聖夜のドッキリ!?サプライズとは、こんなに素敵なものなのですね2
おふたりにダンスパーティーでのシナリオをお話ししたものの、あまりに悲しそうな顔をされたのが居た堪れなくて、つい図書館に行くと言ってその場を離れてしまいました。
婚約破棄すること自体は反対されていないのですが、その後のわたくしの行く末を思ってあんな顔をされたのでしょう。
放課後になってからも、カフェに行かないかと誘われたのに、調べものの続きをしたいからと断わってしまいましたわ。
逃げていてもどうしようもないことは分かっていますけれど、おふたりの顔を見ると決心が鈍ってしまいそうで……。
とりあえずこのまま帰っては嘘をついたことになってしまいますし、図書館に向かいましょう。
学園は暖房器具が整っているため、廊下でも温かいはずなのに。
リュカが側にいるとはいえ、こうして静かに歩いていると、肌寒く感じてしまいます。
その理由に自分でも気付いてはいますが、だからといってどうすることもできません。
不意に窓の外を眺めると、冷たい風に木々が揺らされていました。
優しい日差しが降り注ぐ春が来る頃には、もう自分はここにはいないのだと考えると、胸が痛みます。
「お嬢……」
「セレナ嬢?なぜ、泣いているんだ?」
頬を伝う雫を拭おうとした時、リュカと重なった声にぱっと振り向くと、そこにはレオ様がいました。
別れの日が近くなってきて、段々一緒にいるのが辛くなってしまい、最近は避けてしまうようになっていました。
けれどやはりこうして顔を合わせると、嬉しい、会いたかったと心が叫びます。
こんなことを思うなんて、わたくしはきっと……。
けれど、それに気付くのが遅すぎました。
「ご機嫌よう、レオ様。すみません、目にゴミが入ってしまったようで。なんでもありませんの」
だから、そんな自分の気持ちに気付かないふりをして、誤魔化すしかありません。
精一杯作ったわたくしの笑顔を見てレオ様は眉を顰めましたが、それについては触れずに、話がしたいとおっしゃいました。
エマ様とジュリア様の誘いを断った手前、お断りしようかとも思いましたが、レオ様の真剣な顔を見ながらそんなことは言えませんでした。
リュカに了解を得て、静かな所に行こうと連れられたのは、庭園のベンチ。
季節柄冷えるので、周囲にはどなたもいらっしゃいませんでしたが、レオ様が魔法で周囲の温度を上げて下さって、快適な空間を作って下さいました。
リュカは今回も気を遣ってくれて、声が聞こえない程度の距離のところに控えてくれました。
「あの、お話とは……?」
黙っていると胸の鼓動が聞こえてしまうような気がして、レオ様の隣に腰を下ろしてすぐ、わたくしはそう切り出しました。
「やっと、目を合わせてくれたな」
思いもよらない言葉に、え?と首を傾げます。
「ずっと、避けて……まではいなくても、会っても挨拶程度で済まそうと振る舞っていただろう?あまり目も合わなかったし……。あの時、情けない姿を見せてしまったからか?」
「情けない?そんな風に思ったこと一度もありません!レオ様はいつも素敵ですわ!」
ついそう声を荒らげてしまって、その後はたと我に返りました。
わ、わたくしったら一体なんてことを!!
きゃああああ!と赤くなった顔を手で覆います。
その間に一瞬見えたレオ様の、呆気にとられた顔!
恥ずかしいですわ!居た堪れないですわぁぁぁぁ!
まるで顔から湯気が出ているのではと思うくらい顔が熱いです。
ひょっとしたらリュカにまで聞こえてしまったかもしれません。
ああもう、わたくしはなぜこう……!とひとりでぐるぐると考えておりますと、隣からはあっとため息をついた気配がしました。
呆れられてしまったのでしょうかと、恐る恐る指の隙間からレオ様の様子を窺うと、そのお顔が真っ赤に染まっているのが見えました。
「〜〜っ、なんでおまえは、すぐにそうやって……!」
あああああ!これは絶対呆れてますわ!
もういっそのこと逃げ出してしまいましょうかと真剣に悩み始めたその時、レオ様が咳払いをしてこちらを向きました。
「と、とにかく!そうホイホイと男の心を弄ぶような発言をするな。なんとも思われていないと分かっていても、すぐにグラつく生き物なんだ、男とは!」
「ほ、ホイホイ?弄ぶ?」
混乱したわたくしの頭では、ちょっとなにをおっしゃっているのか分かりません。
とにかく失言だったということは認めて、仕切り直しましょう。
「申し訳ありません。ええと、ですがわたくし本当にレオ様を情けないと思ったことなど……。ひょっとして、過去のお話をされた時のことをおっしゃっているのですか?」
わたくしに縋って泣いた時のことでしょうかと問えば、別に思い出さなくて良い!と怒られてしまいました。
む、難しいですわ……。
「いや、すまない。そんなことを言うためにここに連れて来た訳じゃない。……礼を言いたかっただけなんだ」
どうしたら良いのかと悩んでいると、レオ様がそう言ってベンチの背にもたれ掛かりました。
「あれから、父や母、弟とも話をした。……あいつが、俺を兄だとちっとも気付いていなくて、少し可笑しかった」
それから、どのような話をしたのかをお話し下さいました。
セザンヌ王国ではなく、この国できちんと王子としてやっていきたいと思っていること。
そして、できることならば王太子となり、いずれ王となってこの国を支えたいと思っていること。
まだ未熟な自分を支えてほしいということ。
自分のことを嫌っているかもしれないが、リオネル殿下とは上手くやっていきたいと思っていること。
そんなことを、きちんとお伝えしたそうです。
「そんな話をしても、そう簡単に受け入れてもらえないだろうと思っていたのに、意外にも反対はされなかったんだ」
元々レオ様の母君を慕い、侍女として仕えておりました王妃様は、そうしてもらえるのならばこんなに嬉しいことはないとおっしゃったそうです。
まだ幼い王女殿下、第三王子殿下も、レオ様の立太子、そして自分達がその助けとなることに不満はないとのことです。
そして国王陛下は苦労をかけて申し訳なかったと泣いて謝られたそうです。
人々の話をよく聞くことを大切にしている陛下ではありますが、それゆえに強気に出て後継者争いを止められなかったことを悔いているのでしょう。
もちろん、陛下もレオ様の意志を尊重するとおっしゃったそうです。
そして、リオネル殿下は……。




