142話
自分たちがやったことに対して後悔はない。
ただ、馬鹿な私でもこのまま終わることはないだろうと思っていた
それが、まさかの形でみっちゃんを襲った。
天王寺の父親の病院と俊哉さんの会社が大きい取引をしていたらしい。
大元の病院の院長の子供を殴ったとなれば俊哉さんの方にもなにかあったのだろう。
それを知ったみっちゃんは玄関を出ていった。
同じタイミングで俊哉さんも帰宅した
すれ違った時のみっちゃんの顔をみた俊哉さんはすぐに状況を察した
真奈さんも俊哉さんも内容は全て話さなかったし、私に対しても「責任を感じる必要はない。むしろ私たちは愛ちゃんの行動に感謝している」と言ってくれた。
本当にこの人たちのことが私は好きだなと思った。
「瑞樹のことお願いしていい?」
真奈さんは少し泣きそうな顔でそういった
「もちろんです」
「私たちが今行くのはきっと悪手になってしまうと思う。あの子は責任感が強い。だから俊哉君も瑞樹には話すのをためらっていた。きっとあの子はもっとうまくやれたとか自分の行動のせいで...なんて考えていると思う。でも私たちは愛ちゃんにも言った通り全く責任を感じる必要はないと思っている」
「わかっています。昔の話はみっちゃんに聞いていますが、あの時と今は全然違います」
「そうよね。あの子ももう高校生だからね」
「そうじゃないんです。今は私がいます」
そういって私は上着を羽織って外に出た。
みっちゃんがどっちの方向に歩いて行ったのかはわからない
すると俊哉さんが玄関から出てきた
「愛ちゃん、多分瑞樹はこっちの奥の河川敷にいると思う」
「わかりました」
「ごめんね。うちの問題に巻き込んでしまって」
俊哉さんはいつもよりも少し弱弱しく私に謝った
「謝らないでください。むしろ巻き込んでください。私はいっぱい松岡家を巻き込んでいるし、これぐらいさせてもらわないと逆に困ります」
「ははは。ありがとう」
「じぁぁいってきます」
「いってらっしゃい」
そう言われて俊哉さんに言われた場所に行くとみっちゃんが座って空を見ていた
その背中はいつもよりも小さくて今すぐにでも抱きしめてあげたくなった
「みっちゃん」
私は後ろからみっちゃんを呼ぶ
みっちゃんは静かに振り返り私の顔をみて驚いた。
その顔がいつもよりも幼く見えて愛おしくなった
「愛...どうして?」
「真奈さんと俊哉さんからみっちゃんことをお願いされたからだよ。それに私がお風呂からあがってきたときにちょうどみっちゃんが玄関から外にでていたのが見えたから」
「そっか...」
私はみっちゃんの隣の腰を下ろす
周りは静かで風に揺れる草の音と川の流れる音だけが聞こえてくる
この空間に私たちしかいないような気持になる
みっちゃんは何も言わない
「2人に話は聞いたよ。私たちのやったことで俊哉さんに迷惑かけちゃったね」
「何も考えなかった俺の責任だよ」
やっぱりみっちゃんは責任を感じていた
こんな部分も好きなんだけどね
でももう少し責任を私にもわけてほしいとは思う
「でも俊哉さんは全然怒っていなくてね。むしろみっちゃんに謝ってほしいって言っていたよ」
「父さんも母さんも俺のことを攻めることはしない。俺たちが間違っていたとも思えない。ただもっとうまくやれたんじゃないかと思う。俺がもっとうまくやれなかったせいで今よりももっと真紀を傷つけてしまうかもしれないと考えたら自分の行動を後悔してしまう」
「私はみっちゃんのやったことが間違いだと思えない。出会ってからずっと近くでみてきたけど、みっちゃんはいつもちゃんと考えて行動している。それは私にはできないことだよ」
「それは愛が俺のことを過大評価しているだけだよ。俺は間違わないように安全な道を選んでいるだけ」
過大評価じゃない。みっちゃんは逆に自分を過小評価しているんだよ
「むしろ私の方が間違いばかりだよ。みっちゃんはもっとうまくやれたと後悔しているかもしれないけど、私はもっともっと真紀ちゃんの力になりたいけど今のところ何もできてない。あの女にしたことは一切後悔していないけど」
「俺も愛と一緒だよ」
また沈黙が流れる
私は今のみっちゃんにぴったりな言葉を思い出した
「前にね携帯を見ていたら有名なサッカー選手が言っていた言葉がすごく印象的だったんだ」
「どんな言葉?」
「終わってしまったことに泣くのではなく、起きたことに笑おう」
本当にいい言葉だなと思った。
この言葉を伝えるとみっちゃんの目からは涙が流れていた
「あれっ...」
「今回の件はみっちゃんも私も後悔はしてない。でも俊哉さんに迷惑をかけてしまったことは私たちの責任だと思う。それは認める。みっちゃんにとって自分の行動で誰かに迷惑をかけることに責任を感じていることも理解している。でも中学生の時のみっちゃんと今のみっちゃんは違う。まだ何も終わっていないよ」
「愛...」
私は気持ちを言葉にするのが上手ではないし苦手な方である
でもそれは昔の嶋野愛であって今の嶋野愛は違う
「前にみっちゃんが夏祭りの時にいってくれた言葉を覚えている?」
伝えたいことを伝えれるようになったんだよ
「みっちゃんは私に「居続ける」って言ってくれたね。あの時私はその言葉がただ嬉しくてちゃんと返事していなかったと思うの。だから今返事をするね」
みっちゃんの前にしゃがみ目があう
「みっちゃんが私に居続けるといってくれた言葉が本当に嬉しかった。私にとってお祖母ちゃんはそれだけ大きな存在でそのお祖母ちゃんがいなくなると思ったら私の頭の中は孤独しかなかった。でもみっちゃんが私に言ってくれた言葉のおかげで私はまた前をみて歩けるようになった。次は私の番だよ。私もみっちゃんと居続けるよ。中学の時に一度折れてしまったかもしれないけど、今度は私が支える。みっちゃんが下を向きそうになったら私が顔をあげてあげる。だから大丈夫。終わってしまったことはどうにもできないけど、起きたことを笑えるようにまだ頑張れることがあると思うから」
みっちゃんは下を向いてしまう
きっと泣いているのだろう
「私はみっちゃんの傍からいなくならない。みっちゃんは真面目だから将来のことみたいな曖昧なことを口にしないけど、私の中の未来では隣にはみっちゃんがいるんだよ。これから先みっちゃんが間違ったとしても一緒に考えよう。でも私が間違いそうになったらちゃんと止めてね。1人だったらできないことも2人だったらどうにかなるかもしれない。それに私たちには松岡家のみんなもさくらや中村たちもいる。今のみっちゃんは絶対に1人じゃないんだよ。それはみっちゃんが作り上げてきた絆や友情なのかもしれない。付き合う前の私はこんなに1人じゃないのが心強いなんて知らなかったよ。みっちゃんと付き合ってから私も変われている」
私は手を差し出す
「みっちゃんはちゃんと立ち上がれる」
みっちゃんの手を握るとぐっと立ち上げる
そしてみっちゃんと目が合う
すごく優しい笑顔でこっちをみていた
「情けない姿見せてごめん」
「みっちゃんのこんな姿みれるのなんて貴重だから逆にご褒美かも」
「なにそれ」
みっちゃんは少し笑ってくれた
私はその顔をみて安心した
「うわっ」
みっちゃんは立ち上がると少しよろける
私はすぐに身体を支えてくれる
「ありがとう」
「言ったでしょ。支えるって」
「ありがとう」
帰り道、私は自分にできることを考えていた
何度も何度も考えたが私にできることはないのが現実だった
真紀ちゃんの隣にいることはできても直接助けることはできない
それが一番もどかしかった。
ただ、1つだけできることがあるかもしれないと思っていた。
不確定要素すぎて松岡家には話していないし、実際にどうなるのかわからない。
でもみっちゃんも真紀ちゃんもみんな戦っている。
私がここで踏みとどまる理由はなかった。
「みっちゃん、ちょっと電話したいところがあるから先に帰っていて」
「わかった」
理由を聞かずにみっちゃんは先に帰ってくれた
私はある人に電話をかけた