優しい人
ショッピングモールに着き、ふたりはエスカレーターに乗った。
(直紀くん後ろにいてくれてる。優しいな)
「雑貨屋回る?」
「そうですね」
「……敬語もやめない? タメで話してほしい」
鈴香は小さくうなずいた。
「よし。じゃ、行こっか」
直紀は右手を差し伸べた。
鈴香は首を傾げる。
「平日のわりに人多いから」
「大丈夫ですよ。ちゃんとついていきますから」
「今敬語でしゃべった。お仕置きだな」
「えっ」
思わず体が固くなった。
「強制的に手つなぐの刑に処す」
直紀は鈴香の左手をつかむと、歩き出す。
「な、直紀くん……!」
「……」
(何言ってんだ、俺! 強制的に手つなぐの刑ってなんだよ)
直紀は少し顔を赤くして、目を泳がせた。
(ちょっと強引だったけど、振り払わないということは嫌じゃないってことだよな……?)
「あ、あそこ見てもいいかな……?」
鈴香はファンシーショップを指す。
「ん? あぁ、いいよ」
ふたりは中に入る。
「ファンシーショップって見るだけでも楽しいんだよね〜。……あっ、ポイント2倍デーだ!」
確かに旗が立っている。
「何か買いたいものなかったかな……」
(かわいいなぁ)
鈴香はあちこち見て、物色している。
ついていくだけでも何だか楽しい。
「あっ、財布! 財布欲しかったんだった!」
「ボロいの?」
「ほら、ボロくなってきたらすぐ変えろって言うじゃない? だから、そろそろ買わないとなぁとは思ってたの」
鈴香はいつの間にか手を離し、両手に財布を持っていた。
「……」
直紀は少し寂しそうに左手を眺める。
「どっちがいいかな……」
左手にピンクの財布、右手にブラウンの財布を持っていた。
どちらも猫のワンポイントが付いた、比較的シンプルなデザイン。
直紀「俺はこっちの方がどっちかというと良いと思う」
直紀は左手の財布を指した。
「だよね。わかった。こっちを買う」
鈴香はレジに向かった。
「ポイントカードありますか?」
「はい」
鈴香はポイントカードを2枚出した。
「こっちのカードで割引しますね」
横から手が伸びた。
コイントレーに3000円が置かれている。
「え?」
「3000円お預かりしまーす」
「直紀くん?」
鈴香は振り返った。
「欲しかったんだろ?」
「いや、そうじゃなくて、お金……」
「ん?」
直紀は財布を受け取った。
「おごってもらうの申し訳ないから……」
「あぁ、いいよ」
「でも……」
「おごりたかったから」
直紀は財布を渡した。
「……ありがとう」
鈴香は申し訳なさそうに財布を受け取った。
「じゃ、次行こっか」
「うん」
直紀は左手を差し出す。
鈴香はためらいながら右手を差し出した。
直紀は彼女の手を握って歩き出す。
(直紀くん、ホントに優しいな。王子様みたいでまぶしい)
鈴香は直紀を見つめたーー