聖夜のドッキリ!?サプライズとは、こんなに素敵なものなのですね1
それから月日が経ち、季節はすっかり冬へと移り変わりました。
わたくしはといえば、変わらず学園生活を楽しんでおり、今日もエマ様やジュリア様と昼食をご一緒しています。
「ダンスパーティーまであと一週間ですね。ジュリア様はどなたを招待したんですか?」
「母と妹を。妹も来年入学するんですけど、入学前に一度は来てみたいと言っていたので」
近頃はすっかり、おふたりのようにこの話題で持ちきりです。
毎年恒例のクリスマス当日に行われるダンスパーティー、そこには家族や婚約者など、生徒一人につき二名まで招待することができるのです。
「エマ様はもちろん、ライアン様をご招待したんですよね?」
「ま、まあ……。あ、セレナ様、エリオット様もいらっしゃるんですよね!?ライアン様も喜びます!」
にまにま顔のジュリア様に、エマ様が必死に話を逸らそうとなさっていますが、顔が赤いですよ?
確かにエリオットお兄様と同級生ではありますが、お兄様がパーティーに参加するからといってフーリエ様は別に喜ばないと思いますが……。
歓迎の宴が始まる前、わたくしの控室にいたエリオットお兄様を引きずっていくフーリエ様の姿を思い出しながら、そんなことを考えます。
ちなみにわたくしが招待した……というか、招待せざるを得なかったのは、ランスロットお兄様とエリオットお兄様のふたりです。
誰を招待しようかと迷っていたところに、ランスロットお兄様から「僕達が行くことになったから」と決定事項として言われてしまったので、仕方ありませんねと諦めたのです。
まあ家族くらいしか選択肢がありませんでしたので、別に不満はありません。
しかしお兄様達が“断罪いべんと”とやらの邪魔をしないか心配ですわね。
前世の記憶を取り戻してすぐ、悪役令嬢として婚約破棄され、平民落ちすることを目指すと伝えてはおりましたが……。
果たして、おふたりが納得しているかどうか。
それにしても、クリスマスといえば恋人達にとっての一大行事。
死ぬ間際に恋愛してみたかったと願い生まれ変わったのに、そんなパーティーで婚約破棄を待つ身だなんて、皮肉なものですね。
それに、それが終わったらレオ様とは――――。
「セレナ様?どうされたんですか?」
エマ様の声に、はっと顔を上げます。
「あ、ごめんなさい。少しぼおっとしてしまいましたわ」
いつの間にか深い思考の中に入ってしまっていたことを謝ります。
苦笑いすると、おふたりが心配そうにわたくしを覗き込んできました。
「本当に大丈夫ですか?眉が下がってしまっていますよ?」
「セレナ様、気がかりなことがおありなら、私達に相談して下さいね」
「エマ様、ジュリア様……」
おふたりの優しい言葉に、胸がじんとしました。
「ありがとうございます。本当になんでもないんです。昨日ちょっと寝るのが遅くなっただけで」
そう誤魔化してはみたものの、おふたりにはきちんと、このクリスマスダンスパーティーで婚約破棄してもらうつもりだと伝えないといけないなと思いました。
それが済んだら、恐らく今までのように学園にも来れなくなるでしょう。
おふたりとこうして過ごすのも、最後になっていきます。
それに、おふたりだけでなく、少し前からお菓子作りを通して仲良くなった方々とも会えなくなるのです。
今度は胸がぽっかりと開いたような気持ちになりました。
けれど、ミアさんとお話しして、決めたのです。
「あの、エマ様、ジュリア様……」
勇気を出して、おふたりにミアさんと話し合ったことを伝えました。
* * *
昼食を終えた後、セレナは図書館に行きたいからと先に席を立った。
その背中を、エマとジュリアは複雑な顔をしながら見送る。
「……ね、これで良いんですかね?」
「無理をしているようにも見えますわ。セレナ様とお別れするのも辛いですが、このままリオネル殿下の婚約者で居続けるのも……」
詳しく知っているわけではないが、少し前セレナが王宮に何日か呼び出されていたことがあった。
そこでキサラギ皇国との繋がりを持つのに、セレナが活躍したとのことで、王宮での彼女の評価が急上昇したらしい。
半年ほど前までは彼女の資質を疑問視する声も多少あったのだが、ここ最近のセレナを見て、王子妃に相応しくないと言うような者はほとんどいない。
けれど、肝心の婚約者があれでは……。
「……まあね、ブランシャール男爵令嬢も、話してみると悪い子じゃないんですよね」
あのお菓子作り以来、ミアを見る周囲の目が変わっていた。
そして、ここ最近はミア自身も。
以前はリオネルと節操なくいちゃいちゃしていたり、周囲の反感を買うような場面があったのだが、ここ最近は節度を守っている。
リオネルも後先考えない行動がなくなり、思慮深くなった気がすると他の令嬢達が言っていた。
そんなふたりが一時の迷いではなく、互いを想い合っていることに気付いている者も多く、当のセレナもまた、リオネルにも王子妃にも特別な思いを持っていないと感じていた。
けれど、ならばミアを王子妃とすれば良いのではないかと、そんな簡単な話ではない。
第一王子が不在の中、第二王子まで公爵家の令嬢との婚約を破棄するなどといった愚行を見逃して良いわけがない。
もしかしたら王太子妃、ひいては未来の王妃になるかもしれないのだ。
そのための教育が一朝一夕で身に付くわけもないし、誇り高き公爵家を蔑ろにするわけにもいかない。
けれど、その公爵令嬢が実は王子妃に相応しくない振る舞いをしていたと断罪されれば……。
「みんなが幸せになる方法って、ないんですかね……」
時々遠くにレオを見つけると、セレナが切なげな目をしてその場を離れようとすることを、ジュリアは知っていた。
そしてレオもまた、そんなセレナのうしろ姿をいつまでも見つめている。
そんなふたりが想い合っていることを、エマとジュリア以外の者もなんとなく分かっている。
だが彼は他国の、おそらく貴族。
婚約破棄された傷物の令嬢を選ぶことなど、彼の両親が許さないだろう。
「ごめんなさい、ちょっといいですか?」
自然と俯いてしまったエマとジュリアの頭上から、ひとつの影がかかった。
ふたりが顔を上げると、そこにいたのはなんとミアだった。
「おふたりにも、ぜひドッキリの仕掛け人になって頂きたくて」
楽しそうにパチンとウィンクするミアに、ふたりは怪訝な顔をしながらもとりあえず話を聞くことにしたのだった。
* * *




