おもてなしは日本人の心です4
長旅で皆様疲れているでしょうし、レイ様とアンリ様に至っては今朝まで倒れていたお体ですので、予定通り胃に優しいものを作ることにします。
玉子粥に浅漬け、かぼちゃの煮物。
このあたりですわね。
それと、レイ様ご所望の甘いもの。
それではまず、浅漬けから。
浅漬けとはいえ、漬物はやはりある程度漬けたほうが味が馴染みますので、レモンの蜂蜜漬けを作った時と同じように、“時間促進”の魔法を使います。
きゅうりとナスが良いでしょうか。
みょうがや生姜、鷹の爪などの薬味があればさらに美味しい!のですが……。
さすがにこの場にはありませんでしたし、一番胃に負担のない、塩と砂糖と酢で作る定番のものにしましょう。
「それで終わりですか?」
野菜を切って調味料で揉んだものを容器に入れていると、料理人のお兄さんが手元を覗いてきました。
「あ、ええ。本当は一日程置いておくと良いのですが。今から作るお粥にとても合うんですよ」
今日は魔法を使いますとは言えませんけれど。
某料理番組のように、前日から漬けたものがこちらです〜とお出しできたら良かったのですが、生憎昨日はわたくし自身、泣いて泣いて大変でしたので、そのようなことはやっておらず……。
準備不足で不甲斐ないですわ。
さらりと誤魔化して、お兄さんに切ってもらったかぼちゃを、醤油、酒、みりん、砂糖を混ぜて沸騰させた中に入れていきます。
不思議なことに、こういった調味料は普通にルクレール王国にもあるんですよね。
そして原産はキサラギ皇国ではありませんの。
けれど和食というものはこの国には存在しておりません。
まあキサラギ皇国も米料理が主流というだけで、煮物や漬物なんて文化はないかもしれませんし、わたくしが全く知らない料理が食べられている可能性だってありますが。
前世の記憶があるわたくしにしてみれば、なんとも不思議な世界です。
「あの、米料理はまだですか?」
「あ、申し訳ありません。もう一品だけ、待って頂けますか?まあ、これもある意味では米料理なんですけど……」
さすが新しい米料理を教えてもらえると息巻いて来て下さった料理人さんです。
早く早くとウズウズしていらっしゃいます。
お兄さんに謝りつつ、手早く“甘いもの”を作っていきます。
キサラギ皇国であの風習があるかは不明ですが、まあその場合はそんな風習のある国があるそうですよ、とでも言っておきましょう。
わたくしがそんなことを考えながら形作っているのを、お兄さんがじっと見つめていました。
「先程から思っていましたが……貴族のお嬢様なのに、とても手際がよろしいですね。まさかここまでとは思いませんでした。それに、新しい料理の数々……勉強になります!」
あら、どこかで覚えのある展開……。
レイ様を助けた時の医師と魔術師の反応にそっくりですわ。
あの時と同じように、上手くいけば良いのですが……という気持ちで苦笑いを零します。
そうこうしているうちに、最後のひとつを丸めて完成です。
「さあ、ではいよいよ玉子粥を作ります。土鍋……はさすがにありませんよね。少し大きめの鍋を出して頂けますか?」
「はい!」
待ってました!と言わんばかりにお兄さんが返事をしました。
本当にお待たせ致しましたわ、申し訳ありません。
心の中で謝り、食材の中から立派な昆布を取り出します。
やはり和食といったら出汁ですわ!
まず昆布を固く絞った布巾で軽く拭き、水に付けます。
「このまましばらくおきます。三十分程おいておけばさらに濃い出汁がとれるのですが、今日は短めにして、薄味に致しますね」
「ダシ?濃い?」
出汁を知らないらしく、お兄さんは頭の上にハテナマークをたくさん乗せておりましたが、口で言うよりやってみて、実際に口にしてみた方が早いですわね。
後で出汁だけで味見をしてみましょう。
その間に玉子を割りほぐしておき、具になるきのこを小さめに切り、葱も小口切りにしておきます。
下ごしらえが整ったら、昆布の入った鍋に火をつけます。
そのまま様子を見て沸騰する直前に火を消せば、出汁の完成。
「これが出汁といいます。ひと口どうぞ」
わたくしが小さいお皿に入れた出汁を差し出すと、お兄さんは恐る恐る口に含みました。
すると、かっ!と目を見開いたのです。
「ちょ、ちょちょちょちょちょっ、待って下さい!」
「美味しいですか?」
「いや、なにこれ……ウマっ!!」
あらまあ、慣れていない方には物足りないかもと思っていたのに、杞憂だったようですわね。
お兄さんの目がキラキラしております。
「良かったです。後は簡単ですわ。ご飯と、好きな具材を入れて煮込む。それだけですもの」
ただ玉子は好みがありますので、早めに入れるか食べるか直前に入れるか、迷うところですわね。
それもお聞きすれば良かったですわと悩んでいると、リュカがそれなら……と提案してくれました。
「玉子は入れずに、向こうで入れたらどうです?好みの固さになるまで魔法で温めれば良いんですよ」
「リュカ……あなた天才でしたのね!?」
卓上コンロなどありませんよねぇ……と思っていたわたくしは大馬鹿者ですわ!
前世の記憶が強すぎて魔法という便利すぎる手法を忘れていたなんて!!
「料理に魔法を使うなんて、旅の時か騎士達の野営の時くらいですけど……」
「別にいーんじゃないですか?面白そうですし」
「大丈夫だと思いますわ!料理の仕上げをお客様の目の前で、というパフォーマンスがあるくらいですもの!逆に喜んで頂けるかもしれませんよ!?」
お兄さんの戸惑いなんてそっちのけで、わたくしはリュカの案に大賛成したのでした。




