思い出話に花を咲かせましょう1
「お嬢様〜!これでお別れなんて、寂しいです!!」
「まあ、アンリ様にそんなことを言って頂けるなんて光栄ですわ。ぜひまたこちらにお越しの際は、お知らせ下さいませ」
翌日、約束通りわたくしはリュカと共にお見送りのため王宮に来ておりました。
盛大な見送りは遠慮するとのことでしたが、ランスロットお兄様とレオ様はこうして一緒におりまして、おふたりもレイゲツ様、ハル様と挨拶を交わしております。
「名残惜しいですー!!」
僅かな時間ではありましたが、こんな風に言って頂ける程にアンリ様とも仲良くなれて嬉しいですわ。
お手紙のやり取りなどができたら良いのですがと伝えれば、当たり前にそのような交流ができるように、少しずつ開かれた国にしていこうとレイゲツ様が答えてくれました。
「そなたのこともいずれ国に招待できるよう、善処しよう」
「むしろお嫁に来て頂いても……」
「「それは駄目だ」」
アンリ様の言葉をばっさりと拒否したのは、レオ様とランスロットお兄様でした。
冗談に決まっておりますのに……そんなに真面目に答えなくても。
くすくすと笑うと、レイゲツ様がすっと手を差し出してきました。
一瞬驚きましたが、すぐにその手を取って握り締めます。
「また会おう」
「その日を楽しみにしておりますわ。レイゲツ様のご健勝を、心よりお祈りしております」
ぎゅっと握手した手を放し、互いに微笑み合います。
「大変お世話になりました。では、これで失礼致します」
ハル様のご挨拶を最後に、お三方は馬に乗り上がります。
そうしてそのまま、目礼だけをしてキサラギ皇国の方へと馬を走らせて行きました。
そのうしろ姿が見えなくなるまで手を振り続けます。
そんなわたくしに、ランスロットお兄様が優しく声をかけてくれました。
「行ってしまわれたね。セレナのお陰で国交も進みそうだし、今回は本当に助けられたよ」
「微力ではありますが、お力になれて良かったですわ。レイゲツ様は、きっと良い皇帝になられるでしょうね」
最後に握手した時のお顔は、とても清々しいものでした。
自由に互いの国を行き来したり、手紙のやり取りをしたりできるような間柄になる、その日を夢見てきっとこれからも努力されるのでしょう。
「なかなか無茶をする方だったがな。しかし、自分の目で見て判断するという考え方には好感が持てる」
レオ様もレイゲツ様のことを認めていらっしゃるようです。
「キサラギ皇国民は、素晴らしい皇太子様がいて幸せですわね」
「そう、だな」
わたくしの素直な感想だったのですが、なぜかレオ様は俯いてしまわれました。
なにか変なことを言ってしまったのでしょうか……?
レオ様の様子に落ち着かない気持ちになります。
そんなわたくし達を見て、ランスロットお兄様がにっこりと笑いました。
「さて、セレナ。どうやらレオ殿は君に話があるようだ。僕としてはものすごぉく不本意なのだが、君にとっての最悪は免れそうだから仕方がない。いいかい、遠慮せずに思ったことを言えば良いんだからね?」
な、なんでしょう、圧を感じますわ。
不本意だの最悪は免れるだの、よく分からないことばかりではありますが、とりあえず大人しく頷いておきました。
しかもお兄様ったら、去り際にレオ様を睨んではいませんでしたか?
「兄が申し訳ありません」
「いや、可愛がられているんだな」
可愛がられているのは大変嬉しいことなのですが、少々過保護な気も……。
そう言うとレオ様は、確かになと僅かに笑ってくれました。
そうですわ、昨日のことのお礼と謝罪をしなければ。
「少し時間がかかるが、付き合ってくれるか?落ち着いて話ができる場所に行こう」
口を開きかけたところでレオ様にそう提案され、移動することにいたしました。
西庭園の東屋が良いだろうとおっしゃって歩くレオ様は、まるで知り尽くした場所であるかのように迷いがありません。
もしかしてこの数日で王宮内を把握してしまったのでしょうか?
賢い方なのだろうとは思っておりましたが、驚きです。
庭園に着くと、そこには秋の落ち着いた色合いの花々が綺麗に咲いていました。
日差しもそれほど強くなく、暑くも寒くもなくて丁度良い気候です。
しばらく歩くと、シンプルながらも上品な東屋が見えてきました。
何度か王宮の庭園には来ておりますが、ここは初めてです。
温かな木製の机と椅子があり、わたくし達はそこに腰掛けました。
「すまないが、できれば少し離れたところにいてもらえるか?」
レオ様の言葉にリュカは少しだけ眉を上げましたが、なにも言わずに東屋の外、わたくし達の姿は見える場所へと移動してくれました。
それを見届けてから、はしたないと思いつつも、まずわたくしからお話ししたいとレオ様にお願いしました。
「まず、昨日は危ないところを助けて頂き、ありがとうございました。それから、守って下さったのに震えるだけで、お礼も言えずすぐに立ち上がることもできず、申し訳ありませんでした」
その場に立ち、頭を深く下げてお礼と謝罪を告げました。
斬られた人を見るのが初めてで、恐ろしいと思ってしまったのは仕方がないかと自分でも思いますが、守って下さったレオ様を恐がるような素振りを見せてしまったことは、いけなかったと思ったのです。
「……俺が、恐くなったのではないか?」
ああやはり、誤解させてしまったようです。
「いいえ。レオ様は出会った時から変わらず、さり気ない優しさでいつもわたくしを助けて下さっています。そんなレオ様に感謝こそすれ、恐がることなんてありませんわ」
眉を下げたレオ様の不安を取り除きたくて、しっかりと目を見つめてお話しします。
「だから、今からお話しして下さることも、そんなに不安に思わないで下さい。ちゃんと、最後まで聞きますから」
なにか大切なことをお話ししようとして下さっているのでしょう。
そして、少しだけ怖がっているのだと思います。
なにに対してなのかは分かりませんが、それでもわたしは、レオ様のお話をきちんと聞きたい。
「ありがとう、セレナ嬢」
レオ様は苦笑いをして、それから静かに口を開きました。




