159話
人間は自分の想像の斜め上の出来事がおきたときに「無」になるんだなと思った
黒崎さんの過去は私が想像していた優しいエピソードではなかった。
ドラマや映画の中の出来事が現実でも起きているんだなと思わされる
私はよく「周りに恵まれている」と言われるが、本当にそうなんだと実感させられる。
こんなときに気の利いた言葉をかけてやるのが正解なのかもしれない。でも今の私が黒崎さんにかけれる言葉はきっとない
「ごめんなさい。気の利いた言葉を何も言えなくて」
「逆に気休め的な言葉をかけられるほうが少しイラってこない?」
「確かに。自分が想像していなかった角度の話だかったから驚きの方が大きかったかも」
「そうよね。私も自分のエピソードがすごすぎて物語ができそうだなと思ったもの。でもこの話をしたのは同年代で松岡が初めてよ」
「どうして私に?」
「どうしてだろうね。誰かに聞いてほしかったって思っていたのかもしれないけど、単純に音さんの路上ライブに誘ってくれたお礼って感じかな」
「全然釣り合っていないよ」
音さんのライブはお兄ちゃん達のおかげで私ではない
「私は「縁」という言葉はすごく大事だと思う。私とおじさんとおばさんを繋いでくれた縁。そして松岡と出会えたことで音さんのライブにいけた縁。偶然のようにみえることが必然のように思えてくる瞬間がたまにあるの。別に何か特別なことをしているわけではないし、すごいことをしているわけでもない。ただ生きている中でいつの間にかできている縁が未来で繋がる可能性もあるなと。もしかしたら私は松岡との縁を大事にしたいと思ったのかもしれないね。だから誰にも話していない過去を話した」
黒崎さんの言葉は私でもすごく腑に落ちた
私のお兄ちゃんが松岡瑞樹だから嶋野愛という素敵な女性と出会うことができた
もっといえばあの両親のもとにうまれることができたからできた縁がある。
いじめられたことは辛かったし、傷はこの先も残り続けるのかもしれない。
でもあの出来事があったから黒崎さんと今こうゆう時間を過ごすことができている
ネガティブにしか考えれなかったことも少し角度を変えればポジティブに変換することはできるかもしれない。
「今の黒崎さんの言葉すごくいいと思った。いつか黒崎さんの生きてきた時間を歌詞にしたら共感してくれる人多そう」
「それいいね。めっちゃすごい歌詞書けるかも」
「黒崎さん」
「何?」
「私この前の出来事から「友達」の定義って何なんだろうと思っていて、私が友達と思っていた人たちも私がいじめられているときは見て見ぬふりをしていた。自分たちの中で友達って関係性はすごく美化されているのかもしれないと思った。でもこの人と一緒にいたいと思うこの気持ちは大事にしたいと黒崎さんの言葉で思ったの。だからこれからも黒崎さんと仲良くいれたらいいなって」
「あんた真面目すぎ」
黒崎さんはいたずらっぽく笑った
「真面目かな」
「まぁ全部の内容は聞いていないけど、松岡の気持ち的に友達とかに慎重になってしまうのは仕方のないことだと思う。実際私も大人との距離感が難しいと思っているし。でも松岡をみていて思うのは、もっと気楽にいこうよって感じかな」
「気楽にいこう...」
「そうそう。友達の定義とかわからないじゃん。それこそAIに聞いたら教えてくれるかもしれないけど、一緒にいたいと思う人と一緒にいる。遊びたい人と遊ぶ。ごく普通のことをやればいいんじゃないかな」
この人の言葉はいつも正論だと思う
難しく考えずに気楽にいこうなんてあの出来事が起こる前の私だと考えることができていたのかもしれない。
「私は黒崎さんと今後も仲良くしたいな」
私は素直にそういった
「私も松岡とは楽しいから仲良くしようよ。それに黒崎じゃなくて雫でいいから」
「わかった。できるだけ名前で呼べるように頑張る。私のことも真紀でいいからね」
私たちはこの日確実に距離が縮まったんだと思う。
友達としての距離感や恋愛としての距離感は人それぞれだと思うし
近いからいいわけでもないし、遠いから悪いわけでもない
自分たちの距離を見つけていければいいなと思った
「それと」
雫が何かを思い出したかのように話し出す
「何?」
「音さんって真紀のお兄さんたちの知り合いなんでしょ。ならもしかしたらいつか紹介とかしてもらえないかなって」
「そのために私と仲良くしたいっていったの?」
「それもあるかも」
「雫って結構いい性格しているよね」
「よく言われる。でも裏表はあまりないと思っているよ」
「それは知っている。だから私も仲良くしたいと思ったから」
「わかってるじゃん」
「お兄ちゃんに聞いてみる」
「さっすが~~~」
久しぶりに同年代の人と話して楽しいと思った
ここから始めていこう。




