150話
夜のBBQは以前とはちょっと雰囲気は違っていたけど松岡家としては久しぶりの楽しい時間になったと思う。
改めて実感する。一度起きてしまったことをなかったことにはできない。
母さんも父さんも真紀に対して気を使っているように見えるし、真紀もそれそ察して頑張って笑顔を作ろうとしている。
俺も前と同じようにやっているつもりだが、実際は前と同じではないんだと思う。
いじめは残酷だ。人の人生を大きく左右させてしまうほどの出来事なんだ。
そんなことを考えると少し外を散歩したくなった
「アイス食べたくなったから買ってくるけどいる?」
「私もいく」
愛が俺の隣に立つ
「じぁぁお願い」
母さんが俺たちにアイス代をくれる
「了解」
俺たちが玄関で靴を履いていると
「お兄ちゃん、私もいっていい?」
後ろには真紀が立っていた
「お菓子は2つまでだぞ」
「いつまでも子供扱いするなし」
「風邪引かないように上着は来て来いよ」
「わかった」
今の俺はちゃんとできているだろうか
真紀に気を遣わせてしまっていないだろうか
隣をみると俺の顔をみて愛がニヤニヤしていた
「なんで笑っているのかな」
「みっちゃんが真紀ちゃんに優しいなと思って」
「普通だよ」
「ふふふ。そうだね」
真紀の準備が終わって俺たちは近所のコンビニまで歩いた
ふと途中に公園のブランコが目に入った。
ここの公園から今回の件は始まったんだ。
外は暗くなっており街灯の灯りしかない公園に1人真紀はブランコに座っていた。
あの姿を思い出すだけで怒りがまた込み上げてくる
「お兄ちゃん、公園寄っていい?」
「いいよ」
真紀はまっすぐあの時のブランコに向かって腰を下ろした
「あのときお兄ちゃんと愛ちゃんが通りかかってくれてよかった」
真紀は静かに話し始めた
「私の視界は真っ暗だった。自分がなんのために生きているのかわからなくなっていた。もう全部が嫌って思っていた時にお兄ちゃんが私の名前を呼んでくれた。その声に私の視界は少しだけ晴れた。今回の件、お兄ちゃんと愛ちゃんにはたくさん迷惑をかけてたくさん助けてもらった。本当にありがとう」」
真紀は俺と愛に頭を下げた
その姿に少しだけ心が痛んだ
「真紀は何も悪くない。迷惑はかけていいんだ。だって俺は真紀の兄なんだから。家族が困っていたら助ける。そんなの当たり前のことなんだ。気にしなくていい」
「真紀ちゃん。私もみっちゃんと同じだよ。迷惑なんて思っていないよ。私は兄弟姉妹がいないから真紀ちゃんの存在は本当の妹みたいに思っている。私に甘えてくれる真紀ちゃんが好き。私に甘えさせてくれる真紀ちゃんが好き。いつの間にか私の好きはみっちゃんへ向ける気持ちだけじゃなくなっている。そんな大好きな真紀ちゃんを私が助けたいと思うのは至極当然のことなんだよ。あと真紀ちゃんは私は義妹になるんだし。私は真紀ちゃんには笑ってほしいと思っているだけなんだよ」
「お兄ちゃん、愛ちゃん...」
「ただ、現実問題として俺も愛も傍にいれるのは限界があるし、前に進むかどうかは真紀次第になってしまうのはあると思う...」
最後の方は声が小さくなった
真紀にとって今後学校にいけるのかどうかは微妙なところだと思う
怖いだろうし、誰も助けてくれなかったクラスメイトのところに戻りたくもないだろうし
「それはわかっている。みんなが頑張ってくれて私だけ頑張らないなんて嫌だ。ちゃんと前に進みたい。でも、前みたいに学校に通うのは正直怖い」
「無理しなくていいと思うよ」
「わかっている。でもここで無理しなかったら私はずっと前に進めなくなってしまう。だから保健室に通わせてもらおうかなと思う。もしかすると卒業までの数か月間クラスに戻ることはできないかもしれない。それでも何年後からに振り返った時にあの時学校に行かなかったという記憶よりも保健室でも学校に通ったという記憶の方が絶対にいいと思うから。学校に行く、行かないというよりは負けなかったという記憶を大事にしたい」
真紀は本当に強いと思った
俺は真紀の頭に手を置く
「無理はするなよ」
隣から愛が真紀を抱きしめる
「真紀ちゃんなら大丈夫だよ。私たちがついているから」
決して学校にいかないから負けというわけでもないし、学校にいったから偉いというわけではないと思う。
「過去は変えられないけど未来は変えることができる」
この言葉は頭では理解していても行動できていない人がほとんどだ。
真紀は未来のために今行動しようとしている。
それなら俺たちができることは背中を押してあげるだけだ
「母さんも父さんも俺も愛も真紀が決めたことを全力で応援するだけだから」
「うん」
「ならアイス買いに行こうか。お菓子3つ買ってあげるよ。母さんには内緒だけど」
「だから子供扱いしないでって」
「じゃぁいらない?」
「いる....」
「よろしい」
「みっちゃん、私もお菓子食べたい」
「愛がお菓子って珍しいね」
「なんか今日は食べたいんだよ。真紀ちゃんが好きなお菓子を私も食べる」
「いいよ。一緒に選ぼう」
「うん」
愛と真紀が手を繋いで前を歩く
それを俺は少し後ろから見守る
真紀が笑っている。それだけで今回の件は一件落着といっていいのかもしれない。
でも大事なのはこれからだ。
「私たちが教室の前についたときにあなたの声はちゃんと聞こえていた。本当は怖かったでしょ。相手はこの辺では有名な病院の院長に学校の教師があれだけいたら17歳のあなたがどれけの覚悟と勇気をもってあの場に立っていたのかは想像ぐらいはできる。それに愛に聞いていたとおりあなたは自分に対しての評価が低いとこだけが欠点ね。もっと自信を持ちなさい。解決したから偉いわけではない。妹のために立ち上がってあの場で戦ったのが偉いのよ。今回の件でもわかるように頑張っても頑張ってもどうあがいても覆せない盤面は存在する。それでも戦う姿勢を持っている人を私は無能だとは思わない。あなたはうちの娘にふさわしい男の子よ。だからもっと胸を張りなさい。あなたの背中をみている人がいる。あなたの戦う姿に勇気をもらう人は必ずいるから」
奈央さんに言われた言葉が頭に残る
自分でも今回の件はいつもよりは戦えたと思う。
今思えば自分じゃないみたいに大人に食らいついていた
「自己評価が低くて自信がない」
本当にその通りだと思う。
でも今回の件で実感したこともある。
自己評価が低いとか自信がないとかは戦わない理由にはならないこと
自分の中で今回の件はこのままではだめだということを突き付けられた出来事になった
今前を歩ている2人の笑顔を守りたい
俺の身近にいる人たちが困っていたら支えになれるようになりたい
真紀は俺たちのおかげだといったが、俺からしたら真紀の言葉に勇気をもらっている。
一番辛い思いをした妹があんなに前を向こうとしているなら兄の俺が立ち止まるわけにはいかない。
後悔はすると思うが、できるだけ後悔を減らせるようにできることをしよう。
「お兄ちゃんおいていくよ」
「みっちゃんはやく~~」
「ごめんごめん。今行くよ」
今はいろいろ考えるのはやめよう。
アイス食べて家に帰って明日からまた考えればいいか
久しぶりに食べたガリガリ君は思っていた以上に冷たくてかたくて、熱くなっていた頭を冷やしてくれた




