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出逢い

いつか突然目の前に王子様が現れる。


淡い期待を抱いている。

そんなもの叶いはしないのに。

いつか結婚できるのかな、なんて不安を胸にわたしは生きていたー



「今日はヒマだね〜」

「ずっと穏やかそうですね〜」


鈴香はつぶやく。

タブレットに表示されている予約表を先輩と見ていた。

予約がぽつぽつと所々空いている。

診察室を見渡すと、患者が一人もいない。


(がい)の方がお見えでーす」

「ご案内しときますね」


鈴香はカルテを手にすると、待合室のドアを開けた。


「黒田直紀さーん! どうぞー!」


黒髪の若い青年が入ってくる。

右耳に小さいフープピアスをしていて、プレートデザインのシンプルなネックレスをしている。

白いTシャツに少し色落ちしたジーンズというファッション。


(今どきな人だなぁ)


1番待合室に近い席に案内した。


「先生、予約外の患者さん診てくださーい」

「エプロン失礼します」


エプロンを付ける際、彼と目が合った。


ドキッ


「コップ置きますね」


鈴香はその場から離れる。


(目が合っちゃった! ビックリした……!)


彼女は人見知りが激しい。

相手が男なら余計に人見知りが発動して、ドキドキしてしまうのだ。

喉が渇いてしまって、お茶を飲みに行く。


「白崎さん、レントゲン準備して」

「もう準備できてますよ」

「じゃあ、案内して」


鈴香は小さく息を吐いた。


「レントゲン室にご案内します」


また彼と目が合う。


(目見ないで〜)


鈴香は緊張しながらレントゲン室に案内した。


「ピアスやネックレスなどの金属類外していただけますか」

「うす」


直紀はピアスとネックレスを外し、小物入れに入れた。

鈴香はレントゲンを撮る準備をする。

その間も見られているような感覚がしたが、気にしない振りをした。

レントゲン室を出ると、男性医師がボタンを押す。


「ガタイ良い人だな。何かやってたっぽい」

「えっ」

「例えば……柔道とか。まぁ、サッカーとかバスケとかかもしれんけど」

「そんなことわかるんだ。すごいですね」

「俺野球やってたからなんとなく」


医師はドアを開けた。


「撮り終わったので、お席に戻りましょう」


鈴香はピアスとネックレスを返した。

直紀を席に案内すると、彼はピアスとネックレスを付ける。


(わたしには良くわかんない……。普通の体型っぽいけど……)


「レントゲン撮らせてもらったんですが、歯が欠けてそうなところがありました。中見てみますね」


医師は鈴香を見た。

鈴香はボールペンを手に取る。


「親知らずは……なし」


鈴香は医師の指示で歯の記録をカルテに書き込んでいく。

書き終わると、ボールペンをポケットに入れた。


「虫歯になりかけのところがあるので、治療していきましょう。お時間あります?」

「はい」

「じゃあ、レジン埋めていきますね。白崎さん、準備したらアシスト付いてくれる?」

「わかりました」


鈴香は準備物を出すと席に戻った。


「何かあったら左手上げて教えてください」

「うす」


直紀はチラッと鈴香を見た。


(だから見ないで〜)


緊張で少し手が震えるが、小さく息を吐いた。



治療が終わり、鈴香はほっと息を吐いた。


「しばらく通えますか?」

「まぁ、はい。なんとか」

「では、都合の日に予約取ってください。本日はこれで終わりです」

「お疲れ様でした」


鈴香は直紀のエプロンを取った。


「ありがとうございました」


鈴香が待合室のドアを開けると、直紀は診察室を出た。


(顔はイケメンだったな。ピアスとネックレスしてて、ちょっとチャラかったけど)


鈴香はお茶をごくごくと飲んで、深く息を吐いた。




運命の人

良く言うけど、本当にそんな言葉存在するのか……?


夜、直紀はベッドで横になって天井を眺めた。

ずっとそう思っていた。

でも、その考えは今日、消えていった。


(かわいかったな、あの子)


芸能人みたいにすごく可愛いわけでも、綺麗なわけでもない。

地味な眼鏡っ娘。

でも、可愛かった。

声は鈴のように綺麗というか透き通っていて、聞き心地が良かった。


(次歯医者行くとき、出勤だったらいいな。ってそんな偶然ねーか。あの子、バイトかもしれねーし)


でも、もう1回会いたいな……


今まで何人か恋人ができたことはあるが、どの子も絶対離したくない!ってほどではなかった。

なんとなく付き合って、なんとなく求め合って、なんとなく別れて。

そんな恋愛をいくつかしてきた。

こんなひとりの人のことを考えたのは初めてかも。


(これは何かあるな。今回のは)


直紀は深く息を吐いて目を閉じた。

そして、胸に広がるほんのりとした温かさを確かに感じたー

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