136話
山田さんにラーメンを奢ってもらった日の夜、俺と愛は家に帰宅して事の詳細を父さんと母さんに話した。
真紀は部屋にいたので今回起きたことは言わないでおいた。
父さんも母さんも少し驚いていた様子だったが特に深くは言われなかった。
少しは怒られるかもしれないと構えていた俺としては拍子抜けみたいな感じになっていた
ただ、最後に父さんの顔が少し強張っているような気がしていたが父さんはいつも先のことを考えているから何か考えているのだろうと思った。
あと今の真紀にこれ以上ストレスを抱えさせるのは良くないということになり真紀には言わない方向性で話がまとまった
それから2日間真紀の学校からの連絡もなく、天王寺の息子や主犯の女子からも何もなかった。
なんとなくこのまま何もなく過ぎ去るのかなと思ったりもしたが、正直自分の行動に後悔はないが手を出した部分に少し罪悪感を感じていたのは事実だったがあの二人が去り際に言い残した言葉が
「あんたたち絶対にこの報いを受けてもらうからね。いこう天王寺くん」
「そうだね。天王寺家の子供にこんなことをして許されるとは思うなよ」
あの言葉が頭の中から離れずにいた。
愛に対してもこれで終わりにならないからといったのはこの言葉があったからだ。
だからこそ構えている部分はあるが、何も起きないならそれはそれでいいと思っていた
「真紀と愛ちゃん一緒にお風呂に入っておいで」
あの日以来、愛と真紀は一緒にお風呂に入る頻度があがっている
愛にとっては真紀は本当の妹のように可愛がっており、真紀も愛を本当の姉のように慕っている。
それに真紀も愛には自分の思っていることを少しずつ話してくれる。
確かに俺も自分の家族に胸の内を話すのは抵抗があるのは理解できるから俺も母さんも愛に任せている部分もある。
真紀は少しずつだ元気を取り戻しているように見えるが前に比べるとまだ表情も暗さが残っているし、学校にも戻れるのかは今の段階ではわからない
「そういえば父さんは今日も遅いの?」
この2日間父さんは夜が遅い
夜が遅いことは珍しいことではないが最近はいつも以上に遅いような気がする
「なんか忙しいみたいよ」
母さんの表情は笑っているようだが少し堅いよう気がした
「本当に?」
俺は思わず母さんに聞き返してしまう
母さんは一瞬「しまった」みたいな顔をしたがすぐに洗い物をしている手に視線を落とす
「何が?」
「父さんはただ忙しくて帰りが遅いの?」
「俊哉くんが遅いのはいつものことじゃない」
今の母さんはいつもよりも嘘をつくのが上手ではない
真紀の件が起きてから一生懸命「普通」を演じているがところどころ疲れた表情が見えていた
母さんは一度深呼吸をして
「ダメダメね」
と一言呟いた
「俊哉くんには瑞樹と愛ちゃんには黙っていてって言われたの」
「何を?」
母さんは隠すことを諦めて話してくれた
「瑞樹は俊哉くんの仕事をどこまで知っている?」
「大きい会社の会社員ってことぐらいかな」
仕事の内容を一度聞いたことがあるが正直わからなくて、大手の会社員という認識だけは持っていた
「そう。俊哉くんが働いている会社はこの辺でもかなり大手に入る会社で社員数も多いし、その中で俊哉くんは役職もちの結構すごい人なの」
「そうなんだ」
大きい会社というのは知っていたが母さんがここまで褒めるということは本当に大手の会社なのだろう
「それでその大手の俊哉くんが働いている会社の取引先は病院関係なの」
「病院関係...」
その言葉に母さんと父さんが俺たちに話さなかった理由を察したような気がした
言わなかったのではなく言えなかったのだろう
「察しのいい瑞樹ならなんとなくわかると思うけど、俊哉くんの会社と今回の天王寺さんは働いている病院は大きい取引をしている会社なの」
その言葉に自分の中で「またやってしまった...」と思ってしまった
俺は下を向いて唇を噛みしめる
「そんなに責任を感じなくていいから。私も俊哉くんも瑞樹と愛ちゃんがしてくれた行動を攻めようなんて全く思っていない。だから瑞樹には言わないでいいって俊哉くんは判断したし。逆にこれぐらい大人の私たちが解決しないといけない。だって悪いのはあなたたちじゃなくて真紀を傷つけた人たちだから。瑞樹も愛ちゃんも真紀のために動いてくれたんだから、あとは私たちに任せていいの」
そういって母さんは俺の頭を撫でてくれた
母さんと父さんの気持ちは痛いほどわかる。
ただ、俺はもっとうまくやれたんだと思う。
俺は静かに玄関の方に向かった
「こんな時間にどこにいくの?」
今は夜10時。確かに外に出る時間ではないかもしれない
それでも俺は外に出て少し考えたかった
「ちょっと散歩にいってくる」
俺が靴を履いていると
玄関から父さんがいつもよりも疲れた顔で帰ってきた
その顔をみたときに自然に口から「ごめん」とでてきた
「えっ」
父さんは急な謝罪に変な声がでたが、俺はその先の言葉を聞かずに外に出た
外の街燈の灯りしかないこの夜の空気が嫌いじゃない。
1人で考えるときは昼より夜の方がきっといい。
だってこんな情けない顔を人にみせなくいいから
俺は一人近くの川が見えるところに腰を下ろす
ふと上を見ると綺麗な星が見えて目から涙が零れた