乙女の秘密2
少し遅くなってしまってすみません……
本日二話目、こちらは後編ですので、前編をまだ読まれていない方はひとつ前のお話からどうぞ。
「ね、あんたはレオナール殿下に話したの?」
「前世のことですか?そういえば、そんなことを話す機会がありませんでしたね……」
お茶会の帰り、ブランシャール男爵家まで送るためにミアさんと馬車に乗っていたわたくしは、今更ながらそのことに思い至りました。
俯いた表情のミアさんは、これまでに何度もリオネル殿下にその事実を打ち明けようか、迷ったことがあると言います。
けれど、ゲームの世界の登場人物だなんて言っても傷つけるだけではないかとか、だから俺のことを好きになったのかとか、そんなことを危惧して今まで話すことができなかったようです。
「……別に、ゲームのことは伝えなくても良いのではないかと。お話を聞くに、皆様随分と性格も違っているようですし、わたくし達はわたくし達ですわ。決められたシナリオ通りに動くキャラクターではありませんもの」
心を乱すだけのことは、徒に話す必要があると思えません。
「前世の記憶がある、だなんて最初は驚かれるかもしれませんが、リオネル殿下なら、ミアさんのことを受け止めて下さると思いますよ。あんなにも、あなたのことを想っていらっしゃるのですから」
ミアさんを見つめるリオネル殿下の目は、いつも優しかった。
役立たずな婚約者だったわたくしとは違って、きっとミアさんはこれまで、殿下の複雑な心を解きほぐしてこられたのでしょう。
「なかなか人に言えない秘密を打ち明けてくれたと、お喜びになるかと」
むしろジュリア様とエマ様に先を越されて嫉妬するのではないでしょうか。
「そう、かな。うん……話してみようかな……」
嫌われはしないだろうかと不安がるミアさんがとてもかわいらしくて、大丈夫ですよとその微かに震える手をぎゅっと握りました。
翌日。
「……昨日はお茶会だったらしいな」
「まあ、ご存知でしたの?はい、ジュリア様にエマ様、ミアさんとご一緒しましたの。とても楽しかったですわ」
少し前に正式にレオナール殿下の婚約者として認められたわたくしは、こうして定期的に王宮でお会いすることができるようになりました。
留学終了というとおかしな話ですが、フェリクス殿下と同じく学園生活を終えたレオナール殿下とお会いできる機会は、以前ほど多くありませんので、わたくしにとって大切な時間となっています。
それにしても今日はご機嫌が悪いのでしょうか?
むすっとしていらっしゃいます。
「……オランジュ伯爵令嬢やルノワール侯爵令嬢はともかく、ブランシャール男爵令嬢まで……。いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
あら?昨日も同じようなことを聞かれたような……。
「というか、正直に言えば少し前までおまえを蔑ろにしていた令嬢とばかり仲良くしているのが腑に落ちん。俺はなかなか会えないというのに、なぜ……!」
頭を抱え俯くレオナールのつむじをじっとみつめます。
もしや、これはひょっとして……?
「クリスマスパーティーの時は男爵令嬢の話に乗ったが、ずっとなぜだと疑問に思っていたんだ。あのパーティーでも男爵令嬢に抱き着いていたし、輝くような笑顔を向けていた。俺がフェリクスになんと言われたか知っているか……!?」
その時のことを思い出したのか、さらにぐっと頭を抱えてしまわれました。
『むしろジュリア様とエマ様に先を越されて嫉妬するのではないでしょうか』
嫉妬。
レオナール殿下がわたくしにヤキモチをやいて下さったのでしょうかと考えると、殿下には申し訳ないのですが、少しだけ嬉しくなってしまいます。
母上様、わたくし、こんなことを考えてしまうのは悪いことなのでしょうか。
でも不思議ですね、そうは思うのですが、なんだか心が温かく感じるのです。
実は前世の記憶があって、わたくしも殿下と同じように、敬愛する母上様の言葉を思い出しながらここまできたのだと伝えれば、どんなお顔をされるでしょう。
ミアさんとのことも納得して、お許し下さるでしょうか。
ああそうですわ、家族やリュカ、ジュリア様やエマ様がすでにこのことを知っているとお伝えしたら、なぜ俺だけ知らないんだ!と怒られてしまうかもしれませんね。
それだけわたくしのことを想って下さっているからだと、甘んじて受け入れましょう。
「そうですわね……少し長いお話になるのですが、聞いて頂けますか?」
ミアさんもきっと今頃、リオネル殿下に伝えているでしょう。
わたくし達がお友達になった経緯も、全て。
レオナール殿下のカップにおかわりのお茶を注ぎます。
これも昨日と同じですね。
おかしくなってしまって、くすりと笑いながら昨夜作ってきた菓子を殿下の前に差し出します。
「実はわたくし、いえ、わたくし達、前世の記憶があるのです」
さあレオ様、覚悟はよろしくて?
母上様がどれだけわたくしを愛して下さっていたか、どれだけ素敵な方だったか。
それを語るには、それ相応のお時間お付き合い頂くことになりますわ。
思い出深いおはぎ……いえ、彼岸は過ぎたもののこの季節ならぼた餅を頬張りながら、しっかりと聞いていて下さいませね。
話し終えた後、レオ様がどんなお顔をされるのか、今からとても楽しみですわ――――。




