147話
愛のお母さんが教室を出ていき、その後ろを愛がついていく。
松岡家も同じように教室を後にした。
立ち会ってくれた俺たちの担任は教室に残って今後のことを中学校側と話すということで別れた
愛のお母さんが言った通りひとまず一件落着なのかもしれない。
正直途中までどう転ぶのかわからなかったし、俺たちの方が圧倒的に不利だった。
それを愛のお母さんの登場で全ての盤面がひっくり返って本来の着地するべきところに着地した感じなのかもしれない
「奈央さん」
母さんが愛のお母さんを呼び止める
奈央さんっていうんだ。
振り返った愛のお母さんはちょっと固い表情をしていた
「ありがとう」
母さんは愛のお母さんの手を取り涙を流しながらお礼を伝えた
「奈央さんがきてくれなかったら正直どうなるのかわからなかった。だから本当に来てくれてありがとう」
「真奈さん顔をあげて。こうやって面と向かって会うのは初めてだけど、私がやりたくてやったことだから。松岡家のみなさんには娘が本当にお世話になっています。だから今回の件で少しでも恩が返せたのなら嬉しいです」
俺の思っていた愛のお母さん像が全く違うものになっていた。
「愛ちゃんには僕たちもたくさんのものをもらっているんです。僕からもお礼を言わせてください。本当にありがとうございました」
「そんなに改まってお礼を言われると恥ずかしいのでもう大丈夫です」
「やっぱり愛ちゃんのお母さんだなと思います」
そういわれる奈央さんは少し照れているように見えた
奈央さんは真紀のところに近寄って頭の上に手を置いた
「真紀ちゃん、本当に頑張ったわね。あなたの話は愛から全部聞いたよ。一人で頑張ったあなたを尊敬する。今すぐに前に進もうとしても上手に歩くことはできないかもしれない。でも大丈夫。あなたは勇気のある女の子だからきっと前に進むことができると私は思う」
奈央さんの優しい言葉は真紀の心に届いたのか真紀の目からは涙が止まらなくなっていた
それを奈央さんは優しく抱きしめてあげた
「私はこれからまた仕事で海外に飛ぶので改めて松岡家にはご挨拶にいかせてもらいます」
切替が早いし、また今から海外に行くの?と思ってしまったが
それが奈央さんの性格なんだろう
「真奈さん」
「はい?」
「みっちゃん借りていい?」
母さんは一度俺の方をみたが
「どうぞどうぞ」
「ありがとう。それじぁいくわよ。愛も一緒に来なさい」
「はい」
俺たちは奈央さんに連れられて迎えに待たせてた車に乗った
行先を尋ねると空港にいくらしい
しかも車はリムジンような車で席はむかいあっている
備え付けの冷蔵庫から飲み物を取り出して俺たちにもくれる
金持ちのyoutuberがやっているのをみたことがあるが本当に実在していたとは...
改めてお礼を伝える
「改めてありがとうございました。父さんたちもいっていましたが愛のお母さんがきてくれていなかったら本当にダメだったかもしれません」
「奈央でいいわ。もうお礼は十分受け取ったから言わなくていいの」
「わかりました。一つお聞きしていいでしょうか?」
「いいわよ」
「柳沢の母親の不倫と亀井の未成年との交際の情報はどうやって手に入れたんですか?」
正直あれがなかったらあの二人の心を折ることができなかったかもしれない。
おそらく今頃柳沢の両親は話し合いがされているころで亀井の話は教育委員会の方に伝わっているだろう
「世の中には優秀な探偵みたいな人は実在するのよ。ちゃんとそれに見合ったお金を支払えば」
「でも私がお母さんに電話してから1週間ぐらいしか経っていないよね?」
「それは簡単な話で今回の相手は初心者で隠すことが上手ではなかったのとたまたまこの1週間でそれぞれが決定的な証拠を出してくれたからでこれに関しては運がよかったとしか言えないわ。まぁ探偵3人ぐらい雇っていたからどちらにしても何からのボロは出せたと思うけど」
3人?さっき見合ったお金ともいっていたけどいくらぐらいかかったのだろうと思ったが、流石に聞ける話でもなかった
「まぁそれはもう解決したからいいとして。私もあなたにお礼をいいたかったの」
「俺にですか?」
「まず愛の傍にいてくれてありがとう。母が倒れた時もそうだし私はずっと愛の傍にはいなかった名ばかりの母親だと思っている。実際海外にばかりいっていて子育ては全部母任せになっていた。そんな愛から電話がきて、ここまでの道中で自分の娘がこんなに立派になっていたんだなと改めて実感して、それはきっとあなたと出会ってから愛が変わったからだと思うの。今までは私がたまに帰っても自分から話してくることはなかったし私も自分から話していなかったと思う。そんな愛が一目みただけで明るくなっているほど変わっていた。これはきっとあなたとの出会いと松岡家との出会い、他にも愛が変わるきっかけがたくさんあったからだと思う。だからありがとう」
奈央さんは俺に頭を下げる
「頭をあげてください。本当に俺なんか全然ダメなんです。愛のことを助けるよりも愛に助けてもらっていることの方が確実に多いです。今回の件もどこかで自分が解決してやると意気込んでましたが結果は全然で....」
俺は下を向いて拳を強く握りしめ歯を食いしばる
本当に自分は何もできなかった
「そんなことないわ。だから顔をあげなさい」
その言葉に顔をあげる
奈央さんの表情は愛とすごく似ていた
「私たちが教室の前についたときにあなたの声はちゃんと聞こえていた。本当は怖かったでしょ。相手はこの辺では有名な病院の院長に学校の教師があれだけいたら17歳のあなたがどれけの覚悟と勇気をもってあの場に立っていたのかは想像ぐらいはできる。それに愛に聞いていたとおりあなたは自分に対しての評価が低いとこだけが欠点ね。もっと自信を持ちなさい。解決したから偉いわけではない。妹のために立ち上がってあの場で戦ったのが偉いのよ。今回の件でもわかるように頑張っても頑張ってもどうあがいても覆せない盤面は存在する。それでも戦う姿勢を持っている人を私は無能だとは思わない。あなたはうちの娘にふさわしい男の子よ。だからもっと胸を張りなさい。あなたの背中をみている人がいる。あなたの戦う姿に勇気をもらう人は必ずいるから」
俺は奈央さんの言った通り本当に怖かった
あの時大人に向かって声を発するのも震える手を握りしめていた
でもどれだけ自分が戦っても何も変わらなかった
その現実に何度も押しつぶされそうになっていた