143話
電話をかけるとすぐに着信は通話状態になった
「もしもし、お母さん」
「あなたから電話をかけてくるなんて珍しいじゃない」
私が電話をかけた先は夏祭りの日に電話した以来の実の母だった。
「急にごめんなさい。ちょっとお願いがあって」
「忙しいから手短にして。お祖母ちゃんのこと?お金のこと?生活費なら毎月ちゃんと振り込んでいるでしょ」
このそっけない感じは私たちのいつもの日常である
みっちゃんのお祖母ちゃんの家で真奈さんと話したことを思い出す
「これは私の意見だけど、奈央さんは不器用なんだと思う」
「母はなんでも結果を残している器用な人だと思います」
「そうだね。仕事に関しては結果を残されているし、実際に海外で仕事をして毎月ちゃんとしたお金を振り込んでいる時点で立派なんだと思う。でも私が言っている「不器用」は子育てに関してよ。仕事と子育ては全く別物といっていい。仕事が完璧にできている人が子育てを完璧にできるかは別の話。前に聞いたことがあるけど、保育士さんって子供を育てるプロみたいに見えているけど、自分の子供を育てるのは別らしいわ。私もそう思う。子供の数だけ子育てしている人がいる。子育ての情報も数えきれいないぐらいある。でも正解はないの」
「正解がない?」
「もし絶対に成功する方法があればその方法を親は全員すればいい。でもそうならないのはなんでかわかる?」
「わからないです」
「それは子供は一人一人性格も違うし考えていることも違うからよ。こうしたらうまくいく。こうしたらうまくいかないは子供によって違う。だから私たち親は考えて子育てしないといけない。でも誰しもがいい方向にばかり行けるわけではないと思う。奈央さんはそういった意味で不器用で上手ではないと私は思っている」
「そうですかね」
「まぁこれはあくまで私の考えだから、いつか奈央さんが帰ってきたらうちに呼んでみんなでご飯を食べましょう」
「はい」
お母さんが不器用かどうかは全然わからない。
私のイメージの中のお母さんとは真逆だと思うから。
でも私も真奈さんにそう言われるまでお母さんのことを勝手に決めつけていた部分があるのは事実で、お母さんが私に近づかないから私もお母さんに極力近づかないようにお互いが距離を取りあっていたからこそ私たちの関係はこんなに離れてしまったのかもしれない。
だからちゃんと向き合う
緊張しながらも言葉を口にする
「私はお母さんとどう距離をとっていいのか正直わからなかった。お母さんは私のことを褒めてくれないし家に帰ってきたと思ったらすぐに仕事に行ってしまうし。ずっと一緒にいてくれたのはお祖母ちゃんだけだったから」
「わざわざそんなことを言うために電話してきたの?」
お母さんの声は少しいらだっているように聞こえた
私は続ける
「でもみっちゃんと付き合って、松岡家のみんなと一緒にいるようになって私自信もお母さんから逃げていたなと思うの。これからはちゃんとお母さんの考えていることを知りたいし、ちゃんと会話をしていきたいと思っている」
「そう...」
「そして今回はお母さんにお願いがあって電話しました」
「お願い?」
「みっちゃんたち松岡家を助けるのを手伝ってほしい」
「....話しなさい」
少しの間のあと、私が電話してきた理由を察したのかお母さんは話を聞いてくれる態度になってくれた
形はどうあれ、こんなに会話が続いたのはいつ以来だろうと思いながらも状況を話した
「天王寺?って○○病院の院長をしている?」
「うん。この辺じゃかなり有名な人らしいね」
「なるほど...それなら私にも手を貸せることがあるかもしれないわね。松岡さんにはお世話になっているし、あなたのこともいつも真奈さんから連絡をもらっているからどうお礼をすればいいかと考えていたところだったからちょうどいいかも」
「手伝ってくれるの?」
私は予想以上にお母さんが協力的で驚いていた
「私のことをなんだと思っているの?」
「頭の中仕事でいっぱいの母親」
「くっ...いうようになったわね」
「私もお祖母ちゃんの後ろに隠れている子供じゃないんだよ。高校2年生になったんだから」
「そうよね。もう17歳になったのよね」
最初尖っていたお母さんの口調も話しているうちに少しずつ柔らかくなっている気がした。
確かに「不器用」というのはそうなのかもしれない。
というよりは私も似たようなものだなと思った
「でもお母さん海外なんだよね?」
お母さんは海外で仕事をしている。
だから年を通して日本に帰ってくるのは数回程度
「そうね。松岡さんたちが学校に呼び出されるのはいつぐらいになりそう?」
「おそらく1週間以内には」
「わかった。それまでに日程を調整して日本に戻るわ」
「本当に帰ってくるの?」
「だから私をなんだと思っているの?」
「娘をお祖母ちゃんに預けて海外にいってしまう母親」
「帰る理由が1つ増えたわ。母親として今までなにもしてこなかったのは事実だけど、帰ってから母親らしい説教をしてやることに決めた」
「へへへ。お母さんそんな冗談いうんだ」
「ふんっ。そんなことない」
もしかしたらお母さんって可愛いかもしれないと思い始めていた。
「考えがあるの?」
「ある」
お母さんは完全に言い切った。
その言葉の強さに私は安心感を覚えていた
最後に主犯の女子と担任の教師のことを調べて連絡するようにと言われて電話を切った。
私はそのあと真奈さん主犯の女子の名前と担任の教師の名前をみっちゃんに聞いてからお母さんに連絡した
「了解」とだけ返事がきた
お母さんが何を考えているのかはわからない。
でもお母さんの言葉には信じるに値する強さがあった。
この件が終わったらちゃんとお母さんと話そう。