121話
ライブが終わってからみんなのところにいくと、さくらさんが私を抱きしめてくれた
「天音ちゃんすごくよかったよ」
「あ、ありがとう」
他のみんなも同じように私のことを褒めてくれた
「みっちゃん泣いていたよね」
「それは...まぁちょっとだけ泣いてしまったかな。てか愛も泣いていたでしょ」
「だって桐生さんの想いが詰まっている気がしたから」
「それはなんか恥ずかしいな」
「違うの?」
「そうです」
「よかった」
最近嶋野さんのペースから抜け出せなくなっている気がする
「ほらもう泣かないの」
「姉さんたち泣きすぎだよ」
「えっ」
後ろの方をみると中村くんと冬くんのお姉さんたちが泣き崩れていた
「だってぇぇぇぇぇ」
「確かに桐生さんの歌は泣けるけど泣きすぎでしょ」
鏡さんが中村くんの背中をさすっている。
この二人既に付き合っているように見えるな
「冬くんのお友達の歌すごいね。私のゲスな心が浄化されたような気がする」
「それは秋野ちゃんの周りがゲスっている人が多いだけでしょ。でも本当に桐生さんの歌よかったよ」
確か春香さんの方が妹で秋野さんがお姉さんって聞いてたような気がするけど、今見ている感じだと逆にみえるのは気のせいかな
それからいっときみんなに褒められまくってから私は家に帰宅した。
「ただいま」
「おかえり」
お父さんが私を出迎えてくれた。お母さんはキッチンで夜ご飯の準備をしていた
「天音、そこに座りなさい」
私はお父さんの真面目な顔に少し緩みかけていた気が引き締まる
それに続いてお母さんもお父さんの隣に腰を下ろす
「お母さん、お父さん。これが今の私です。二人にどれぐらい私の本気が伝わったかはわからないけど、今日のライブは私の全力を見せることができたと思う...」
ここで最後に少し自信なさげになってしまうのはまだ私の弱いところだなと痛感してしまう
....
私の言葉が終わると少し沈黙が続く
「届いたよ」
「えっ」
私が顔をあげると二人とも最初に話した時とは全然表情が違っていた。
「天音があんなに素敵な歌を歌うなんて私は知らなかった。お母さんなんてずっと泣いていたからね」
「言わないでよ」
「本当のことだからいいじゃないか」
「それはそうか」
「5年だ!!」
お父さんは急に真面目なトーンでそう言った
5年は私が大学を卒業するまでの期間を指している
「天音の歌を聴いて、天音の本気はわかった。でもだからといってなんでも認めるわけにはいかない。最初にも言った通り、好きだから生活していけるわけではない。これが趣味だったら手放しで応援するが、将来帝に仕事にしたいとうなら手放しで応援するわけではない。だから5年間で私たちと認めさせるような活躍をするのが条件だよ」
「お父さん...」
「わかっている。天音の人生だからこそ、私たち親がそこまで口を出してはいけないのかもしれない。でも天音はまだ17歳で私たちにとっては子供なんだ。心配だからこその厳しさだと思ってくれたら嬉しいかな」
「頑張らせてください!!」
「それと、お母さんに心配させないように」
「うん」
「先生にもちゃんと謝っていて。きっと先生は私たちよりも天音ちゃんのことを見ていたんだと思うの。今なら先生の言っていた言葉の意味がちゃんとわかる。それを否定するほど私は馬鹿ではないから」
お母さんは真剣な表情に私も頷いた
「はぁ~~~。でも天音ちゃんの歌本当によかったな。次はいつ歌うの?」
「まだ決まっていないよ」
「そっかぁ。決まったら教えてね」
「またきてくれるの?」
「当たり前じゃない」
「お母さん毎回来ているかもしれないね」
「あり得る」
「ええええ。なんか文句あるの?だって可愛い天音ちゃんのかっこいい姿がみれるのよ。見逃したらもったいないじゃない」
「さっきの私の真剣な空気を壊さないでくれ」
「ははは」
「天音ちゃんご飯までもう少しあるから部屋でゆっくり休んでおいで」
「それなら、ちょっとだけ出かけてきていい?」
「遅くならないようにね。今日はすき焼きよ」
すき焼きと聞いてお腹が一気にすいたような気がした
「わかった」
私は急いで玄関に向かい靴を履いて外に出る
そしてすぐに携帯を出してメッセージを送る
【乙羽さん!!両親に5年間頑張らせてもらう時間をもらえました】
すぐに返事が届く
【ほんと?よかった!!!!!】
【乙羽さん今どこにいますか?】
【家だよ。どうしたの?】
【今から少し会えませんか?】
【いいよ。じゃぁ○○公園集合にしようか】
【わかった】
私は早足で○○公園に向かった。
公園につくとまだ乙羽さんは来ておらず、久しぶりにブランコに座ってみた
思い返せばこの数週間いろいろなことがあった。
路上ライブをして乙羽さんに出会ってから三者面談があって...ライブして。
なんか怒涛の毎日だったな。
今この瞬間にやっと一息つけたような気がした。
お父さんには5年と言われたけど、具体的にどうしていくかは正直決まっていない
それも含めて考えていかないといけないと思う
まぁそれはゆくゆく考えていけばいいか
10分ぐらいブランコで考え込んでいると乙羽さんが少し息を切らしながら公園に来てくれた
やっぱり乙羽さんはすごく美人だと思う。
私はあの河川敷で話した後からずっと考えていたことがあった
それをライブが終わったあとに乙羽さんに伝えようと思っていた
【待たせてごめん】
乙羽さんは隣のブランコに座りメッセージを送る
このやり取りにも慣れたなと思う
【私こそ急にごめんね】
【いいんだよ。それでご両親には認めてもらったってことでいいのかな?】
【まぁとりあえずって感じかな。でもちゃんと向き合えたと思う】
【そっか。よかった】
私はブランコから立ち上がり乙羽さんの前に立つ
乙羽さんを私をみて首を横に傾ける
「ありがとう」
私は携帯を使わずに口話で感謝を伝えた。
これは文章ではなくて自分の口で伝えたいと思っていた
最初にあった時は口話も知らなかった。
でも今は違う。乙羽さんとコミュニケーションを取れる手段は知っている。
本当に乙羽さんには感謝している。
「...」
「えっ」
乙羽さんの目からは涙がこぼれていた
【どうしたの????】
私はすぐにメッセージを送る
【違うの。悲しいとかじゃなくて嬉しい涙だから】
【嬉しい?】
私は乙羽さんの考えていることはよくわかならかった
【だって私余計な事たくさん言ったと思うから】
「そんなことないよ」
私は口話で伝える
そしてすぐに携帯を打つ
【乙羽さんの言葉に勇気をもらえたから私はあのステージに立つことができたんだよ】
【ほんと?】
【ほんとだよ。だから乙羽さんには感謝だよ】
【よかった】
私は考えていたことを乙羽さんに伝えるために文字を打つ
【乙羽さん。私の歌の歌詞を書いてくれないかな?】
その文字をみた乙羽さんは驚いたように顔をあげる
それはそうだと思う
私がこんなことを言い出したのにはちゃんと理由がある
あの河川敷の帰り道
【乙羽さんは歌手になりたいと夢見たことがあるの?】
乙羽さんはその文字をみて少し照れていた
【子供の時にあるよ。すぐに無理だと自覚したけど】
【そっか】
このとき私は考えていた。
私は乙羽さんの言葉に元気と勇気をもらった。
乙羽さんの言葉にはきっと力と想いがある。
なら私がその力と想いを届けることができないかと
【乙羽さんの言葉と想いを私が歌にして届けるよ。だから私の歌の歌詞を専属で書いてほしい。無理にとは言わないけど】
【やりたいです】
乙羽さんはすぐに返事を送ってくれた
そして顔をあげた乙羽さんはすごく素敵な顔で笑っていた