165話
昼ご飯を食べて今日のメインイベントの「freedom」のライブの時間になった。
最近音楽を始めた真紀も楽しみにしているし、黒崎さんはワクワクしているオーラがみえるような気がするぐらい楽しみしている
もちろん俺たちもみんな楽しみにしている。
それに黒崎さんにとっては驚かせてしまうことになるだろうな
そして体育館の照明が暗くなりステージがライトアップされる
前から思っていたが、この高校の設備は本当にすごい。
ドラマや映画でみるようなステージのライトワークである
freedomの登場ともに会場が沸き立つ
活動の最初から一貫してfreedomは顔を出していない
毎回覆面をかぶってライブをしている
文化祭の時期はかなり暑かったらしいが今は冬だから大丈夫だろう
そしてボーカルの人が話し出す
「みなさんお久しぶりです。そして中学生のみなさん初めましてfreedomです。よろしくお願いします」
体育館全体から歓声があがる
すごい人気っぷりだ。
文化祭の時期に動画を出してバズったのもあるが、あの文化祭のライブがその人気に拍車をかけて今もyoutubeにアップした動画は伸び続けているらしい
「歌う前に一つみなさんに報告があります」
ボーカルの言葉に体育館が静かになる
「私たちfreedomはこのライブを最後に解散します」
「....」
「えーーーーーーっ」
静かな体育館から悲鳴があがる
周りを見渡せば既に涙を流している方もいる
「みっちゃん知っていた?」
「いや、俺も初めて聞いた。でも桐生さんのことを考えるとこうなるだろうなと思っていた」
桐生さんがお父さんと約束を交わしたことを思い出す
「大学の4年間で結果を出せたら」
あの条件をクリアするためには高校生のうちに趣味でやっているバンドでは実現はできないだろう
おそらくこの解散は桐生さんの夢のための解散なんだと思う
「桐生さんかっこいいね」
「めちゃくちゃかっこいいよ」
そしてボーカルが話し出す
「急な話ですいません。元々私たちは高校生の思い出作りで文化祭のために結成したバンドでした。思っていた以上にみなさんに応援してもらってここまで先延ばししただけであって、決してマイナスな解散ではなくてポジティブな解散と受け取ってください。そして私たちはそれぞれの将来に向けて歩き出します」
ボーカルの人が覆面をとる
その下には路上ライブをしていたときのスタイルの帽子と眼鏡をかけた桐生さんが現れる
ライトの明るさも少し下げられてこちらからは誰かはわからない。
「えっ音さん?」
流石に黒崎さんは気づいたみたいだ
「お兄ちゃんあれって」
俺は真紀の質問に黙ってうなずく
「2人はそれぞれの進路に向かって歩き出しますが、私は「音」という名前で今後も活動していきます。
なので私は音楽を辞めないし、今後も歌っていきますのでよろしくお願いします」
体育館の中は静まり返っていた
いろいろと急展開すぎて言葉を失っている感じだ
「なんかめちゃくちゃやりずらくなってない?」
「そりゃこんなことライブ前に言われたびっくりするでしょ」
ベースとドラムの二人が場の雰囲気を変えるために話し出す
「だって音ちゃんがどうしても今日言いたいっていうから」
「えっ二人も今日がいいっていったでしょ」
「言ったかなぁ」
「普通に裏切られたんだけど」
体育館の雰囲気が少し和む
「時間も限られてしまうから歌った方がいいんじゃない?」
「確かに!!それではfreedomとして2曲。音として1曲やります。最後まで楽しんでください」
1曲目は定番のモンゴル800の小さな恋の歌だった。
突然の報告に動揺していた生徒たちも演奏が始まるとすぐにライブモードの切り替わった
曲が終わるころには先ほどまでの重い空気はなくなっていた
流石桐生さん
「ありがとうございました。次の曲は私たちが文化祭で歌ったミセカイさんのアオイハルという歌です。この学校の名前に親近感を覚えて私たちで決めました。しかもこのときのライブ映像がSNSでかなり反響をもらったみたいですごく感謝しています。ぜひ私たちfreedomの最期の曲なります。聞いてください」
freedomのアオイハルは本当に素敵だった
文化祭の時は桐生さんとも話したばかりで桐生さんのことも知らなかった
でも今は違う。あれから桐生さんの努力をみてきたし、桐生さんのこともたくさん知れた
そう考えた涙が出そうになるぐらい最高の演奏だった
歌い終わると体育館の中は鼻水をすする音があちこちから聞こえる
どこからが一流なのかはわからないが、歌でここまで人の感情を動かすことができる人のことを一流って呼ぶんではないかなと思った
「freedomでした。本当にありがとうございました」
3人は手を取り合って何かを話している
ベースとドラムの人たちは泣いているように見える
またその姿にファンの人たちは涙している
そして桐生さんをステージに残し2人はステージを後にする
体育館からは大きな拍手が鳴り響いた




