155話
「真紀学校はどう?」
お母さんは晩御飯の時に毎回同じことを聞いてくる
仕方のないことだとはわかっていても毎日報告することの出来事はない
「普通、黒崎さんが今日はきてくれてお話しした」
「黒崎さん今日はきてくれたのね」
「うん」
黒崎さんのことは学校初日の日にちゃんと話した
正直私も黒崎さんのことはわかっていなくて謎な部分もたくさんあるし、きっと何か事情を持っているのもわかるけど、お互い深いところまでは踏み込まないようなこの空気感が気をつかわずによかったりする
お母さんとしては私が同級生と話しているのが嬉しいのか、黒崎さんのことを話すと笑顔になっているような気がする
「そういえば、今日は黒崎さんエレキギターもってきてたんだよね」
「黒崎さんバンドか何かしているの?」
正面ご飯食べているお兄ちゃんが話に入ってくる
「バンドをしているとかではないみたい。ただ外歩いていた時にみかけたら路上ライブをみてそのまま楽器を買いにいったっていっていた」
「真紀ちゃんはやってみたいと思わない?」
次は隣にいる愛ちゃんが話に入ってくる
「かっこいいとは思うけど、まず私ギターとか弾いたことがないから」
「ギターなら友達が予備もっているから借りれると思うよ」
愛ちゃんが「友達」というワードを出すのは珍しいと思ったけど、お兄ちゃんも特に気にした様子がないから普通なんだろう
でも興味があるってほどでもないなぁって考えていると
「真紀がギターを持っていけば黒崎さんと共通の話題ができるから少しは楽しくなるかもしれないよ」
「それは確かに...」
ギターの話をしたときの黒崎さんのテンションは爆上がりになっていた
もし、私がギターをもっていったらどんな反応するかな
喜んでくれるかな。少しは仲良くなれるかな
友達は勝手にできるものではないと思う。みんな同じクラスだからとか話したことがあるからとかですぐに友達認定しまうところがある。私もその一人だった。
友達という定義はひとそれぞれかもしれないけど、少なくとも私の中の友達の定義はあの出来事でちょっと変わったのは事実だと思う。
だから黒崎さんに対してもどう接していいのかわからない部分はある。でもギターの話をしているときの黒崎さんは嬉しそうだったから、あの顔をもう一度みれたらなとは思う
「じぁぁ一回借りてみようかな」
私の言葉に愛ちゃんはすぐに頷いて
携帯でその友達に連絡をする
そしてすぐに返事がくる
「大丈夫だって」
「はやっ」
次の日には愛ちゃんがギターを背負って帰ってきた
ギターを背負っている愛ちゃんが絵になりすぎて、既にメガヒットしているバンドマンにしか見えなかった。
「これはエレキギターだからチューニング?とかもわかりずらいかもしれないけど、それも黒崎さんに教えてもらったほうがいいかもしれないね」
「ありがとう」
私はその日の夜にギターを手に取って弾いてみる
もったときの感想はかっこいいよりも重いのほうが強かった
携帯で「ギター 初心者」という動画をみてCというコードを引いてみる
すごく難しい....
改めてバンド系の動画をみているとがギターを弾いている人の手の動きが気持ち悪いぐらいすごくて驚いた
元々はみんな私みたいに初心者のところから本当にやり込んでいけばあんなになれるんだと思うと奥が深いなと思った
次の日早速ギターを背負って学校にいってみる
熊谷先生は最初驚いた様子だったが、状況を察したのかギターには何も触れなかった
黒崎さんはまだ学校にはきていなかった。
今日は来るのかわからない。連絡先を交換しているわけではないし登校も決まった曜日にきているわけではないので変にそわそわしてしまう
2時間目の時間で教室のドアが開く
黒崎さんが投稿した
「おはよう黒崎さん」
「どうも。ってその横のあるものは何?」
黒崎さんは眠そうな目を一気に見開いて私の隣に立てかけているギターに視線を送る
お兄ちゃん、愛ちゃんありがとう
「黒崎さんのことを家で話したらお兄ちゃんの友達のギターを貸してくれたの。せっかくなら黒崎さんと一緒にやってみたいなと思って」
「あんた可愛いわね」
「そんなことないよ」
「まぁそれはいいとして。みせてみせて」
黒崎んは目を光らせて借りたギターを触ってみる
「これ結構高いやつだよ。そんなギターを貸してくれるってお兄さんの友達何者?」
「私もわからないんだよね。正確にはお兄ちゃんの彼女の友達みたいな感じなのかな」
「そうなんだね。弾いてみていい?」
「いいよ」
嬉しそうにギターを触って
「弦抑えやすい」
「音が綺麗」
「かっこいい」
1人でギターの感想を話している
自分の世界に没頭している感じだ
私はそんな黒崎さんをみていると嬉しくなる
「松岡もギター興味出てきた?」
「えっ」
「何驚いた表情しているのよ」
「だって今松岡って言ってくれたから」
「確かに私は同級生を名前で呼ぶことがまずないから気にしていなかったけど。迷惑」
「全然!!むしろ名字でも名前でも呼んでくれていいから」
「じゃぁ松岡で」
「うん」
自分の名前を呼んでくれる同級生の存在がこんなに嬉しいとは思わなかった。
少しは私も前に進めているのかな




