124話
「松岡さん、急に呼び出してごめんね」
「大丈夫だよ天王寺くん」
少しの沈黙が流れる。
ただ、私も馬鹿ではない。
放課後男子に呼び出される理由はなんとなく理解していた
「まぁこんなところに呼び出しているから話の内容は予想はできているかもしれないけど」
「うん」
「俺、松岡さんのことが好きなんだ」
「うん」
「だから付き合ってくれないかな」
今までも告白されたことはある
正直私は恋愛に興味がないんだと思う。
お兄ちゃんと愛ちゃんを見ていて楽しそうと思うことはあるけど、それはあくまであの二人だからこその空気であって私が同じようにできるとは限らない
それに普段からお父さんやちょっと大人びたお兄ちゃんをみてきたから同級生の子たちが幼くみえてしまってなおさら付き合うとかに興味がなくなっていた
今回も今までと同じように断ればいいだけだが、ちょっと問題がある。
今目の前にいる男の子は天王寺武蔵くんと言って簡単に言えばクラスの人気者だ。
身長は中学3年生で170センチを超えておりスタイルもいい。
テレビの中にいたとしても遜色ないぐらいのイケメンだ。
学校で天王寺くんのことをかっこいいといっている女の子は多い。
それに親はお医者さんらしくお金持ちらしい。
でもお金持ちを表に出さないし、無駄にかっこつけないところから一部では「王子」とまで言われているらしい。
ここまで人気の男の子に告白されている私はおかしいのかもしれない。
だって全然ドキドキしないん。
これが現実だ。
ここで気を使って付き合うという選択肢もないとは言わないが、好きでもない人と付き合うなんて天王寺くんに対して失礼だと思う。
「ごめんなさい」
私は天王寺くんに向かって頭を下げた
顔をあげると天王寺くんも振られると思っていなかったのか表情がかたくなっていた。
「好きな人がいるの?」
「いないよ。でも今恋愛とかに興味がなくて」
私は思ったことをそのまま口にする。
「今後俺に興味を持つ可能性は?」
「それはわからないけど、今の私は天王寺くんと恋愛するって考えはないです」
「そっか...」
「ごめんなさい」
私はその場を後にする。
告白される経験は初めてではないにしろ、毎回断った後の気まずさは苦手だ。
友達と恋人の境界線は曖昧だと思う。
告白する前までは友達だった関係性でも告白してOKされたら恋人になる。
その境目は返事1つで変わってしまう。
しかも返事はOKかNOの2択でしかない。
相手の気持ちがわかっているうえでの告白は成功率があがるかもしれないが、相手の気持ちがわからない状態での告白は断れる可能性も高い。
お兄ちゃんと愛ちゃんの付き合った経緯を聞いたことがあるが、あれは本当に稀な例である。
まるで漫画の中の主人公とヒロインみたいな付き合い方だ。
私の中では告白はリスクが高いものだと思っている。
だから天王寺くんみたいに告白する側の人たちの勇気は素直に尊敬する。
ただ、それでも気持ちに応えることができないのは申し訳ないなとも思う。
こうして私の放課後のイベントは終わった。
明日から天王寺くんと顔を合わせたら少し気まずいなと思いながら帰宅した。
次の日学校に行くと下駄箱に手紙が入っていた
昨日の今日でまた告白?と思いながら手紙を開いた。
「今日の放課後裏庭で待っています」
宛名は書かれていなかった。
誰が書いたものかはわからないし、もし間違えて私の下駄箱に入れた可能性も考えたが
私は放課後指定された場所に足を運んだ。
どんな人がいるのかなと内心ドキドキしながらたどり着くと
そこには同じクラスの柳沢加恋という同じクラスの女子のリーダーと傍にはいつも一緒にいる2人の女性生徒がいた。
その3人をみた瞬間私はこの場に呼び出された理由がわかったような気がした。
確か柳沢さんは天王寺くんのことが好きだったはず。
そんな話をしているのを聞いたことがある
「あんたここに呼ばれた理由わかっている?」
柳沢さんは怒気がこもった声と表情でそう口にした
「全然わからない」
少しはわかっているけど確証がない私はそう返事をした
「はぁ?あんたが天王寺くんの告白を断ったから天王寺くんかなりショックうけていたのよ」
やっぱり天王寺くんのことだったか
「それは天王寺くんに申し訳ないかもしれないけど。私は天王寺くんのことを恋愛対象としてみていないから告白を断るのは普通のことじゃないかな?」
「あんた本当にむかつくわね」
柳沢さんの怒気が高まったような気がした
「それに柳沢さんとしても私が告白を断ったのは都合がいいんじゃないの?」
「!!??」
柳沢さんの顔が真っ赤になった
私は自分の発した言葉に少し後悔した。
少し言い過ぎたかもしれない
「他に話がないなら私は帰るけどいいかな?」
「そう。あんたはそんな感じなのね」
「そんな感じとは?」
「あくまで自分は悪くないと」
「告白を断ったことは悪いことではないと思うよ。好きでもないのに受け入れるほうが悪いと思う」
「あんたの考えは理解した。さっさと帰っていいわよ」
「わかった。さよなら」
私が振り返ろうとしたときに柳沢さんの表情が少しニヤッとしたような気がしたが、気にせずに私はその場を後にした。
これで落ち着くかなと思ったが、これは終わりではなく始まりだったのをこの時の私は知らなかった。