侍従のひとりごと1
お待たせしました!
別に待ってない方もいらっしゃるかもしれませんが(笑)
後日談や番外編を少しずーつ、不定期ではありますが投稿していきたいと思います。
初回はリュカから。
時間軸としては、最終話から一年くらい経った頃です。
二部構成のお話で、二話目は夕方に投稿できるかなと思っております(*^^*)
俺はリュカ。
このルクレール王国で一、二を争う名家、リュミエール公爵家で働いていた。
しかも公爵家で誰もが愛してやまないセレナお嬢様の侍従として。
そんな彼女との出会いは十三年ほど前に遡る。
元はといえば貴族の血が流れている俺だが、まあ俗に言う私生児というやつで、父親である男爵から認められることはなく、母親も幼い頃に苦労の末亡くなったため、物心つく頃にはすでに孤児院で暮らしていた。
顔も知らない父親だが、どうやらその造りは悪くなかったようで、街で美人と評判だった母親との間に生まれた俺は、まあそれなりの容姿をしていた。
だから孤児院でも目にかけてもらうことが多かったのだが、外見でしか見ようとしない奴ばかりだと俺はうんざりしていた。
時々慰問に来る、ただの自己満足な貴族達はもっと露骨だ。
結局顔かと、幼いながらに嫌悪感でいっぱいだった。
しかし得をすることに変わりはないから、そんなやつら相手に愛想笑いをするしかない。
そうすれば寄付金が増えるし、生きるためには必要なことだったから。
そんな自分にも、俺は嫌気が差していた。
けれど、年少のチビ達はそんな俺のことも慕ってくれて、なにかとうしろをついて回ってきた。
外面ではない、口が悪く愛想笑いをしない素のままの自分でも頼ってくれた。
それが唯一の、俺の慰みだった。
頼られているようでいて、チビ達を必要としていたのは俺自身だった。
そんなある日、チビふたりを連れて街へとお使いに出ていた時、チビのひとりが転び、それが運悪く貴族の馬車を足止めしてしまった。
『ご、ごめんなさい!』
慌てて三人で謝ったが、馬車に乗っていたのはそれで許すような器の大きい人間ではなかったらしく、降りてきた恰幅の良い貴族の男は、大激怒して転んだチビを蹴りつけた。
壁にぶつかったチビを急いで抱き上げ、俺はその男を睨んだ。
それが気に入らなかったのだろう、男は護衛に命じて俺に剣を向けさせた。
たとえ切られようとも、こんな奴に屈服なんて絶対にしない。
チビを抱える腕に力を入れた、その時。
『あの……やりすぎではありませんか?』
おずおずとひとりの少女が、男のうしろから現れた。
平民には一生かかっても着られないような豪奢な服、明らかに貴族の娘だ。
『なんだこのガキ!……い、いや、その馬車の家紋は、ひょっとしてリュミエール公爵家の方ですかな!?』
男は少女の正体に気付くと、真っ青な顔をした。
『わざとでないときや、ちゃんとはんせいしてるひとには、あやまってくれたらゆるしてあげましょうねって、わたしのおかあさまはおしえてくれますよ?』
少女はびくびくしながらも男を窘めた。
その傍らにいる護衛たちも男を睨み、有無は許さないと言わんばかりの表情だ。
『おやおや、何事だい?』
『なんだ、くだらんことをするやつがいるな!』
そしてその後から、ふたりの少年が顔を出した。
ひとりは淡い金髪の穏やかな風貌の少年、そしてもうひとりは目つきの悪い黒髪の少年。
俺よりも少し年下に見えるふたりはどうやら少女の兄らしく、おにいさまと少女が声をかけていた。
つまり彼らは公爵令息、男の顔色はさらに血の気を失った。
『も、申し訳ありませんでした!』
そしてこれは分が悪いと悟ったのだろう、男はとっとと逃げ帰ってしまった。
呆然とする俺達に、少女が駆け寄ってきた。
『ごめんなさい』
なぜ謝るのだろう、俺はぽかんと口を開けた。
『わたし、なにもできなくて……おにいさまがきてくれてよかった……』
ぽろぽろと涙を流す少女の目がとても綺麗だと、その場にそぐわないことを考えていた。
なにもできないだなんて、とんでもない。
彼女の言葉がなかったら、俺達は切られていた。
痛かったよね、ごめんねとチビを撫でる少女の小さな手は、震えていた。
『同じ貴族として情けないですね。君達、手当くらいはさせて下さい』
少女の一番上の兄の言葉に甘えて、俺達は手当を受けた。




