126話
柳沢さんの言う通り、あの日を境にいじめは少しづつエスカレートしていった。
最初は仲間外れから始まり、教科書を隠されたり、私以外でグループラインが作られているという話も聞いた。
元々友達が多かったわけではないが、仲のいい友達はいた。
でもその仲のよかった友達達も一人ずつ私から離れていった。
「どうして私の味方をしてくれないの?」と思いはしたが、もし私の味方をしたことで次は自分がいじめられるかもしれないと考えたら仕方のないことかもしれない。
これがもし愛ちゃんだったら「周りの目なんて関係ない」って私の傍にいてくれたかもしれない。
大人に頼ることも考えはしたが、担任は最初の日の対応で信頼におけないとわかってからは頼らないようにしている。他の先生に頼ることも考えたが、最初に担任に言われた通り大ごとにして親には迷惑をかけたくないと思って頼れずにいた。
そんなことを考えながら私は家ではいじめられている生徒でいながら家では普通に過ごしていた。
家族はみんな私の状況を知らないから、普通に接してくれていた。
だから私も自分を保つことができていたのかもしれない。
しかし、1週間が経ち2週間が経ち3週間目に入ろうとしてい頃には私の心は少しずつすり減っていた。
自分のことを弱いと思っていなかったけど、実際に自分がこんな状況に置かれると「自分は強くないんだ」と思い始めて思考がネガティブに寄ってきていた。
それでも負けたくない気持ちもあり、折れずに休まず過ごしていた。
3週間目に入ったころには柳沢さんたちのいじめは悪質になっていた
最初掃除箱などに隠されていた教科書はゴミ捨て場に置かれていたり、ノートには落書きをされていたり、体操服は濡らされていた。
昼ごはんの時間は教室にいるのが辛くて急いでご飯を食べてトイレに座っていた。
ここ1週間ぐらいはこれを繰り返していた。
昼休みいっぱいトイレに座って、昼休みが終わると教室に戻る。
今日もいつものように昼ご飯を食べてトイレに座っていると...
「あいつ、昼ごはん食べた後ここにいるらしいよ」
「トイレにずっといるってキモイな」
「あいつなんか臭うなと思っていた」
「もう学校こなければいいのに」
柳沢さんと取り巻き二人は私がこのトイレの個室に入っていることを知りながら話していた。
私はその話に反応せずに無言を貫いた
「松岡いるんでしょ」
柳沢さんがトイレを叩く
それでも私は無言を貫く。
ここで反応すると柳沢さんたちの思うつぼのような気がしたから
「なにシカとぶっこいてんだよ」
ドンッ!!
誰かがトイレを思いっきり蹴った
びくっ。
私は初めてその音に「怖い」と思ってしまった...
どうして私がこんな目に合わないといけないの。
天王寺くんの告白をOKすればよかったの?
なにが正解でなにが間違いなの?
わからない。わからない。
誰か助けて。
限りなく心が折れかけようとしていたときに
頭に何かがかかったような気がした
「えっ?」
私が上を見上げるとそこにホースが伸びてきていた
ヤバいと思ったと同時にホースから水が出てきた
「冷たい。やめて」
無言を貫いていた私も流石に声を出してしまった
「やっぱそこにいるじゃん」
「ねぇやりすぎなんじゃない?」
取り巻きの一人が柳沢さんに尋ねる
「大丈夫。この後掃除の時間だから少し水浸しになっていてもおかしくないでしょ」
「でも先生に言われたら」
「それも大丈夫でしょ。先生には言わないね?言ったらどうるかわかっているよね?」
柳沢さんはさらにおどしをかけてくる
私は「はい」とだけ返事した
「私に対して調子に乗るからこうなるんだよ。いくよ」
そういって柳沢さんたちはトイレを去っていった。
私はトイレを開けて外に出て手洗い場の鏡に映る自分をみた
顔も髪の毛も制服もびしょ濡れになっていて本当に自分がいじめられているんだと思い知らされる気分だった。
パキッ
鏡をみていると私の中の何かが割れたような気がした。
「もう嫌だ」
気づけば私はカバンも取らずに学校を逃げるように後にした。
どこにいけばいいのかもわからないし、濡れた制服のせいで身体の体温は下がり震えていた。
でもこのまま家に帰ってもみんなに心配をかけてしまう。
そんなことを考えていると公園のブランコから動くことができずにいた。
今頃学校ではどうなっているのかな?
私が突然いなくなって騒ぎになっているのかな?
いや私なんかでそんなことにはならないか。
あ~あ。これからどうしようかな?
お母さんとお父さんになんて説明しよう。
変に言い訳しても二人とも頭がいいから私がついた嘘なんてすぐにわかっちゃうんだろうな。
昔から私はお兄ちゃんの後ろをついて回っていた
今考えたら私が後ろにいて邪魔だっただろうな。
でもお兄ちゃんは私のことを遠ざけるようなことをしたことがない。
鬱陶しいみたいな態度を取りつつ私の歩幅に合わせて歩いてくれる。
一緒に買いだしにいったときも私がわがままいってお菓子買いたいといったときも
「母さんには内緒だぞ」といって結局買ってくれる甘いお兄ちゃんだ。
私が言うのは自惚れだと思うが、お兄ちゃんは私のことが好きなんだと思う。
だからお母さんとお父さんと同じぐらいお兄ちゃんにもばれたくないと思っている。
あのお節介の心配性はこのことを知れば変に考え込むかもしれない。
「真紀!!」
あ~なんでこんなタイミングで来ちゃうのかな
その心配そうに私の名前を呼ぶ声に涙が出そうになる
「お兄ちゃん...」
私はそう口にしていた
「こんな時間になにしているんだ?」
「お兄ちゃん...」
お兄ちゃんは私の恰好をみて驚きを隠せずにいる。
後ろにいる愛ちゃんは怒りの表情をしていた
最初からちゃんと頼っていればここまでこじれずに傷つかずに済んだのかもしれない
それに気づいたときには私の心も身体も冷え切っていた
お兄ちゃんは私の状況を把握して静かに抱きしめてくれた
「大丈夫だから。もう兄ちゃんがいるから」
その言葉の温かさとお兄ちゃんの腕の中の温かさに私の我慢していたものが崩壊した
「お兄ちゃん」
私は大声で泣いていた。
それをお兄ちゃんは「大丈夫」「大丈夫」と何度も声をかけてれくていた。