!」
いつもは照れくさくていわないセリフをいってしまったのは桐生さんに充てられたことにしておこう。




