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167話

音さんのライブの後、校長先生の話を聞いてオープンキャンパスが終わった

案内してくれたさくらさんと冬さんをはじめ、みなさんに挨拶をして私と雫ちゃんは帰宅した

帰り道二人と口数は少なく雫ちゃんも何かを考えているようだった

私も今日は足を運んで本当に良かったと思う。高校の魅力はさくらさんと冬さんがたくさん教えてくれた。先生たちも他の先輩たちもみんな優しくて楽しそうで。そしてお兄ちゃんと愛ちゃんの学校での目立ちぶりも驚いた。

さくらさんに話は聞いていたが、想像以上の目立ちっぷりっだった。

雫ちゃんがお兄ちゃんのことを陽キャと呼ぶのも普通だろう。

そして最後の音さんのライブが衝撃過ぎた。人生で初めてのライブだったけど、最初のライブが最高すぎて頭の中は音さんのライブでいっぱいだったし「かっこいい」と思えた

雫ちゃんと仲良くなりたくて始めたギターだったけど、もっと上手になりたいと思っている


「ヒーロー」...音さんが話していた言葉は私の心の奥にぐっときた。

私も変わりたいし変わらないといけないと思うし前に進みたいと思っていてもそれを止めている自分がいる。でも、私の前を歩いてくれているお兄ちゃんや愛ちゃん。そしてさくらさんたちも含めて私にとっては眩しかった。冬さんなんてあれだけ自分らしさを表に出していてかっこいいと思った。

確かに音さんが言っていたようにみんなは私にとってヒーローみたいな存在かもしれない


「ねぇ真紀」


雫ちゃんが急に話しかけてくる


「どうしたの?」


「音さんのライブすごかったね。私の頭の中は音さんでいっぱいだよ」


「そうなのかなぁと思っていたよ」


「みんな眩しかったね」


雫ちゃんが何を考えているかはわからないけど、きっと似たようなことを考えているのだろう


「そうだね」


「私、あの高校を受験してみようかな」


「えっ???それは音さんがいるから」


「それもあるけど、今日のステージに立っている音さんは本当に素敵で眩しかった。それで私考えていたんだけど、私も音さんみたいにステージを目指してみたいと思って。そだだったら音さんの後ろぐらいはついていけるんじゃないかなと思って。こんな動機で学校を決めるって変だよね」


「そんなことないよ!!私からしたら雫ちゃんも眩しいよ」


「そうかな,,,真紀はどうするの?」


「私は...」


「まぁまだ時間はあるし自分の将来のことだし」


そういって雫ちゃんは歩き出す

私はその場から歩けずにいた

変わりたい。前に進みたい。そんなことをずっと考えていた

でもそんなことをいくら考えても変われないし進めないことも自分の中でわかっている


「雫ちゃん」


「何?」


夕陽をバックに振り返った雫ちゃんはとてもキレイだなと思った


「変われるかな?私前のことがあって今は教室に雫ちゃんと2人で先生も優しくて居心地がいいのを自覚している。でも高校に入ったら別だと思う。新しい環境、新しいクラスメイト。また集団の中に入っていくことを考えたら怖くて足が竦んでしまう。こんな私が目指していいのかな。また途中で折れちゃうじゃないかな」


「大丈夫」


雫ちゃんはたった一言だけ返事をした


「大丈夫なのかな?」


「私は真紀じゃないから気持ちを全部わかってあげることはできない。でも変われるかなって考えていることが既に変わっているんじゃないかなと私は思う。きっと変わる気がない人も進む気がない人も身体と一緒に思考も止まっているんだと思う。前に父親のことは話したけど、あの人は酒におぼれた現状を変える気もなかったし、家族がバラバラになっているのを放置した。それは考えることすらしていないと思う。でも真紀は違うでしょ。変わりたいと思っているし、進みたいと思っている。それは思考は停止していない。私からしたらそんな難しく考える必要はなく真紀は進んでいると思う。」


「雫ちゃん...」


「前に聞いた話で何もしないは現状維持ではないって聞いたことがあるの。何もしないは現状マイナスで頑張って現状維持。たくさん頑張って現状より前に進む。それが人生なんだよ」


「何もしないは現状マイナス」


「うん。だから私からみた真紀は頑張って今の状態を維持している。でももう少し頑張れば現状維持が現状プラスになるかもしれないでしょ」


「頑張れるかな」


私が下を向くと雫ちゃんが後ろに回って私の背中を押す


「真紀がもう一歩踏み出したいけど踏み出せなくなっているなら私が背中を押してあげる。私が真紀にとってのヒーローになってあげる。だから大丈夫」


雫ちゃんが差し出した手を私はとる


「雫ちゃん。私も同じ高校を受験する」


その言葉を発した瞬間、私の中のモヤは晴れたような気がした。


「知ってる。真紀はきっと同じ高校を受験すると思っていた」


「そうなの?」


「だって学校を見ている真紀の目はキラキラしていた。あれは思考が止まっている人の目じゃない。ちゃんとこの学校に入ったらこんなことをしたいとかの先のことを考えている目だった。だから言ったでしょ。真紀はどうするの?って」


きっと雫ちゃんは私の考えていることをわかっていたのだろう

なんかもう大丈夫な気がしてきた。

友達ができた。

憧れができた。

先の楽しみができた。

今の私はさっきまでの私とは違うって胸を張って言える

不安はある。恐怖もある

でも大丈夫な気がする。

頑張れるかなじゃなくて頑張ろう。

歩けるかなじゃなく歩こう。

そしていつか私みたいに悩んでいる人のヒーローになれればいいなとちょっと思う

今の私にはおこがましいかもしれない。

自分のちょっと前を歩いている雫ちゃんの背中をみる。



「雫ちゃんありがとう」


「何が?」


「勇気と元気もらった」


「そっか。音さんに習って私が真紀のヒーローだよ」


「じゃぁいつか雫ちゃんのヒーローに私がなるから」


「大丈夫。もうなってるから...」

雫ちゃんは前を向いて何かを呟くが聞こえなかった


「何かいった?」


「何も言ってないよ。でも勉強しないとね」


「確かに」


このとき二人は自分たちの偏差値が合格ラインギリギリというのを知らなかったのだった




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