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【書籍化&コミカライズ】前略母上様 わたくしこの度異世界転生いたしまして、悪役令嬢になりました  作者: 沙夜
本編

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閑話*ヒロインと乙女ゲーム

使者が帰ったその日、ミアはリオネルを待つ間、王宮の一室でひとり呆けていた。


「今になって思い出したけど……あのレオって留学生、続編の攻略対象者じゃない?使者のレイって男も」


前世、この乙女ゲームの続編の情報は発売日まで小出しにされていて、自分が知ることができたのは、攻略対象者たちのシルエットと名前のみ。


よく考えてみれば、あのシルエットとふたりの姿はぴったりと当てはまる。


レオ、レイという名前から察するに、本当の名前は確かレオナールとレイゲツだった気がする。


「ん?レオナールって……この国の第一王子の名前じゃない!?」


なんてことだ、モブにしては顔の良いやたらと影のある男だと思っていたら、なんと続編の攻略対象者、しかもリオネルの兄だったとは。


「続編でも一作目とヒロインは変わらないはずだったんだけど……見事にどっちの攻略者もセレナ様に持ってかれちゃったわね」


まあ別に自分にはリオネルがいるから良いのだけれど。


どうせ誰も見ていないからと、ミアは行儀悪く背伸びをした。


「それにしても……あの断罪イベントをやろうなんて、セレナ様は本気なのかしら」


自分がプレイしていたゲームの中の、最大の山場となるイベント。


それが学園のクリスマスダンスパーティーで行われる、断罪イベントだ。


このイベントは、リオネル以外の攻略対象者を選んだ場合にも起きる。


ちなみにその他の攻略対象者とは、ランスロット、エリオット、ライアン、フェリクスの四人だ。


まあ簡単に言えば、ヒロインと攻略対象者達が寄ってたかってセレナを批判し、断罪しようというものである。


ゲームをプレイしていた時は意地悪な悪役令嬢相手のざまぁにスカッとしたものだが、セレナを相手にそれをするとなると、想像するだけでモヤモヤする。


「まあ、対象者全員セレナ様に好感を抱いてそうだし、兄二人に至っては完全に妹馬鹿(シスコン)だもの。寄ってたかって批判はありえないわね」


エリオットには直接会ったことがないが、昨日行われたキサラギ皇国の使者を歓迎する宴で、妹の舞を涙を流しながら見ていたとリオネルが言っていた。


護衛としてどうなのかと思ったが、その後あった襲撃には迅速に対応し、かなりご活躍だったらしい。


「それに、リオネルとあたしがセレナ様を断罪しようと声を上げても、誰も聞く耳持たないと思うんだけど……。自分が周りにどう思われているのか、分かってるのかしら」


ゲームとは違って、今のセレナはかなり学園の令息令嬢達から支持されている。


数ヶ月前、突然人が変わったセレナを、はじめは遠巻きに見ていた者達も、少しずつ彼女の言動を見たり実際に接したりするうちに温かい目で見るようになった。


武術の実技試験での凛々しい騎士服姿に心ときめかせる令嬢は多く、クッキー作りの件以降、セレナがやっているならとお菓子作りが流行るようになり、その上ファンクラブなるものまで生まれた。


女の結束とは強いものだ。


敵に回したら恐い。


「逆にあたし達が追放されるんじゃ……」


ミアは想像して、ゾッとした。


自慢ではないが、令嬢達によく思われていない自覚はある。


セレナを庇い自分達を批判する令嬢集団の姿が、あまりにもリアルにイメージできた。


そもそも今回の活躍で、王宮におけるセレナの人気も爆上がりのはずだ。


そんなセレナと第二王子であるリオネルの婚約破棄など、王宮が許すはずがない。


「やっぱり無理。レオナールだって黙ってないだろうし……あ。ちょっと待って」


自分の好みではないが、セレナに対してだけ優しい表情をする第一王子の姿を思い出し、ミアははたと思い立った。


「すまない、待たせた。父と母にこっぴどく説教されて……」


ミアが考えを纏めていると、そこにリオネルが現れた。


キラキラとした金髪に透き通るような碧眼。


自分の好みど真ん中の、麗しの王子様。


好感度を上げると盲目なまでに自分を信じ、好きだと言ってくれるリオネルのことが、ミア……いや、エミリアは大好きだった。


病気になってちょっと会わなくなったくらいで自分を忘れてしまった友達。


かわいそうにと泣くだけで、自分の我儘をほいほいと聞き入れ、自分を腫れ物扱いする両親。


自分を好きだと言ってくれる人が、現実世界にどれだけいるのだろう。


そんな薄っぺらい人間関係なんて、必要ない。


前世の自分にとって、リオネルが心の支えだったのだ。


「でも、それじゃいけなかったのね」


リオネルの顔を見て、ミアは苦笑いをした。


前世のミアは、自分の方から、辛いから、寂しいから側にいてほしいと言わなかった。


ごめんねも、ありがとうも、なにも言わなかった。


『わたくしは口しか出しませんから、ミアさんおひとりで、心を込めて作って下さいませ』


『ですから、一緒にわたくしと考えませんこと?』


あのちょっとズレた悪役令嬢の言葉が、嬉しかった。


一緒にやろうという言葉も、自分の力でやりなさいという言葉も、どちらもくれた人。


だからあたしも、ありがとうも、ごめんなさいも、どちらも言うことができた。


「……ね、リオネル」


もうリオネルのことをゲームの攻略対象者だなんて目で見ていない。


良いところも悪いところもあるけれど、それでも胸を張って好きだと言える相手だ。


いくらセレナが相手でも、身を引きたくなんてない。


「ちょっと相談があるの」


これは、みんなが幸せになれるために考えたこと。


ゲームのイベントだからじゃない。


悪役令嬢にざまぁするためじゃない。


「一芝居、打ってみない?」


セレナも自分も、最後に一緒に笑えるように。

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