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112話

生まれて初めて自分の気持ちを言葉にして両親に伝えた。

まぁ状況は「最悪」といっても過言はないからもしれない。

お父さんは言葉を失い、お母さんは涙を流している

この後どうすればいいのかわかなくなっていた


「やはり...」


お父さんが小さく呟く


「あの時に音楽は完全にやめさせておくべきだった」


「なっ...」


お父さんから出てきた言葉はやはり音楽の完全拒否


「親として天音に音楽の道に行くことは絶対に許すことができない」


「どうして」


「音楽で飯が食えている人間がどのくらいいると思っているんだ。私たちが考えるよりもずっとずっと難しい世界なんだぞ。その中でずっと音楽で飯が食っていけるとお前は思っているのか?」


「それは....」


「天音にどれくらいの実力があるのかは私は知らない。少しは自信があるからこんなことを言っているのだろう。しかし自信があるから必ず成功するという保証なんてないし、上手くいかない確率の方が確実に高い世界なんだぞ」


「それでも私は諦めない」


お父さんが言っていることは正論で決して間違っていない。

実際に音楽で飯を食えているのはほんの一部で、私たちがみているアーティストは成功者だ。ただその成功者でもずっと音楽だけで飯を食い続けているのはその中の一部だということはわかっている。


「もう何をいってもダメなんだな」


「うん」


「そうか....」


そういってお父さんは部屋を出て2階に上がっていった


「お母さんごめんね」


「天音ちゃんはちょっと疲れているだけなのよ。明日には元に戻っているから」


すぐにお父さんが下に降りて玄関に向かって靴を履き始めた


私は「なぜ玄関に?」と思い玄関に向かった


「えっどうして?」


お父さんが手に持っていたのは私のギターだった


「これは捨てる」


「なんで」


お父さんからの言葉は私の頑張った心を一刀両断した


「天音が音楽をやりたいという気持ちは理解した。親としてそんな不安定な道に天音を進ませるわけにはいかない。これは親としてのエゴだ。天音に恨まれることになってもいい。それでも父さんは天音が音楽の道に行くことは絶対に認めない。だからこのギターは捨てる」


「やめて」


捨てるといわれたときに私は今までの辛かった時にギターに助けてもらったこと、弾き語りをして松岡くんと嶋野さんと友達になれて、文化祭でfreedomとしてたくさんの人に聞いてもらって喜んでもらえたこと。私の歌を聴いてくれている人たちの笑顔がいいと褒めてくれた乙羽さんの言葉など、今までの思い出がたくさん蘇ってきた。


「ごめんね」


「お父さん!!お父さん!!」


私は泣き叫んでいた

しかしお父さんは振り返ることなくギターを持って外にでていってしまった

玄関が閉まると同時に私は膝から崩れ落ちた


やはりダメだった。

勇気をだして前に進んだように見えるが、ギターを捨てられたら私にとっては後ろに後退してしまっている。

もっと上手なやり方があったのかもしれない。

でもどうすればよかったの?


その質問に答えてくれる人はそこには誰もいなかった。


あれから自室に戻り私はベッドの中からでれなくなっていた。

初めて自分の気持ちを言葉にした結果がこれだ。

自分がこんなにメンタルが弱いとは思わなかった。

今私の心は折れかけていた。


「天音ちゃんご飯よ」


お母さんが私の部屋のドアを静かに開ける


「今日は食欲ないから大丈夫」


「そう」


また静かにドアを閉めてリビングに戻っていった


私はしばらくベッドの中でどうすればよかったのかというのを考えていた

しかしいくら考えてもどの選択が正しかったのか、私が言ったことは間違っていたのか。答えはでなかった。

こうゆう時にはいつもギターを弾いて心を落ち着かせていた。

そのギターも先ほどお父さんに持っていかれて今頃ゴミの中にあるのかもしれない。

それほど高いギターというわけではなかったけど、私にとっては大事なギターだったのにな...

また涙が出そうになっていた。

ふと外を見ると私の今の気持ちとは正反対な真っ赤な夕焼け空だった。

このままではいけないと思い、私は上着を羽織って外に出る準備をした


「天音ちゃんどこにいくの?」


玄関で靴を履いているとお母さんが不安そうに声をかけてくる


「ちょっと散歩にいってくる。すぐに帰ってくるから」


「わかった。いってらっしゃい」


「いってきます」


特に行先を決めていたわけではなかったから気づけば先日路上ライブした付近まで歩ていた

トントン!


私は突然肩をつつかれて、その突然の出来事にすごく驚いて振り返った

するとそこには乙羽さんが立っていた


「乙羽さん...」


正直今は誰とも話したいと思っていなかった。きっと今の私は相手を不快にしてしまうと思ったから


【天音ちゃん何しているの?】


乙羽さんは携帯で私に質問してくる

私もすぐに携帯を取り出し文字を打つ


【ちょっと気分転換に散歩だよ】


【そっか。天音ちゃん何かあった?】


【どうしてそう思うの?】


【なにか辛そうだから】


【大丈夫だよ】


会って数分で私の今の状態がばれてしまうほどわかりやすく辛そうにしているのかと自分であきれてしまった

早くこの場を去りたいと思ってしまった


【それじゃまたね】


私は続けて文字を打って手を振り歩き出した


「うっ!!」


歩き出すとすぐに洋服を引っ張られた


「乙羽さん???」


少し私が困惑していると

乙羽さんはまた携帯に視線を落とす


【そんな状態の天音ちゃんほっとくわけないでしょ】


少し怒っている表情をしていた


【いや本当に何もないんだよ】


【はいはい。天音ちゃんは人に弱い部分を見せるのが苦手なのね】


そうゆうわけじゃないと返事をしようとすると、その手を乙羽さんが握ってくれた

私は顔をあげると乙羽さんは優しく微笑んでいた


【少し座ろう】


私は静かに頷いた

そして少し先の河川敷に私と乙羽さんは腰を下ろした

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