109話
私が教室の中に入るとみっちゃんと話した後の状態で真奈さんと先生は座って待っていた。
今まで面談はお祖母ちゃんが来てくれていて、特に深くは話さずに面談は終わらせていた。だから私にとっては今までにない緊張感があった。
「愛ちゃんおいで」
「はい」
真奈さんは笑顔で私を迎えてくれる。
これは私が自分のお母さんとやってこなかった接し方で、真奈さんは私を本当の娘のように扱ってくれる。だから私もつい甘えてしまっている。
「嶋野、お祖母ちゃんのことも含めて大変だったな」
「私1人だったらとっくに折れていたかもしれません。ただ松岡家のみなさんがいてくれたおかげで今も元気で幸せな毎日を送ることができています」
「そうか。よかったな」
「はい」
みっちゃんが先生に私の状況は説明しているといっていたから、先生も必要以上に今まで私にこのことを話してこなかった
先生の言葉には心配してくれているのが伝わってきた
「愛ちゃんがいい子だから私たちもよくしてあげたいのよ」
「真奈さん好きです」
「私も愛ちゃん好きよ」
「ははは、2人とも仲良しですね。いいご関係を築き上げているのがよくわかります。それで嶋野、卒業後の進路はどう考えている?」
「瑞樹のお嫁さんはなしよ?私たちとしては瑞樹のお嫁さんになってくれるのは大歓迎だけど、私個人としては進学が就職してもう少ししてからお嫁さんになってくれた方が親として安心できるかな」
真奈さんは少しニヤニヤしながらいっている
「流石にわかっています。ただ私も今のところこれといってなりたいものがあるわけではないので悩んでいるというのが正直なところです。どのようにしたらみっちゃんの隣に立って恥ずかしくないのかなども含めて考える必要があるかなとは考えています」
「瑞樹のお嫁さんになるのは決定事項なのね。ふふふ」
「はい。それは決定事項です」
「おい嶋野。確かに目標があるころは先生としては嬉しいと思うけど、高校2年生で彼氏の親の目の前で結婚は決定事項と断言するのは先生少し心配になるぞ」
「えっどうしてですか?」
「先生、多分先生がみている愛ちゃんと私たちがみている愛ちゃんは別です。愛ちゃんはこうゆう女の子なんです」
「私もこの1年生徒を見てきましたが正直一番驚いているのが嶋野です。中学校の先生からの評価、この高校に入ってからの教師の評価と松岡と付き合い始めてからの嶋野の変化が著しくて正直まだ追いついていないといった感じです」
さっきから私のことを褒めているのかディスっているのかわからない会話が目の前で繰り広げられている
でも三者面談をこんなに楽しく過ごせているのは初めてでちょっと楽しくなっていた
「先生、愛ちゃんが暴走しないように見張っていてください。親としては嬉しいことですが、瑞樹のことになるとちょっとネジが飛ぶところがありそうで...」
「はい、その点でいうと思い当たる節がいくつかあります」
「なんか私って学校の中で才色兼備の立ち位置から問題児の立ち位置にシフトチェンジしてませんか?」
真奈さんと先生の会話はまるで問題児について話しているようだった
私は学校では変わらず優等生のはず...
そう考えながら今までのことを思い返す(主にみっちゃん関連)
確かに私は優等生ではないなと思い始めてきた。
みっちゃんのことを悪く言われるとどうしてもカチンときてしまう癖があるのは事実
「愛ちゃんもほどほどにね」
「はい...」
「松岡さん、嶋野のお母さんには何か言われていますか?」
先生は少し真剣なトーンで真奈さんに質問する
私も自分のお母さんのことはよく知らない
基本的に真奈さんが連絡を取り合ってくれている
「嶋野さんは愛ちゃんが進みたい道に進んでもらっていいといっていました」
これはちょっと予想外の言葉だった
私のことには無関心と思っていたから
「そうですか。他には何か言われていましたか?」
「そうですね。先生によろしく伝えてほしいと言われています。嶋野さんとは小まめに連絡を取り合っているんですが、私の予想では嶋野さんは不器用で思っていることを口に出すのが上手ではないと思っています。その辺は愛ちゃんと似ているかなと。ただ愛ちゃんのことを全く考えていないわけではなくて、今までお祖母ちゃんと一緒に暮らして幸せそうにしていたから目を背けていたいたみたいですが、お祖母ちゃんが倒れてから考え方が変わってきているみたいです」
確かに私もお母さんも口下手な方ではあると思う。
でもそれは私に興味がないだけでは...と思っていたが真奈さんが言うことだからそうなんだろう
「そうですか。私も長年教師をしていると様々な「親子」と接してきます。実際子供に全く興味がない親もいるし、逆に過剰すぎるほど子供に関わろうとする親もいます。正直どっちがいいのか私にはわかりません。過剰すぎるほど関わる保護者は過敏に反応するので一歩ずれればモンスターペアレンツになることもあります。だから嶋野のお母さんみたいなタイプは特段珍しいわけではないです。ただ、どこかのタイミングでは嶋野はお母さんと一度ちゃんと話した方がいいかなとは俺は思っている」
「一度話した方がいいですか?」
「そうだ。松岡さんの言っていることが正しければ嶋野のお母さんは少しでも考え方を変えようとしているのなら嶋野も関わる努力はした方がいい。さっきいろんな距離感の親子がいるとは言ったが向き合わないとわからないことも必ずあるから、もしかしたらお母さんと一度ちゃんと話してみると今までみえていなかったことが見える可能性もあるかもしれないなと」
「......」
「何か言えよ」
「今はなしている先生は私たちの担任の先生で間違いないですか?」
「よぉし。お前は今度松岡と一緒に掃除してもらうからな」
「みっちゃんと一緒なら大歓迎」
「クソ。なんか考えておいてやる」
「ははは」
一度お母さんと向き合ってみないとわからないことはあるか...
確かに最後にお母さんと面と向かって話したのはいつになるだろう
この前のは電話でちゃんとは話していないし。
真奈さんの予想が当たっているのならお母さんと私は似た者同士で本当の自分たちをわかっていないこともたくさんあるかもしれない。
「先生、その辺は大丈夫です。嶋野さんはこっちに帰ってきたときに一度家でご飯を食べる約束をしているので」
「えっそれは聞いていません」
初めて聞く話だった
「だって俊哉君意外に言っていないもん」
真奈さんはウインクしながら「もん」と可愛くいう
この人は本当に若くて可愛い
真紀ちゃんもこんな感じの大人になるのかもしれない
「最後に、これは松岡にも言ったことだが、どの道にでも進めるように勉強はしておけよ。まぁ松岡以上に成績がいい嶋野にとっては心配はないが...」
「心配はないが...?」
「松岡しか見らないようになって成績が落ちるのだけが心配ではあるかな」
「そんなことは」
「愛ちゃん、その辺はわかっているわね?」
今度の真奈さんは笑っているようで目が笑っていない
「はい」
「「よろしい」」
だって仕方ないじゃない
みっちゃんと一緒にいる時間は何よりも楽しくて幸せなんだから
でも確かにそれで成績が落ちたりしたらみっちゃんの評価が下がるかもしれない
「嶋野の成績が落ちた原因は松岡の責任」
こんなことは起こってはならないことだ
「私、頑張ります」
改めていろいろなことを頑張ろうと決心したのだった