52話
「青春祭を開催します」
放送部の開催宣言で、今年の青春祭が始まった
始まりと同時に学校でも話題性の高い嶋野愛をはじめとする顔面偏差値高めの女子の男装姿を拝みたいためか、俺たちのクラスには開始と同時にお客さんがたくさんきた。
俺たちのクラスの役割分担としては、女装姿の男子が接客をして、男装姿の女子がウエイトレスとしてご飯や飲み物の配膳をする。
もちろんオムライスにケチャップをかけるのは女装をした男子の仕事だ。
嶋野愛に簡単にオムライスにケチャップをかけてもらえると思ったら大間違いだ。
ここで間違ってはいけないのが、俺たちのクラスはカフェであって、メイド喫茶ではないのだ。だから「おかえりなさいませご主人様」的な挨拶はしなくていいののだ。
これに関しては我ながら最初にメイド喫茶と言わずカフェと提案した自分をほめたい。
「あれが噂の嶋野か」
「嶋野以外の女子のレベルも高いな」
「俺のところにきてくれないかな」
スタートと同時に並んでいるのは下心が表に出まくっている男子生徒たちだ
こんな男子生徒が多いからこそ接客は女装をした男子生徒なんだが
「いらっしゃいませお客様。ご注文はどうされますか?」
「はぁ。気持ち悪いな。女装した男子に興味はない。さっさと消えてあの子たちと代われ」
予想通りのリアクションだった。
ただ、ここまであからさまなのは逆に笑えてくる
「すいませんお客様。当店は女性が接客と決まっていますので」
「うるせぇな。そんな設定いいからさっさと代われって」
「これ以上文句を言うのであれば、強制的に退出していただくことになりますが、どうされますか?」
「こっちは客だぞ。やんのかてめぇ」
「お客様」
そこに入ってきたのは男装したさくらさんだった
「なんだお前」
「ルールを守れないゴミはいらないので消えてもらっていいですか?」
えっ。思った以上に口調こわ
「ゴミ!!って」
「はよ消えろゴミ」
さくらさんは顔は笑っているように見えるけど相対している男子生徒からしたら別の何かがみえているような怯え方をしている
「てめぇ。覚えてろよ」
「ありがとうございました」
男子生徒はさくらさんの圧に耐え切れず教室から出て行った。
でも、あの人たちって多分先輩だよね。大丈夫かな
「さくらさん気合はいっているね」
「当たり前じゃん。実行委員も含めてクラスのみんながこんなに苦労して作ってきたものをあんな人たちに壊されるのは許せない」
あっさくらさんの目が怖い。
敬都大変だったよね。とかいっていたけど実行委員のさくらさんが一番大変だったよね
「さくらさん頑張ろうね」
「うん。瑞樹もよろしくね」
さくらさんの切り替えの早さと怖さに内心恐ろしさを感じた
なんというか圧がすごい
多分よろしくねの裏には「手を抜かずに精一杯やれ」という言葉が聞こえているような気がする
「はい」
その後も不慣れな接客をこなしながらもなんとかクラス一丸とお客さんを捌いていた。
中にはからかってくる客も一部いる。
「お姉さん可愛いね」
「はぁ」
「女装している男子ってわかっているけどお姉さんタイプかも」
「えっと。。。ご注文はどうされますか」
午前中も終盤を迎えようとしていた時に俺は厄介なお客さんに当たっていた
男子生徒は俺の耳元で小さくささやいた
「俺どっちでもいけるんだよね」
ぞわっと全身に鳥肌がたった
確かに世の中には性別関係なしで好意を持てる人はいるというのはわかるが、まさかこのタイミングでその人に出くわすなんて思ってもいなかった
「ははは。それでご注文はどうされますか?」
「注文とかいいから。君の連絡先教えてくれないかな?」
「いやいや困りますよ」
これが文化祭で接客なんて関係なかったらダッシュで逃げているところだが、一応クラスでやっていることで俺がここで逃げると他のクラスメイトに矛先が向いてしまうかもしれない
「それにしてもいいお尻しているね」
「!!!!!!!」
男子生徒は迷わずに俺のお尻に手を当ててきた。
一瞬電車で痴漢にあう女性はこんな気持ちになっているのかと、痴漢撲滅してくれと本気で思った
流石にこれはやりすぎだと思い、キレようと思ったその時
俺のお尻に伸びた手を別の手が掴んだ
「お客様殺しますよ」
第一声にヤバい発言をしたのは俺の彼女の嶋野愛だった
「はっ?」
男子生徒も突然伸びてきた手。そこに立っている男装した美男子。そして美男子から発せられる怖い言葉に驚いている
「聞こえませんでした?お客様殺しますよ」
「聞こえてるけど、お前なんなん」
嶋野愛相手に逆に強気の姿勢の男子生徒。
「この人の彼女ですが何か?」
「お前が?」
「そうですが何か?」
「。。。。。」
愛の圧倒的な圧力に男子生徒は言葉が出なくなった
先ほどまでの勢いは完全になくなっている
「すみません」
「さっさと消えろ」
「はい。。。」
あれ。うちのクラスの男装した女子のコンセプトってこんなSっ気たっぷりな感じだったっけ?
「みっちゃん大丈夫だった?」
男子生徒が教室をでていくのを見送ると愛はいつもの愛に戻っていた
「大丈夫大丈夫。流石に鳥肌はやばかったけど」
「怖かったよね。よしよし」
「大丈夫だから。恥ずかしい」
「みっちゃんに触っていいのは私だけだから」
愛の声は周りの人にも聞こえていた。
多分、周りの生徒は皆「あいつに触れるのだけはやめておこう」と思っているはずだ
それから噂が回ったのか、その後俺に触れてくるような男子生徒はいなかった。
自分の接客で周りを見る余裕がなかったけど、後に聞いた話によると男装した女子に話しかける男子生徒を女子たちは冷たくあしらっていて、最終的にはそれ目当てでくる人たちも多かったらしい。
これも後に聞いた話だが、男装姿の女子の中に猫耳をつけためちゃくちゃ可愛い子がいたと話題になり、鏡さん目当てできている人たちもいたそうだ。
鏡さんはさくらさんとの約束で嫌々やらされていた分、かなり苦労していて昼休みには疲れ果てて一点をずっと見続けていたので、触れずにそっとしておくことにした。
まぁ確かに猫耳をつけた鏡さんは可愛い。




