乙女の秘密1
前後編のお話です。
後半は夕方に投稿できるかなと思っております。
今回はその後のお話。
本編に上手く入れられずにどうしようかなーと思っていた話なので、書けてすっきりしました!
クリスマスの断罪劇から数か月経った、ある春の日の昼下がり。
わたくしは大切なお友達とお茶会を楽しんでおりました。
「まあ、このお菓子、セレナ様の手作りなんですか?」
「ミタラシダンゴ?へぇ……ん!すっごく美味しいです!」
「ジュリア様とエマ様のお口に合ったみたいで良かったですわ。ふふ、わたくしもこの甘じょっぱい餡がとっても大好きなんですの」
幸せそうなお顔でみたらし団子を頬張るおふたりを見て、胸がほっこりと温かくなります。
近頃はすっかり温かくなってきて、こうして外でお茶を楽しむことができるようになりました。
学園生活も順調ですし、卒業まではこうしてのんびりした時間をたくさん持ちたいものですわね。
「……で、なんであたしまで呼ばれてるんです?」
むっつりとした声の主の方を向くと、なんとかわいらしいお顔が歪んでいました。
「まあ、ミアさんたら、そんなお顔をしていてはせっかくの美少女が台無しですわよ?ほら、笑って下さいませ。ジュリア様とエマ様もとても楽しみにしていたんですから」
そう、このお茶会の参加者は四名。
ジュリア様、エマ様、そしてミアさんとわたくしです。
あのクリスマスパーティの後、三人で仲良く断罪劇の打ち合わせをしていたのだと聞き、ずるいですわ!わたくしもお仲間に入りたいです!とわたくしが言い出して実現したのがこのお茶会なのです。
「まあまあ、良いじゃないですか。ミアさんとリオネル殿下の話も聞きたいですし!」
にこにことミアさんにそう言ったのは、エマ様です。
相変わらずフーリエ様とは仲良くやっているようで、とても良いことです。
「同い年って良いですわよね。学園でいつでも会えますし。うらやましいですわ……」
そう言ってため息をつくジュリア様は、この春フェリクス殿下が留学を終え、セザンヌ王国に帰国してしまい、遠距離恋愛となってしまいました。
定期的に文のやり取りをするなど変わらず仲睦まじくはあるのですが、やはり寂しいようですわね。
「うらやましいって……そりゃ、毎日顔を合わせられるのは嬉しいですよ?」
リオネル殿下の話が出て、ミアさんの眉間の皺が緩みました。
恋する乙女は好きな人のこととなると、表情に出てしまうものなのですね。
うふふと生温かい視線を送ると、ミアさんは照れたようにそんな目でこっち見ないで下さいよ!と怒りました。
「まぁ冬の間に色々ありましたけど、リオネルも反省して思慮深くなったというか、大人になったなぁって思います。ブラコンだったのは意外でしたけど」
実はリオネル殿下は、先日正式に王位継承権を放棄しました。
兄君であるレオナール殿下が帰国したこと、自分が放棄してもまだ幼い弟王子がいること、そして今まで行ってきた王子として不適切な言動の責任を取ることを理由に。
「なんか、大好きだったお兄ちゃんだとずっと気付けなかったことが自分でだいぶショックだったみたいです。レオナール殿下にあたってしまったと後で落ち込んでましたよ」
あははと笑いながらミアさんが教えてくれます。
「でも、ほっとしたんだって言ってました。甘やかされてばかりだという自覚はあったから、こんな自分がもし王位を継ぐことになったらと考えると怖かったんですって。レオナール殿下の立太子が決まって、自分はそんな兄を支えられる人間になりたい、こんな自分だけれどついてきてほしいって言われました」
そう話すミアさんの顔はとても穏やかです。
きっと彼女なら、ずっとリオネル殿下の味方でいてくれるでしょう。
リオネル殿下を責める声はまだありますが、当時婚約者だったわたくしも、そんな彼を支えなくてはいけなかったのに、務めを果たしていなかったと言えます。
殿下だけを責めることはできませんわ。
リオネル殿下とミアさんのこれからを、わたくしも応援していきたいと思います。
「そういえば、おふたりはいつの間にそんなに仲良くなったんですか?」
「あ、それ聞きたいです。それと、セレナ様がキサラギ国について詳しかったことも不思議でしたし、あのクリスマスパーティーでのおふたりの会話に、よく分からない言葉が出てきていたのも気になります」
わたくし達の話を黙って聞いていたジュリアさまとエマ様から、ぽつりと疑問の声が上がりました。
ええとそれは……。
わたくし達ふたりが、転生者だと伝える必要のある問いですわね。
わたくしはこのおふたりになら話しても別に構いませんが、ミア様のお考えも尊重しませんと。
ちらりと隣を見ると、ミアさんは戸惑うことなく口を開くところでした。
「あたし達、実は前世の記憶があるんです」
「え!?」
「まあ!」
予想だにしていなかった言葉に、エマ様は思わず立ち上がり、ジュリア様は目を見開いて驚かれました。
「しかも、前世では同じ世界に住んでいたみたいで。あ、国は違っていたから、お互いの常識とか文化の違いはあるんですけど」
あっけらかんと答えるミアさんに、ふたりは呆然としています。
……あまりにざっくりしたお答えですわね。
さてどうお話ししましょうかと苦笑いしながら、わたくしは詳しいお話をするために、四人分のお茶のおかわりをカップに注ぐのでした。
「はぁ、なるほど。セレナ様が急に人が変わったようになったのも、これで納得がいきました」
「キサラギ皇国と似たお国ですか……。それではこのお菓子もそうなのですね」
長い話にはなりましたが、おふたりは腑に落ちたという表情でみたらし団子を眺めました。
「まあだからといって、なにが変わるということではありませんけどね。結果、とても良い結末になったのですし」
みたらし団子をぱくりと口に入れて、エマ様が頬を緩めます。
「そうですね。お話して下さってありがとうございます。セレナ様もミアさんも、これからも仲良くして下さいね」
ジュリア様もそう言って、にこやかにお茶を口にします。
ああ、やはりおふたりにお話しして良かった。
信頼できるお友達とは、本当に素敵なものです。
ちらりと隣を見れば、満更でもない様子で別に良いわよと答えるミアさんの姿がありました。




