聖夜のドッキリ!?サプライズとは、こんなに素敵なものなのですね6
「あっ、セレナ様!」
会場に入るとすぐ、ジュリア様がフェリクス殿下と共にわたくしに声をかけて下さいました。
今日のドレスは、淡いラベンダー色の上品なデザインのものをお召しですのね。
いかにも淑女という風貌のジュリア様に、とても良く似合っています。
「僕が贈ったドレスなんだけど、ジュリアに似合うだろう?」
「はい、さすが殿下ですわ。ジュリア様に似合うものを良くご存知ですわね」
わたくしと殿下のやりとりに、ジュリア様が顔を真っ赤にしています。
「あ、セレナ様、ジュリア様!……って、ジュリア様はどうされたんですか?」
「うふふ。照れていらっしゃるんですわ」
そこへエマ様がフーリエ様と並んでいらっしゃいました。
エマ様のドレスは深みのある緑色を基調とした、大人っぽいものです。
「いつもと雰囲気が違いますが、フーリエ様と並んでいるからでしょうか、女性らしさが際立って、とても素敵ですわね」
「おや、さすがにお目が高い。私が贈ったものでね、エマを美しく装えていたなら良かった。無骨な騎士だから、こういうことには疎くてね」
「も、もう!おふたりとも、嬉しいですけど恥ずかしいから止めて下さい!」
そうしてエマ様も真っ赤になってしまいました。
婚約者と一緒にいる時のおふたりは、本当にかわいらしいです。
これが恋する乙女というものですわね。
わたくしも、いずれ……。
そこへ黒髪の彼の顔が浮かびそうになって、ぱっと頭を振りました。
「全く、君の妹だなんて信じられないな、エリオット。今日は大人しくしていてくれよ」
「うるさいぞライアン。残念だがセレナは正真正銘俺の美しすぎる妹だ。減るからあまり見るな!」
するとフーリエ様とエリオットお兄様が言い合っている姿が目に飛び込んできて、苦笑いしました。
こんなおふたりですが、結構馬が合うようなのですよね。
エマ様も楽しそうに笑っていらっしゃいますし、お兄様とも仲良くなって頂きたいですわ。
わいわいと話に花を咲かせていると、目に鮮やかな真っ赤なドレスが視界に入ってきました。
「セレナ様、ご機嫌よう」
「まあ、ヴィクトリア様。今日はまた一段と華やかな装いで」
侯爵令嬢であるヴィクトリア様は、まるで一輪の真っ赤な薔薇のような艶やかなドレスを身に纏っています。
いえ、クリスマスらしく、ポインセチアのようだと表現する方が良いでしょうか。
どちらにせよ、元々華やかな顔立ちの方ですから、鮮やかな赤色がとてもお似合いですわ。
「ヴィクトリア様の美しさを際立てるようなドレスですわね。とても素敵ですわ」
「あ、ありがとうございます。実は、わたくしの婚約者が贈って下さって……。今日は都合がつかなくて、来ていないのですけれど」
ドレスを褒めれば、ヴィクトリア様の頬がぽっと染まって、いつもきりっとした表情も緩みました。
まあ、ヴィクトリア様がこんなかわいらしい表情をされるなんて……。
たしかお相手は王宮魔術師団に勤める侯爵家のご子息でしたわね。
この様子なら、きっととても仲睦まじいのでしょう。
にこにことそんなヴィクトリア様を眺めていると、話題を変えたかったのか、照れながら咳払いをされました。
「そ、それは置いておいて!セレナ様、今日のあれ。楽しみにしていますわ」
あれ?
あれとはなんでしょう?
「今日の装い、すっかりなりきっておりますわね。普段とは違う雰囲気ですが、わたくしはとても素敵だと思いますわ!ええ、とても楽しみにしておりますので、頑張って下さいませ!」
ヴィクトリア様がなにを言っているのかよく分からなかったのですが、あまりに勢いよく両手を掴まれ縦に振られたので、とりあえずはいと返事をしておきました。
そのまま至近距離でしばらく見つめられていたのですが、ヴィクトリア様はぽっとまた顔を赤らめると、それでは後ほど!と去って行かれました。
……一体どういうことなのでしょう?
理解が追いつかなくて呆然としていたところに、周囲からざわりとした驚きの声が響きました。
ああ、ついにこの時がやって来ました。
ゆっくりと振り向くと、そこには予想していた通りのおふたりが。
まるでそのふたりのためだけに用意された舞台のように、人垣が割れて、色とりどりの衣装に身を包んだ皆様が左右に分かれて、ふたりとわたくしの間を空けました。
「セレナ・リュミエール公爵令嬢!」
声を荒らげてわたくしを呼ぶのは、リオネル殿下。
そして、見るからに王子様という麗しい容姿の殿下にぴったりと寄り添うのは、いかにも儚げなヒロインのイメージにぴったりな、薄桃色のドレス姿のミアさん。
眉を下げて、まるでこれから始まる悪役令嬢の断罪劇を嘆くような表情、素晴らしいですわ。
「まあ、わたくしの愛しい婚約者のリオネル殿下。どうしたのですか、そんな恐いお顔をして」
どこからどう見ても、正義感溢れるヒーロー、情け深い可憐なヒロイン、そして破滅間近の悪役です。
婚約者なのにエスコートもして頂けない殿下を咎めるような、そしてその役を奪ったミアさんを憎むような視線を送り、次の台詞をどうぞと合図を出します。
「き、君との婚約は、今日限りで破棄とさせてもらう!私の選ぶ妃は、このミア・ブランシャール男爵令嬢、ただひとりだ!」
わたくしの眼光に怯んだのか、殿下は少々語頭を詰まらせてしまいましたが、まあそれくらいは良しとしましょう。
「ご、ごめんなさいセレナ様!あたし、リオネル様を止めたんです。でも、どうしても駄目だっておっしゃって……!」
対するミアさんは満点の出来ですわ。
涙目まで表現するなんて、素晴らしいですわね。
「……まあ、わたくしの聞き間違いかしら?なんだかとてもおかしなことを言われた気がするのですけれど?」
さあ、ここからが正念場です。
ヒーローとヒロインに鮮やかに断罪され散る悪役令嬢役、華麗に務めさせて頂きますわ。
ぐっと足に力を入れ、倒れないようにとしっかり体を支えます。
母上様、わたくしが最後まで役になりきれるように、どうか見守っていて下さいませ。




