最悪の展開
鈴香と直紀はそのあと違う雑貨屋に入った。
じっくり一通り見たあと、何も買わずに出てきた。
「いい匂いで癒されたな〜」
「アロマスティック? 多かったな」
「わたしスティックは置くの怖くて。引っかけちゃいそうだから」
「じゃあ、部屋にアロマ系は置いてないの?」
鈴香はうなずいた。
「その代わりにルームミストを2種類持ってて、寝る前にそれ使って寝てるの」
「そっか。ルームミストって手があったか」
鈴香は笑みを浮かべる。
そんなとき
「あれ? 直紀?」
目の前から元カノだった女が歩み寄ってきた。
「げっ」
「となりの子は彼女?」
「……」
直紀は女をにらみつける。
鈴香は不安そうに直紀を見た。
「マジで地味子と付き合ってんだ」
さらに歩み寄ってくる。
「この泥棒猫!」
鈴香は体を震わせ、固まった。
「こんな子にあたし負けたの? ありえないんだけど!」
「おい、騒ぐなよ」
「だって、ありえないじゃん! こんな子に……」
突然、女は鈴香の胸ぐらをつかんだ。
そのまま壁に押し付けられる。
「離せよ……!」
「返して? あたしの直紀」
「あ、の……」
鈴香の目が潤む。
「返せって言ってんの!」
女は胸ぐらをつかんでいる手を鈴鹿の喉に当てた。
ぐっと力が入る。
「っ……!」
「その辺に……」
「もしもし、喧嘩?みたいな感じで……来てください……!」
近くにいた女が電話をしている。
「なるべく早くお願いします」
「おい、警察呼ばれてんぞ」
「あんた、はいって言いなさいよ。返しますって」
「あの……」
(どうしよう。声が出ない……。このままじゃ……)
「手を離せ。じゃねぇと脅迫及び暴行の容疑で現行犯逮捕するぞ」
鈴香と女は横を見た。
「は……? 何のマネ……? 警察ごっこ?」
「ごっこだと思うか?」
直紀は警察手帳を見せた。
「それニセモノでしょ……?」
直紀は女の手をつかんで、鈴香から引き剥がした。
「直紀……?ごっこはやめてよ」
「警察です。騒いでるのはあなた方ですか?」
「お疲れ様です。黒田です」
直紀は警察手帳を見せた。
「あなたが黒田巡査……! お疲れ様です!」
ふたりの警察官は敬礼した。
「うわさは聞いてますよ! 柔道がすごく強いとか」
「あー、まぁ。高校の授業でやったくらいですけど」
「射撃も上手いんですって?」
「それは、話盛られてるかもっす」
直紀は鈴香をチラッと見た。
彼女は驚いた顔で固まっている。
「検挙率も良いとか。巡査長なればいいのに」
「いや、今はあんま昇格に興味ないんで」
「もったいない」
「で、どうしたんですか」
直紀は溜め息をついた。
「プライベートのことでお騒がせしてすみません。俺の元カノが彼女にやたら絡んできて。身の危険を感じたので、とっさに逮捕すんぞって」
「なるほど。今カノさんは……こちらの女性かな?」
警察官は鈴香を見た。
「はい。そうっす」
「怪我は? 大丈夫ですか?」
「あっ、はい。何とか……」
「元カノさんがこちら?」
女は直紀をにらみつけていた。
「とりあえず署で話聞きますから」
「連れて帰ってください」
直紀は軽く頭を下げた。
「デート中だった? 災難だね〜」
「ホントっすよ」
直紀は女をにらみつけた。
「二度と俺の前に現れるな! あと、鈴香に今度絡んだら、俺何するかわかんねぇぞ!」
「黒田巡査、落ち着いて」
直紀は息を荒らげた。
「……二度と絡むか! このクソ男! 地味子とよろしくやってろ! バァカ!」
「はいはい。話聞くから行こうねー」
女は警察官に連行されていった。
(終わった……)
直紀は大きな溜め息をつき、肩を落とした。