158話
私は普通の家庭で生まれて普通に育ってきたと思う。
それが小学生の高学年ぐらいになると少しずつ生活が変わってきた
父親の会社が務めていた会社が倒産して酒の量が増えていき母親との喧嘩の数も増えていった
私は仲のよかった両親に戻ってほしいと思って喧嘩をするたびに間に入って止めていた
しかし、子供の私に大人の喧嘩を止めるなんて力はなくて両親の中はどんどん悪くなっていった
中学生2年生になったころに母親が置手紙を残して家を出て行った。
私はその手紙をみつけて一生懸命家の近くを探し回った
何時間も探し回っていると、家からかなり離れたところで母親らしき人をみつけた
私は母親を見つけたと思って喜んで近づいていこうとした。
しかし、母親の隣には父親ではない男性がいた。
その時に子供ながら私は「母親に捨てられた」と理解した。
どうして私を連れて行ってくれなかったのだろう
私がもっといい子にしていれば連れて行ってくれのかな
そんなことを考えて泣きながら家に帰った
あの時の母親の顔は一生忘れないと思う。
家に帰った私を待っていたのは散らかった部屋と酒を飲んでいた父親だった
「お前どこにいっていたんだ」
私はいつから名前を呼ばれていないのだろう
いつから雫からお前に変わったのだろう
覚えていないや。
「お母さんを探しに」
「あいつはどこにいったんだ?」
「私も何も知らない。机の書置きをみただけだから」
「あんな女さっさと消えればいいんだよ」
その父親の言葉に私はカチンときた
「あんたのせいでおかしくなったんだろ」
気づけば私は生まれて初めて父親に怒鳴り声をあげた
父親は私の言葉に少し驚いた様子だったがすぐに反論してくる
「お前誰にいってんのかわかってんのか?ここまで誰のおかげで生活できたと思うんだ」
「今の自分の状況みていってんのか?ふざけるな。今のお前をみて感謝なんてするわけないだろう。仕事無くして酒に逃げて家族壊して。お前が消えろよ」
私は肩で息をしながら呼吸を整えながら顔をあげようとすると
何かが飛んできた
「いたっ」
私の頭にあたったのは父親が飲んでいた缶ビールの缶だった
しかも思い切り投げてきたのか私の額は少し切れて血が流れてきた
父親のほうをみると今までみたことがないほど怒りの目を私に向けてきた
その目をみて私は怖いと思った
「言わせておけばクソガキが。お前が消えろよ?だと。先にお前から消してやろうか」
それは実の娘に投げる言葉ではないのかもしれない
母親は他の男と逃げて、父親は私を殺しそうな目でみてくる
もう嫌だと心の底から思った。
このまま死ぬのもいいのかもしれないとも思った
でも逆にこのクソ両親たちに負けたと思うのが嫌になって私は外に逃げた
「待て!!」
父親は私をおいかけてきた
ただ現役中学生とアルコール依存症になっている父親では追いつかれるはずもなくて
私は近くの交番に逃げ込んだ
「助けてください。父親に殺されそうです」
額から血を流しながら靴も履かずに逃げてきた子供をみた警察はすぐに私の状況を察してくれたらしく
匿ってくれて、他の警察に応援を要請した
すぐに父親は警察に逮捕されてパトカーに乗せられた
パトカーに乗る前に私のことをみたあの目は、さっきよりも憎しみの色が濃くなっていて忘れることができない恐怖を私に植え付けた
それから私の元に児童相談所の職員がきてくれて私は保護されて施設に入った。
施設に入って2ヶ月ぐらい経つと父親の兄妹のおじさんとおばさんが私の身元引受人として立候補してくれて私は二人の元に身を置くことになった
2人は子供ができなくて昔から私のことを可愛がってくれていた。
お盆やお正月に祖父母のところにいくといつも私の隣にきてくれて楽しい話を聞かせてくれた
施設に二人がきてくたときのことを私は忘れることはないだろう
「雫ちゃん!!」
おばちゃんは私のことを強く強く抱きしめてくれた
私はあれから泣くことも笑うこともできていなかった
なんかどうでもよくなっていた
「ごめんね」
でもおばちゃんの言葉は冷え切っていた私の心を温めてくれた
その時に凍っていた溶けたかのように涙が零れる
「私のせいでお父さんととお母さんが」
わたしは小さい子供のように泣きじゃくった
「雫ちゃんのせいじゃない。絶対にあなたのせいではないから。もう大丈夫。これからは私たちと一緒に家族になりましょう」
その言葉に私は静かに頷いた
後ろからおじちゃんが頭を下げる
「弟の状況を見て見ぬしていた私にも兄として責任を感じている。雫ちゃん本当にごめん。でももう大丈夫だから。君が泣かなくても大丈夫な暮らしを私たちと一緒に作ろう」
何が正解で何が間違いなのかはわからない
みんな後悔を抱えながら生きているのかもしれない
それから私の新しい暮らしが始まった
二人は本当に私によくしてくれて私は何不自由なく暮らすことができている
でも、その何不自由がない環境にうしろめたさを感じることもある
だからバイトをやらせてほしいと二人にお願いした
おばちゃんは反対したがおじちゃんが「雫がやりたいようにやらせよう」といっておばちゃんも渋々納得してくれた
あんなことがあって中学には数か月通うことができなかったし通う気にもならなかった。
でも学校には通わないと二人に心配をかけてしまうと思い少しは登校しようと思ったが、今更クラスの中に入る気にもならなかった。
学校側は私の状況を理解してくれて保健室登校という選択肢をくれた
それでも学校に行くのはまちまちだったんだけど、ある日バイトの帰り道路上ライブをしている女性が目に留まった
その人は無名でSNSで検索しても名前はでてこない人だったけと歌も演奏もすごく上手だった。
私はそのライブをみてすぐに家に帰って私のバイト代をおばちゃんにもらって楽器屋さんに飛び込んだ
自分の持っているお金でかえる一番高いエレキギターを購入した
アコースティックギターは二人の騒音になるかもしれないと思ったから
ギターを持ち帰った私を二人はすごく嬉しそうに話を聞いてくれた
自分の中の何が変わったのかはわからない。でもあの歌をきいて何かが変わった
それから学校にも行くようになり先生に話をしたら
休み時間とかだったらギターの練習をしてもいいと言われたから
前よりも学校にいく頻度は増えた。
そして松岡が同じクラスにきてくれた




