116話
松岡瑞樹
【俺の話はいいから、桐生さんの悩みをきこう】
俺は鏡さんからの突然のカミングアウトから話を逸らすために話題を本題に戻した
みんな「確かに」という表情をしていた
桐生天音
【そうだね。みんなからしたら大したことがない話かもしれないけど】
嶋野愛
【大丈夫だよ】
斎藤乙羽
【大丈夫】
愛と斎藤さんが桐生さんの背中を押す
桐生天音
【実は...】
そこから桐生さんは最近あった出来事を教えてくれた
面談の時に担任から自分の将来はちゃんと自分で考えろといわれたこと
それから考えて両親に音楽をしたいと伝えたこと
そして母親は泣きだして、父親はギターを捨てたこと
ギターを捨てられて歩いているところに斎藤さんに会って話をして勇気づけられたこと
桐生さんは俺たちに要点をわかりやすく伝えてくれた
それにしても、桐生さんの両親が強めの依存型だとは意外だった。先日面談の後少しだけ話したが、普通の優しい母親というイメージだった分、驚きが強かった
みんな桐生さんの話を聞いて少し考えている
春乃さくら
【なんですぐに相談しないの!!一人で抱え込まなくていいじゃん】
さくらさんは少し怒った表情で桐生さんを見る
桐生天音
【ごめんなさい】
春乃さくら
【言ってくれてありがとう。これでみんなで考えることができるね】
こうゆうさくらさんのポジティブな一面は本当に尊敬に値すると思う
苑田冬樹
【でも現実問題として受け入れてもらうことって難しいんだよね】
冬くんの言葉はかなり説得力がある
冬くんとお父さんは考えの不一致で最終的には両親の離婚という形になってしまった
桐生さんの両親の話を聞く限り否定的なのは間違いない
中村敬都
【僕みたいなオタクもオタクじゃない人たちに自分たちの好きを認めてもらうのは難しいもんね】
隣の鏡さんも頷いている
松岡瑞樹
【斎藤さんはどう考えているの?】
斎藤乙羽
【私も音楽はやるべきだと思うけど、どうしていいかはわからないからみんなを頼れば?と提案しました】
まぁそうだよね
もしいい考えがあるならみんなに頼る必要もないか...
嶋野愛
【両方目指せばいいんじゃないの?】
桐生天音
【両方?】
嶋野愛
【桐生さんの両親は大学に進んで公務員になってほしいんでしょ。だったら大学にいきながら勉強もちゃんとして音楽も続けて認めてもらえばいいのかなって。大学4年生までで考えたら5年あるんだよ。私たちの学生の時間は有限だけど逆に考えたらまだ5年も時間があると思う】
それはいたってシンプルではあるけど的を得ている意見だと思う
「両方頑張る...」
桐生さんはその言葉に少し考えこむ
苑田冬樹
【確かに嶋野さんの両方頑張るはとてもいいと思います。でもそれだけだと今の状況は変えにくいのかなと思います】
嶋野愛
【どうして?】
苑田冬樹
【おそらく桐生さんの両親は音楽を続けることを反対しているからです。5年間という猶予はあったとしても音楽を続けることには変わりないから今の状況からは好転しないかなと】
嶋野愛
【それもそうだね】
愛は少し悲しそうな表情をする
鏡朱里
【じゃぁ今認めさせるのは?】
中村敬都
【それができていたら苦労しないんじゃない?】
鏡朱里
【中村は桐生さんの歌を知らないでしょ。実際に目の前できいたらすごさがちゃんと伝わると思う】
春乃さくら
【それいいじゃん!!】
苑田冬樹
【確かに実際に生歌を聞くと努力していることが伝わるかもね】
中村敬都
【でもどうやって桐生さんの両親に聞いてもらう?家で急に歌い出すのは流石に難しくない?】
春乃さくら
【確かにそれは難しい】
嶋野愛
【じぁぁライブに呼ぶのは?】
松岡瑞樹
【それはいいね。でもfreedomで出るには先になりそうじゃない?】
まずライブってそんな簡単にでれるものなのかな
斎藤乙羽
【天音ちゃんが一人ででればいいんだよ】
桐生天音
【ソロで?】
斎藤乙羽
【路上ライブの延長みたいなものだから天音ちゃんならできるよ】
確かに路上ライブの経験値がある桐生さんだったらソロでの弾き語りは無理な話じゃないかもしれない。
俺も最初路上ライブの歌を聴いて泣いたわけだし。
両親に桐生さんの音楽を伝えるなら一番いいかもしれないと思ってしまった
桐生天音
【それならできるかもしれないけど...そんな都合よくライブできる機会なんてあるかな】
「あっ」
ふとあの時の会話を思い出していた
「これは驚いた。お嬢ちゃん演奏がすごく上手だね。それに歌も上手い。何かやっているのかい?」
「たまにバンドで歌ったり路上ライブをしているぐらいです」
「ほうほう。それならいつか僕が主催するライブにもでてもらおうかな」
「主催?」
「楽器屋が主催してライブをするなんて珍しい話ではないよ。ここには音楽をしている子たちがたくさん集まるから、そういった子たちに演奏する場所を与えてあげるのも楽器屋の仕事だと思っている。それに隣のライブハウスの持ち主は私だからね」
楽器屋さんのおじちゃんとの会話だった
いつかとは言っていたがあの言い方ではライブ自体は頻繁にあっているのかもしれない
だからもし空きがあれば出演することも不可能ではないかもしれないと思った
松岡瑞樹
【この前の楽器屋さんは?】
嶋野愛
【みっちゃん天才】
春乃さくら
【楽器屋さん?】
それから口頭でみんなにこの前の会話のことを説明した
さくらさんが仲間外れにして!!と怒っていたが一旦置いといた
みんなその話を聞いて賛成してくれた
松岡瑞樹
【桐生さんどう?】
桐生天音
【いいと思う】
松岡瑞樹
【それなら明日の学校の後もう一度楽器屋さんにいってみよう】
桐生天音
【ありがとう】
こうして俺たちの方向性は決まった
上手くいくかはわからない。
冬くんの時は最終的にはお父さんとの折り合いはつかなかった。
でも今回はまだチャンスはあると思う。
......
みんなが私のことを真剣に考えてくれているのが嬉しかった。
乙羽さんに
【天音ちゃんは一人だったら無理かもしれないけど、私もいるし天音ちゃんにはお友達がいるでしょ】と言われたときは私なんかがみんなに頼ったら困らせてしまうんではないかと思った。
そんな考えはまったく杞憂だった。
私一人じゃ視野がせまくなってこんなに意見はでなかった。
嶋野さんがいってくれた勉強と音楽の両立。確かになんでそんなことすら考えることができなかったのだろう。音楽をやりたいからといって勉強はやらなくていいわけじゃない。最初から両方頑張りたいといえばここまで両親とこじれることもなかったのかもしれない。
でも冬くんが言ったように今の状況を好転させるのは難しいのも事実。
ソロでライブにでるか
考えたことがなかったわけではないがバンドで活動しているうちは縁がないものだと思っていた
全く興味がなかったわけではない。路上ライブみたいに制限があるところで歌うよりもライブハウスでお客さんの前で歌ったらどんな感じになるのだろうと想像したことは何度もある。
私はお店の窓にうつる自分の表情をみたときに朝の自分に比べて明るくなっている気がした。
そして私の手を乙羽さんが握った
私は乙羽さんの方をみると
笑顔で何度も頷いていた
なんとなくその頷いている乙羽さんが「大丈夫」「大丈夫」って何度もいってくれているような気がした
昨日まで暗闇に迷い込んでいたような私の心は乙羽さんやみんなのおかげでモヤが晴れたようになっている。今は「頑張りたい」って心の底から思っていた