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わたくし悪役令嬢になります!1

翌日。


「おはようございます」


「まあ、おはようございます……?」


わたくしは()()()()()()()、リュカを伴って学園へと登校しました。


「おはようございます」


「ええっと……おはようございます……」


すれ違う方々にこうしてご挨拶しているのですが、どうにも皆様わたくしが誰だが分からない様子です。


挨拶を返しては下さいますが、首を傾げたり、会話に困ったりしています。


それも仕方ありませんわね、昨日までのわたくしとは見た目がかなり異なりますもの。


「あのっ、美しいご令嬢!失礼ですが、お名前をお尋ねしてもよろしいですか?」


そこへひとりの男子生徒が、頬を染めながらわたくしの前に立ちました。


周囲の方々も、興味津々といった様子でこちらを窺っています。


そんな彼に向かって、わたくしは昨日鏡の前で練習した通りに、ふわりと微笑みました。


「セレナ・リュミエールですわ」


「は……?」


声が小さすぎたのでしょうか、聞こえなかったようでしたのでもう一度名乗りますと、彼は今度は後すざりしてぷるぷると震えました。


「「「「「えええええーーーーーっ!?」」」」」


そして周りにいらっしゃった方々と共に、声を上げたのです。


そんな彼らに、わたくしはもう一度にっこりと微笑みを返しました。






時は遡り、昨日のぷろでゅーす開始から、二時間後。


「……こりゃすげえ」


「ねっ?美しいでしょう?わたくしの目に狂いはありませんでしたわね!ああっ、この世界に着物があればっっ!洋装も素敵ですが、和装も絶対に似合いますわぁぁ!!」


わたくしは、予想以上の出来に大変満足しておりました。


まずお化粧を落としお風呂にも入って、なにも飾られていない素のままのセレナになりました。


毎日時間をかけてメイドにセットさせていた髪は、本来はクセのない綺麗なさらさらの直毛なのです。


触り心地など、まるで絹糸ですのよ。


そして化粧ですが、元々顔立ちがくっきりしていますので、それほど塗りたくる必要はありませんの。


さすが公爵家、基礎化粧品は最高級のものを揃えておりますし、すっぴんでも十分なのですが、切れ長の眼を綺麗に見せるためのラインを引き、長い睫毛をさらに強調させ、唇も元々の赤みを際立たせる紅を指しました。


結果。


神秘的な美しさと色気を併せ持ち、それでいて上品さを少しも損なわない、深窓の令嬢の出来上がりですわ!


「しゃべったら台無しですけどね。でもまあ、悪くはないんじゃないですか?」


「うふふ、これで朝の支度にかかる時間もかなり短縮されそうですわね。今までメイドさんには、随分と早起きを強いてしまっていましたからねぇ」


きっちりメイクを施し、髪も入念にくるくると巻くのには、それなりの時間が必要でしたもの。


わたくし、睡眠はたっぷりとりたい派なので、できるだけ朝は遅くまで寝ていたいのですわ!


「あー、そのメイドですけど……さっきすげぇ不思議そうな顔してましたよ。何かしたんですか?」


はて?わたくしには身に覚えがありませんが……ああ、でもひょっとして。


この公爵家の使用人たちは、セレナに対してあまり良い印象を持ってはいませんでした。


使用人たちにまで緊張を解けないセレナは、やはりというか、顔も恐いし口を開いても冗談の一つも言えない。


おそらく、何を考えているのか分からないし、不気味に思っていたのかもしれませんね。


ですが相手は公爵令嬢、変な態度を取ることもできず、必要最低限しか寄り付かなくなってしまったのでしょう。


「まあ、かなり人が変わっちまったんだから、そうなるのも当然ですよね」


そうですわね、わたくし何も考えずに、馴れ馴れしくもぷろでゅーすのお手伝いをお願いしてしまいましたもの。


「もっとしっかりお礼を言うべきでしたでしょうか……明日の朝、謝らないといけませんわね」


「や、それ逆効果ですから。もっと変な顔をされるだけですよ」


そしてリュカの言う通り、翌朝親しげに話しかけたわたくしは、メイドにぎょっとした目で見られたのです――――。






「それにしても少しひどくはありません?少しばかり人が変わったからって、こんなに遠巻きに見なくても」


「いや、全然少しじゃないし。変なもの食ったんじゃないかとか、頭でも打ったんじゃないかって噂されてますよ。まあ、当たらずといえども遠からずですし、この反応が普通ですよ」


午前中の授業を終え、わたくしはリュカと一緒に学園のカフェテリアにいました。


今世わたくしが暮らしているのは、ルクレール王国という、諸外国との貿易の盛んな大国です。


この国の王族は、王と王妃、それに王子が三人、姫がひとり。


この二番目の王子が、昨日ご令嬢と一緒にわたくしを非難していました、婚約者のリオネル殿下です。


わたくしたちは共に十七歳、学園の第三学年になります。


学園とは、貴族の子息令嬢が通う学びの場で、十五歳になる年から十九歳になる年までの五年間を過ごします。


基本的にここに通うのは貴族の義務ですので、記憶が戻る前は人見知りだったわたくしも、入学は免れず、こうして通っているということです。


ちなみにリュカは二十五歳ですが、伯爵家以上の高位貴族の子息令嬢のみ従者や侍女をつけることが許可されておりますので、こうしてわたくしのフォロー役……お目付け役の方が良いでしょうか?を担って学園に共に登校しているのです。


「ですからせめて、深窓の令嬢モードでいて下さいね。興奮すると変なのが混ざっちゃうんで、気を付けて」


さり気なくリュカが失礼なことを言いましたわ。


まあ確かに、気が昂ぶると早口になって少しばかり発言も大胆になりがちですけど……。


「いやだから、全然少しじゃねぇから」


ついにリュカから敬語がなくなってしまいました。


どうやら度が過ぎると素が出てしまうみたいですね。


「分かりましたわ。暴走しないように気を付けます!指切りでもいたしましょうか?」


「暴走……はマジ止めて下さいね……」


脱力するリュカの小指に、わたくしはしっかりと自分の小指を絡めて約束したのでした。

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