この切なさは…
1週間後ーー
鈴香は医師の説明を聞く直紀に気付いた。
「仕事忙しくなってきて、来れるかわかんないっす」
「じゃあ、来れそうになったら電話で予約してもらいましょうかね」
「すんません」
「今なら日にち空いても大丈夫なんで」
(しばらく忙しいんだ……)
鈴香は視線を落とす。
わたしと同じ25だもんね
仕事バリバリしてる年齢だし、仕方ないよね
逆に今までもしかしたら仕事の合間とかに来てたのかも
「白崎さん」
直紀の顔が視界に入ってきた。
「大丈夫?」
「わ! 黒田さん! びっくりした!」
「ごめん。元気なさそうだったから」
「大丈夫です!また来てくださいね」
心臓がバクバク音を立てている。
「はい」
直紀は軽く手を振り、診察室を出ていく。
「……」
鈴香は溜め息をつくと、仕事に戻った。
『大丈夫?』
『大丈夫ですよ』
『ならいいけど』
鈴香はスマホを眺める。
『白崎さんって正社員?』
『いえ。バイト?パート?です。体力ないからフルでは働けなくて』
『いつも何時に終わるの?』
『6時頃です』
(黒田さんってレスポンス早いなぁ)
『家は近く? 暗くなる時間だから気をつけて』
『家は職場の近くです。心配してくれてありがとうございます』
鈴香の口元が緩む。
(イケメンで優しくて、モテそうだなぁ。……わたしにはもったいない人だ……)
笑顔が消え、表情が曇る。
大きな溜め息をついた。
数日後ーー
着信音が鳴った。
(誰だろう……。夜に電話なんて珍しいけど……)
スマホを見ると、直紀からだった。
『はい』
『あっ、白崎さ〜ん? 俺だけど今大丈夫〜?』
何だか様子がおかしい。
『大丈夫ですけど……』
『なんか……声聴きたくなっちゃって。ごめん』
『あの……大丈夫ですか?なんか、しゃべり方が……』
『あ〜酔ってるからかなぁ。ハハ、ごめ〜ん』
少し甘えるような話し方で鼓動が高鳴る。
可愛いと思ってしまった。
『飲みすぎちゃダメですよ』
『ん〜気をつける』
鈴香は目を細める。
『気許しちゃうんだよなぁ。白崎さんと話とかメッセしてると』
電話の向こうでドサッと音がした。
『黒田さん……?』
『大丈夫大丈夫。ベッドで横になっただけ』
『ホントに大丈夫ですか?』
『うん。酒が入って、ちょっとフワフワして、気持ち良くなってる』
本当に大丈夫だろうか。
鈴香は心配そうな表情をする。
『今日これ以上飲んじゃダメですよ』
『ハハハ、わかった〜。もう少ししたら寝るよ』
『その方がいいですよ』
電話してきてくれたことは嫌じゃない。
むしろ嬉しい。
でも……
『そろそろ切るね〜。おやすみ〜』
『はい。おやすみなさい』
電話が切れると、スマホを耳から離す。
「……」
大きな溜め息をつき、膝を抱え顔を伏せた。
少しして、肩を震わす。
(わたしと黒田さんじゃ、釣り合わない。仲良くなるのは嬉しいけど……ツライ……)
どこかで止まらなきゃいけないとはわかってる。
わかってるのに……
「……っ。……グスッ……」
鈴香はしばらくそうしていたーー