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113話

【何があったの?】


乙羽さんは座るとすぐにメッセージを送ってきた


【どう話せばいいのかな】


私はそのままの気持ちを文字にした。

本当にどのようにして今の気持ちを説明すればいいのかわからない。

ただでさえ口下手な私が文字で状況を説明するなんて難しい

それにこんなことを話されても乙羽さんを困らせてしまうかもしれない

私がモヤモヤと考えていると私の手に乙羽さんの手が添えられた。

その乙羽さんの手の温もりに泣いてしまいそうになる。

乙羽さんの顔を見ると微笑みながら何度も頷いている。それが私には「大丈夫」って伝えているように思えた


【ゆっくりでいいから教えて】


【ちょっと待って。簡単に文章にするから】


【いつまでも待てるよ】


それから私は何度も打ち直しながらも乙羽さんに何があったのかを説明した


【今日三者面談があったんだけど、先生から「私のなりたい将来」の話になって。私が考えていた進路は私が考えたものではなくて両親が考えたものだろうと。それで家に帰宅して両親とその話になって。私は音楽がやりたいと二人に伝えたら、お父さんが怒って、お母さんは泣き出してしまって。それでも私は音楽が続けたいといったけど、お父さんが私のギターを捨てに行ってしまって私は心が折れたような気持になって散歩していた感じです】


乙羽さんは私の文章を真剣な表情で読んでくれていた

こんな家庭の話聞かされたら困ってしまうのは当然だ。

自分でもこんなに弱い部分を吐き出しているのがみっともないと思っていた。

多分今の私はみんながみている桐生天音ではないだろう。

乙羽さんから返事が返ってきた


【天音ちゃん頑張ったね】


その返事は私の予想とは全く違う返事だった

頑張った?私は頑張ったのだろうか...

両親を傷つけた挙句ギターは捨てられて。

全然いい結果ではない。


【私は頑張っていないよ】


【それでどうるすの?】


乙羽さんからの返事はシンプルなものだった

これからのこと...どうするのがいいのだろう

音楽をやりたいといっただけで両親にあんな顔をさせてしまった

それなら私の出す答えは一つしかないのだろう


【諦めるよ】


【諦めるの?】


乙羽さんの顔は少し悲しそうになっていた


【私が音楽でご飯を食べていくなんて夢物語だったんだよ。両親すら説得することができなくて心が折れているようじぁ音楽を続けていくなんて無理なんだと思う】


ははは。

その返事を呼んだ乙羽さんが私の顔を見ると、私は愛想笑いしかできなかった


【本当にそれでいいの?】


【うん】


【嘘だよ】


【何を根拠に】


【天音ちゃんの今の顔を見れば納得できていないのなんてわかるよ】


その言葉に私は少しイラっときてしまい


【乙羽さんに私の気持ちはわからない】


【わからないよ。でも納得できていないんでしょ】


「じゃぁどうすればいいの?どれだけ私が続けたい、頑張りたいと思っても私はまだ子供なんだよ。ここまで私のことを育ててくれたのは誰?お母さんとお父さんなんだよ。だから2人が望んでいないことを私が望んではいけないんだよ。このことに関して私が出せる結論は「諦める」しかないんだよ。だからもういいんだよ。私はこれからも趣味で続けていけばいい。それで幸せなんだよ」


私は携帯に文字を打つのやめて乙羽さんに叫んでいた


「あっ」


私は文字ではなくて言葉で叫んでいるのに気付いた

急いで携帯に文字を打つ


【ごめんなさい】


【大丈夫だよ。全部はわからなかったけどところどころは読み取れたから】


【本当にごめんなさい】


.......

静寂が流れる。

乙羽さんは携帯に何かを打っている

少し時間が流れると私の携帯にメッセージが届く


【天音ちゃん。諦めるのは簡単だよ】


諦めるのが簡単....

自分の中の何かがはじけた


「諦めるのは簡単じゃない!!諦めるしか道がないの...」


そう叫ぶと私は下をみて涙がこぼれた。

これ以上何をいっても自分が惨めにしか思えなくなっていた

もう帰ろうと思い始めると

私の顔を乙羽さんが掴んで下を向いていた顔を上に前を向かせる

そしてスケッチブックをバックから取り出しペンで大きく文字を書く


【諦めるは】


次のページをめくってペンを走らせる


【目指すことができる人しかできない】


そして次のページをめくる


【私は目指すことすらできない】


自分の口を指さす

そして次のページをめくる


【天音ちゃんには歌がある】


私の口を指さす

そして次のページをめくる


【人を幸せにできる歌があるなら目指せばいい】


5ページに書かれた言葉は乙羽さんの今の気持ちが全部詰まっているように見えた。

私はその言葉に涙が止まらなくなっていた

「私は目指すことすらできない」

そうだ。私は目指すことができるんだ。それなのにいろいろな理由をつけて諦める道に逃げていた

それでも不安は拭えない

次に乙羽さんは携帯に文字を打つ


【大丈夫。天音ちゃんの歌は人を笑顔にしたり幸せにする力があると私はこの目で見たから。天音ちゃんがご両親に認めてもらえなくて辛いのは今の天音ちゃんをみていればよくわかる。じゃぁどんな方法でいいから道を探そうよ。私も手伝うから】


道を探す。

音楽を続けるか辞めるかじゃなくて別の道があるのかな。

今は頭が回らなくてわからないや

でも乙羽さんの顔を見ているともう一度向き合ってみようかなと思っている自分がいる


【私なんかにできるのかな】


【天音ちゃんは一人だったら無理かもしれないけど、私もいるし天音ちゃんにはお友達がいるでしょ】


嶋野さん、松岡くん、春乃さん、中村くん、冬くん、鏡ちゃんの顔を思い浮かぶ。そして目の前に乙羽さんの顔を見る


【今頭に浮かべた人たちは天音ちゃんの味方でしょ。だからみんなで考えようよ。どうすればいいのかを】


みんなが一緒に考えてくれるかな。

ふふ。多分みんな一緒に考えてくれるな。

私は人に弱いところを見せるのがとても苦手だ。

だから人に頼ってきた経験も少ないし、人に頼られる経験も少ない。

前に自分が人を頼らないと、他の人も自分も頼れないといっていたのを聞いたことがある。

私はその典型的なパターンだ。


【ほら今みんなにメッセージ送ってみよう】


【今?】


【今しないと天音ちゃんは先送りにしそうでしょ】


その通りだと思う。

結局今送らなかったらずるずる夜になって明日の朝になって...確実に先送りになる


【今から送ります】


私はみんながいるグループを開いてメッセージを送る


【突然のメッセージすいません。みんなに相談したいことがあって相談に乗ってもらえないでしょうか】


隣から私が文字を打つのを見ていた乙羽さんが

【業務?(笑)】


【ダメかな?】


【天音ちゃんらしくていいと思う】


乙羽さんが笑っているのが少し気になったけど送信ボタンを押した

するとすぐに既読がついた


春乃さくら

【急にびっくりしたよ。文章がお堅い感じで間違いかと思ったら天音ちゃんだったのね。もちろん相談に乗るよ】


嶋野愛

【いつにする?】


松岡瑞樹

【俺はいつでもいいよ。明日とか?】


鏡朱里

【明日空いています】


苑田冬樹

【僕も大丈夫】


春乃さくら

【敬都はどうせ暇なので参加で】


松岡瑞樹

【敬都は暇だよ】


桐生天音

【一応中村くんの都合も...】


中村敬都

【空いてます...瑞樹今度覚えてろよ】


松岡瑞樹

【俺だけ?さくらさんは】


中村敬都

【さくらさんは怖いからいいの】


春乃さくら

【敬都明日覚えておきなさいよ。ピザにタバスコたんまりつけて食べさせてあげる】


中村敬都

【ほら怖いでしょ】


嶋野愛

【それで明日でいいの?】


みんなが了承する

こんなにあっけなくみんなが相談に乗ってくれるとは思っていなかった

この前も感じたが嶋野さんは文章では意外に話を引っ張っていってくれる


【大丈夫だったでしょ?】


乙羽さんからもメッセージがくる


【うん】


【私も行っていい?】


【逆にいいの?】


【もちろん】


【じゃぁお願いします。乙羽さんのことはみんなに私から伝えておくね】


【ありがとう】


その時にちょうど日が射して乙羽さんは照らした。

照らされた乙羽さんの笑顔はとても綺麗だった。



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