聖夜のドッキリ!?サプライズとは、こんなに素敵なものなのですね8
いよいよエンディング。
今日は二話同時に投稿しております。
「「「「す、素晴らしかったですわぁぁぁ!!!!!!」」」」
レオ様の胸の中でもしっかりと聞こえたのは、数人、いえ数十人の歓声でした。
「さすがはセレナ様、悪役の演技もとってもお上手ですのね!」
「本当に……!あの悪いお顔も色気たっぷりで……お姉様と呼びそうになりましたわ!」
きゃあきゃあと頬を染めたご令嬢達が、今ほどの一連のわたくし達のやり取りを反芻なさっております。
……ええと、皆様、なにを……?
「今夜、セレナ様がリオネル殿下やブランシャール男爵令嬢とお芝居を演ると聞いて、楽しみにしていたのですが……まさか、こんなメッセージが隠されていたなんて、驚きでしたわ!」
ひとりのご令嬢の発言に、お芝居?隠されたメッセージ?と首を傾げます。
よくよく聞けば、どうやらこの会場のほとんどの方は、わたくし達が断罪劇をするということをご存知だったようなのです。
そう、周囲の方々にとっては本当に文字通りの“お芝居”。
しかも、その中身はわたくしの作った台本とは少し結末が違いました。
「まさかアングラード様が隠された第一王子殿下だったなんて!しかもセレナ様と相思相愛、婚約者を交代すれば、リオネル殿下も好きな人と一緒になれるしでお互いハッピーエンドですよ!と社交界に触れ回ってほしいということですわね!承知致しましたわ!」
「……はい?」
あるご令嬢の言葉に、わたくしはレオ様に抱きしめられたまま、呆気にとられました。
「このお芝居は、そういうことでしょう?安心して下さいセレナ様。私達、王宮にも地方にも顔が利きますのよ!」
また別のご令嬢がぐっと親指を立てて任せて下さい!とウィンクをされました。
「良かったねセレナ。ここにいらっしゃる皆様が、君達の真実を混ぜた劇を見て、婚約者交代の協力をして下さるそうだよ」
それまで黙って見ていたランスロットお兄様は、そう言って周りの皆様にお願い致しますと綺麗な所作でお礼をしました。
ええと、これはつまり……。
この学園には、家族や親戚が様々な要職に就いている貴族の令息令嬢達が集まっています。
その皆様が、リオネル殿下とわたくしの婚約を、レオ様とわたくし、リオネル殿下とミアさんの婚約に変更できるよう働きかけて下さるということのようです。
「まあ確かに、王子妃教育をほぼ終えているセレナが第一王子の婚約者になるなら、国としても別になんの問題もないしな。……俺はまだ認めていないが」
「そうだな、幸せになれないと分かって第二王子と一緒になるより、余程その方が良いと思いますよ。王族としても損はないはずですし、そんなに反発もないのでは?」
エリオットお兄様とフーリエ様もそう言って下さり、そうだよなと戸惑っていた令息達もそれに同意し始めます。
「驚きはしましたが、アングラード……いえ、第一王子殿下のことはすごく良い人だなと思ってたし。リュミエール公爵令嬢も素敵な人なんだなって最近分かったので」
「あ、俺も困ってる時、アン……じゃなくて第一王子殿下に助けてもらったことあります!それぞれに好き同士がくっつくんだし、悪くないと思います。俺は協力しますよ」
王子殿下としてではなく、レオ様として学園で一緒に過ごされた中で、皆様レオ様のことを好意的に思ってくれていたのでしょう。
「それに無礼を承知で言わせてもらえば、好きな人のことで悩んだり嫉妬したりする姿にちょっと親近感覚えたってのもあります」
「ちょっとへたれてた時もあったけど、今日はすごく格好良かったです!プライド高い完璧王子よりも、よっぽど良いよな」
それなー!と盛り上がる令息達。
どうやらわたくしと違って、皆様はレオ様のお気持ちに気付いていたようです。
そんな皆様に、レオ様は喜んでいいのか悲しんでいいのか……という微妙な顔をされました。
そんなお姿もなんだか愛しくて。
ふふっと笑って、はしたないとは思いましたが、もう一度レオ様にぎゅっと抱き着きます。
「皆様レオ様のことを認めて下さったみたいですね。わたくしも、すごく嬉しいです」
きっと彼は愛される国王になる、周りに助けてもらって、周りも幸せにできる国王に。
「あたしの考えたシナリオ、大成功ね!こういうの、日本語でなんて言うんだっけ?」
「ミアさん!」
リオネル殿下と寄り添いながらミアさんがこちらに来てくれました。
この口ぶりですと、周りの皆様に色々と働きかけて下さったのは、きっとミアさんなのでしょう。
「いくらあたしでも、こんな大勢に話を行き届かせるのは無理よ。ルノワール侯爵令嬢やオランジュ伯爵令嬢、ベランジェ侯爵令嬢にも協力してもらったの」
ぱっとジュリア様とエマ様、そしてヴィクトリア様を見ます。
お三方ともとても良い笑顔でわたくし達に拍手を贈って下さっています。
ああ、わたくしは本当に素敵な友人を持ちました。
「どう?あんたが用意したシナリオなんかより、あたしの考えた方が極上のハッピーエンドでしょ?」
してやったり顔のミアさんに、負けましたわと苦笑いします。
「そうですわね、これは間違いなく、“一件落着”という言葉がぴったりですわ!」
そしてレオ様から離れて、ミアさんに抱き着きます。
「えっ!?ちょ、ちょっと!?」
戸惑いじたばたするミアさんに逃げられないよう、ぎゅっと腕に力を込めて。
「ありがとうございます、わたくしの素敵なヒロイン……いえ、お友達!」
耳元で囁けば、あんたはまたそんなこっ恥ずかしいことを!とミアさんに怒られてしまいました。
「おやおや、お姫様を盗られてしまったね?」
「うるさい!」
ミアさんの肩越しに、呆然とするレオ様に声をかけるフェリクス殿下が見えます。
そんなおふたりの姿がとてもおかしくて。
わたくしはこれ以上なく幸せな気持ちになって、笑ったのです。
母上様。
わたくし、恋というものがとても素敵でこんなに温かいものだということ、初めて知りました。
それだけじゃなくて、友情と親愛の素晴らしさも。
母上様を置いて早逝してしまったことは心苦しく思っておりますが、この世界に生まれ変わったこと、わたくしとても幸せだと思っております。
ですから母上様。
どうか、悲しまないで下さい。
やるじゃない!って、笑って下さいませね――――。
* * *
「おい、良かったのか?」
「うん?なにが?」
大団円の最中、エリオットは穏やかな表情でその様子を見つめるランスロットに声をかけた。
こんな時に水を差すようだが、ランスロットは以前、母親と共にこう言っていた。
『こちらに一切の咎なく婚約破棄できるよう、根回しします。その後の奴らの行く末につきましては――――ご想像にお任せします』と。
「うーん、つい最近まではそのつもりだったんだけどねぇ」
軽い調子でそう言いながら、ランスロットはセレナから目を離さずにしばらく考えた。
「でも、セレナはそれを望んでいないだろう?僕達が愚かだと切り捨てようとした者達までも掬い上げた」
ランスロットの目から見ても、以前と比べリオネルとミアは少し変わった。
今だってリオネルが公衆の面前でセレナにこれまでの言動を謝罪している。
そして彼女はそれをなんでもないことのように受け入れている。
「参ってしまうよ、こんなことをされて協力しないわけにはいかないからね。さあまた明日から忙しくなりそうだ」
セレナを蔑ろにする王族など、見切っても良いとさえ思っていた。
けれど、彼女がそうさせてはくれない。
「……あのふたり、いや王宮の連中もか。首の皮一枚で繋がったな。この国で一番敵に回してはいけないうちの兄貴の魔の手から逃れたこと、セレナに感謝しろよ」
誰にでもなく、エリオットが呟く。
そしてセレナの方を向く。
輪の中心で輝くような笑顔を咲かせる、妹を。
まだ納得のいかない部分もあるにはあるが、結果、これで良かったのだろうなとエリオットも笑った。
「さて、じゃあ行こうか」
「?どこに?」
くるりと出口の方を向き歩き始めたランスロットを、エリオットは追った。
扉の少し前でぴたりと止まると、ランスロットは口を開く。
「外にも、セレナを案じる忠実な侍従が待っているからね。彼はきっと辞職してセレナについて行こうと考えているだろうから。今頃辞職願いでも馬車の中で書いているのではと思ってね」
止めに行こうかと言うランスロットに、エリオットもははっと笑って同意した。
「どうせなら、ドッキリかましてやろうぜ」
「ああ、それ良いね。セレナが……!って神妙な顔をして言葉を詰まらせれば、きっと彼、青褪めてパニックになるよ」
そうして、ふたりは外で待つ憐れなドッキリの被害者(予定)の元へと向かう。
一部始終を見守り、そんな兄弟の悪戯の打ち合わせを聞いていた衛兵は、楽しそうだなぁ……と微笑ましい顔で見送ったのだった――――。




