140話
私は何をやっているんだ
大事にしたくないと思って耐えた結果、家族に迷惑をかけてしまっている
今の時間だってそうだ、亀井の言い分は明らかにおかしいし、天王寺と柳沢は絶対に非を認めない。
そこに対して一生懸命お父さんもお兄ちゃんも立ち向かっている。
特に普段感情を表に出さないお兄ちゃんがここまで感情をむき出しにして大人に立ち向かっている。
それなのに私は...私は上を向くこともできずずっと俯いてしまっている
「真紀ちゃんちょっと待って」
あの日からずっと愛ちゃんは私の傍にいてくれた。
それがどれだけ心強かったのか、自分が折れずにすんだのは家族の存在と愛ちゃんの存在があったからこそである。
私は一度立ち止まり振り返る
「大丈夫だから」
愛ちゃんは私の手を握る
「うん...」
「みっちゃんの背中をみてごらん。私はいつもあの背中をみるようにしている。みっちゃんは自分に対する自己評価は低いけど、私よりもちょっと前を歩いてくれる。真紀ちゃんにとってもきっとそうだと思う。もし怖くて下を向いてしまったらみっちゃんの背中をみてごらん」
私はその言葉を思い出して顔をあげるとそこには天王寺のお父さんや亀井に向かって一歩を引かずに戦っているお兄ちゃんの背中があった。
改めて私は何をしているんだと自分が情けなくて情けなくて涙が出そうになる。
でも泣いている暇なんかない。みんなが戦ってくれている。なら私も戦いたい。
震える手を握るがすぐに怖くて力が入らなくなる。
きっとこれが今の私なんだろう
肝心な時に立ち上がる力さえないただの臆病者....
また下を向きかけていると隣から私の手に同じぐらいの大きさのが手が私の手を握ってくれる
「お母さん...」
お父さんとお兄ちゃんが前にでて話している間ずっと口を閉じていたお母さんが私の顔をみて微笑んだ
「大丈夫だよ」
一言だけそういってくれた
私の顔は下を向く前にまた前をみた
「私に虚言癖や妄想癖はありません....」
声の音量は小さかったが、確かに自分の口から話すことができた
突然私が話したのに多少なりの驚きがあったのか、周りのみんなが一瞬無言になる
「やっと話したと思ったら虚言癖や妄想癖はありません?そんなの自分ではいくらでもいえるよな」
天王寺と柳沢が頷く
「私はそこにいる天王寺くんに学校で告白されて断りました。その断ったのが気に入らなかったのか天王寺くんのことが好きだったのか柳沢さんから嫌がらせを受けるようになりました」
ずっと話さない自分に安心していたのか、天王寺くんは少し焦っているように見えるし、柳沢さんは明らかに機嫌が悪くなっている
「ほう。うちの息子が君に告白をして断られたから君にいじめをしたといいたいのかね?」
天王寺のお父さんは怒気を込めて私に圧をかけてくる
怖い。
私はみんなの顔をみる
お父さんとお母さんとお兄ちゃんが私に大丈夫っていってくれている気がした
それが私の力になる
「正直天王寺くんがいじめに加担していたのはお兄ちゃんに聞くまで知りませんでした。柳沢さんは最初から私に対して悪意をもって接していました」
「な、なにをいっているかわからないな。お父さん。松岡がいっていることを全部でまかせです。さっき先生も言っていた通り妄想癖か虚言癖でこんなことを言っているんです」
「私も何をいっているかわかりません」
「校長先生、ちゃんと調べてください。クラスの人たちも見ていました。ちゃんと動いてくれれば証拠は出てくるはずです」
「そんな言われても、君の言葉だけで学校側としても動けないのはわかるよね?しかも担任の亀井先生がこういっているんだ」
「校長先生、うちのクラスはそんな問題は全く抱えていないので調べる必要なんてないです」
「もういいでしょう。校長先生、この件に関しては兄の方は高校を退学という形で落としどころをみつければこの件も一件落着ですし、松岡さんはうちの病院と付き合いがあるんですよね。ここは穏便に終わらせておく方があなたのためにもなると思うんですよ。もしそれでも向かってくるなら私も決断を下さないといけなくなります。私も立場がありますので事が大きくなることは本望ではありません。まぁ一応娘さんの精神状態を考慮して病院代ぐらいは出してあげてもいいですが」
「天王寺さん、この件を適当に終わらせようとしていますが、私は父親として一切ひくきはありません。確かに私の会社はあなたの病院とお付き合いがあります。でもそれがここでひく理由にはなりません。私の立場?そのぐらいの理不尽は甘んじて受け入れましょう。あなたが会社に言って首になるならそれは本望です。自分の地位や名誉を守るために娘を守れない父親になるつもりなんてありません」
お父さんはまっすぐ天王寺のお父さんに反論する
「俺もそうです。退学にするなりご勝手にどうぞ。絶対におまえらふたりのことは許さない。何があってもお前らのやったことを証明して絶対に罪を償ってもらう」
結局私のせいでお父さんとお兄ちゃんは大事なものを失ってしまう。
私が立ち上がったところで潮目が変わるわけもなかったんだ
頭が悪い私でもわかる。
きっとこの状況は私たちでは変えることができない
大きい権力が相手だとこうなってしまうのは必然のことなのかもしれないと前を向いていた顔はまた下を向きそうになる
「あなたがベタ惚れするだけあるわね。ちゃんとかっこいいじゃない」
「えっ」
ノックもせずに誰かが入ってきた