132話
「解決は難しいとは言ったけど、妹さんは一つポジティブな要素があるとしたら瑞樹に公園で見つけてもらって家族みんなにこのこを共有できたことじゃないかなと思う」
「それはポジティブなことなんですか?」
「俺はそう思うぞ。だってもし誰にも話せないままいたら、もしかしたら最悪の場合だって考えれるのが今の世の中だ」
その最悪なことが何を指しているのかはすぐにわかった。
あの時の公園にいた真紀が誰にも見つけられていなかったらと思うと、身体全体に鳥肌が走った。
鏡越しに見える愛の表情も硬くなっているのがわかる
「俺たちには何ができますかね」
「事を大きくせずに妹さんが今まで通り学校に通う...」
結局はここで思考が止まってしまって前に進めなくなる
「ある意味空気を読まないことが状況が動くのかもしれないな」
山田さんはぼそっと小さい声でつぶやいた
「空気を読まない?」
「さっき俺は空気を読むことでいじめは悪化するといったけど、逆に考えれば空気を読まないことをすれば変わるかもなと思ったけど、ごめん具体的にこれっていう考えがあるわけではないんだけど」
「それって私がその女をボコボコにしたら解決するってこと?」
後ろで話を聞いていた愛が前のめりで話し出した
「ボコボコって。瑞樹の彼女パワフルだね」
「はい。この件に関しては抑えるのが必至で」
「大変だな」
「はい...]
「なんか私が問題児みたいになっている」
「...」
「なにか言ってよ」
ちょっとだけ空気が和んだ
「でも具体的な解決方法をここで言えない俺は本当に頼りにならないとは思うけど、もし考え事をしているときに行き詰ってしまったら、物事を逆に考えてみるのはいいと思うぞ。さっきみたいに空気を読むからいじめが悪化するなら空気を読まなければ違った答えがでるかもしれない。正しい答えがないからこそ予想もしていない角度から解決することもあるかもしれないって思うから」
頼りにならないなんて全く思わない。
この30分の中の話はとても濃くて何か前に進めそうな気がしていた
そして話しているうちに俺の髪の毛はさっぱりしていた。
あんな濃い話をしながらも山田さんの手は動いていたのを俺は尊敬の目でみていた。
「山田さんと話せてよかったです」
「それならよかった。髪の毛はどんな感じだ?俺の匙加減で切ったけど」
「めちゃくちゃいいです」
「みっちゃんかっこいいよ!!」
「ありがとう」
「彼女さんにも喜んでもらえたならよかった。また何かあったら連絡してくれていいから。力になれるかわからないけど、いつでも協力するから」
「ありがとうございます。また何かあれば連絡させてもらいます」
「おう。そういえば敬都はあの子とどうなった?」
「あの子?」
「前に彼女さんと一緒に来てくれた子」
山田さんはさくらさんのことを言っているのだろう
確かに職場体験の時にそんな話をしていたような気がする
「敬都とさくらさんは何もないですね。ただ敬都は別のこといい感じになっているみたいです」
「まぢか!!あいつにも久々会いたいな。今度髪切りにこいっていっててくれ」
「わかりました。ちゃんと言っておきます」
「そういえば二人とも今日の夜ご飯緒の予定はある?」
「今日は特に予定はなく家で食べるって感じですね。どうしてですか?」
「いや、なんだかんだ強引に髪切らせてもらったなと思ったし、深い話してお腹すいたからラーメンでも食べていかなかなと思って」
山田さんは少し遠慮気味に俺たちのことを誘ってくれた。
まぁ日頃からご飯を食べに行っている仲でもないからこそ遠慮気味になっているのかもしれない。
「行きます!!」
「みっちゃんがいくなら私もいく」
「よしきた!!それじゃ今から片付けするからちょっと待っててくれ」
「まだ18時ですが閉めて大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。個人店の特権だよ」
「それなら大丈夫です。山田さんの奢りでよかったですか?」
「みっちゃん。流石に高校生にお金を出させる山田さんじゃないよ」
「お前たち...それを面と向かって言えるところがいい根性しているな。でもそんぐらい図々しいぐらいが年下は可愛いんだけどな」
山田さんだからこそ気さくに話せるんだけどとは言わなかった。
多分調子に乗ると思ったから。
それから山田さんの片づけが終わるまでお店の中で待たせてもらった
少し時間があり、愛がセット面に座って俺が美容師役をしたりした。
ちょっと鏡に映る自分が美容師っぽくみえていいかもと思った。
それにしても愛の髪の毛はサラサラできれいだなと改めて再確認した。