差し入れお菓子は、ヒロインの専売特許ですのよ?5
「セレナ様、型抜きも終わりました!……って、なに作っていらっしゃるんですか?」
「まあ、皆様お上手にできましたね。あとはオーブンで焼くだけですよ。ふふ、これは少し試しに作ってみているんです。持ち帰って家族に振る舞おうと思いまして」
前世でよく作ったのだと言えば、お父様達もきっと興味を持って下さるでしょうね。
それにしても、日本語といい薙刀といい、異世界なのに日本のものがたくさんあるのはすごく嬉しいですわ。
「まあ……。見た目はちょっと地味ですけど、セレナ様がおっしゃるなら、きっと美味しいんでしょうね」
確かにジュリア様が言うように、このお菓子は華やかさに欠けますね。
でもわたくしにとっては、とても大切な思い出のお菓子なのです。
「ええ。今は試しに作っているのですが、いずれジュリア様やエマ様にも召し上がって頂けたらと思いますわ」
「はい、楽しみにしていますね」
そんな地味で見慣れないお菓子は食べたくない、そう言われても仕方ありませんのに。
本当にわたくしのお友達は優しいですね。
「さあ、ではクッキーを焼きましょう。まずは十分くらい。その後は様子を見ながら焼きましょうね」
焼き上がった後の皆様の顔が、どうか喜びに溢れていますように。
クッキー作りは大成功、皆で袋やリボンで思い思いにラッピングもしました。
飛び入りのミアさんも、感激で目がキラキラしていてかわいらしかったですわね。
クッキーを大切そうに持って、すぐにリオネル殿下の元へと走って行きました。
ジュリア様ははしたないと怒っていましたが、最後には今回は大目に見ますと言ってくれました。
恋する乙女同士、気持ちが分かるのでしょう。
同じく飛び入りの同じクラスのご令嬢達も、嬉しそうにお礼を言って婚約者たちの元へと行かれました。
お相手の男性が喜んで下さいますようにと伝えれば、目を潤ませて握手してくれました。
ちなみに食堂のおば様方にも皆から少しずつおすそ分けのクッキーをプレゼントして、とても喜ばれました。
「食堂のおばちゃんにクラスメイトに……。一体どれだけ誑かす気でいるんですかあんたは」
「まあ、人聞きの悪い。お友達を増やしているだけですわ」
悪態をつくリュカに、心外ですと返します。
さて、明日ライアン様に渡すというエマ様も一緒に、わたくし達は主にリュカが作ったクッキーを持って、剣術の稽古場へと向かいました。
レモンの蜂蜜漬けも良い頃合いでしたので、炭酸水の入ったボトルも持って。
稽古場が近付くにつれて、どきどきと緊張した様子になるジュリア様がとてもかわいらしくて、三人で笑ってしまいました。
喜んでくれるはずと思ってはいても、恋する乙女はいつだってこのように思い悩むものなのでしょう。
いつかわたくしも、そんなどきどきを体験したいものですわ……。
そんなことを思っていると訓練場に着き、フェリクス殿下とレオ様の姿が見えました。
丁度おふたりが剣を持って、打ち合っているところでした。
その剣を振るう姿に、わたくしは目を見開きました。
スラリとした細身のフェリクス殿下が軽々と剣を扱うのにも驚きましたが、レオ様の圧倒的な剣さばきに、見惚れてしまったのです。
エリオットお兄様のテクニカルな剣技も素晴らしいのですが、レオ様はまず、その長身とがっしりとした体躯を活かした力強さが際立っています。
だからといって力任せな訳ではなくて、しっかりと相手の剣の動きに反応し、技術も素晴らしいものをお持ちです。
剣に関しては素人ですが、わたくしの薙刀などでは、少しも刃が立たないでしょう。
そう思わせるだけの実力をお持ちなのは、間違いありません。
「そこまで。――――あれ?フェリクス殿下、婚約者の方ではないですか?」
わたくし達に気付いたご友人が、フェリクス殿下にそう声をかけてくれました。
「あれ、ジュリア嬢?どうしたんだい、こんなところに来て」
「セレナ嬢?と、オランジュ伯爵令嬢も一緒だな」
フェリクス殿下とレオ様も気付いて、こちらに来てくれました。
隣を見れば、ジュリア様も見惚れていたのか、頬を染めて目もキラキラさせています。
「あの、これ……」
「クッキー?どうしたんだい?」
おずおずとクッキーを渡し、ジュリア様が手作りだと告げればフェリクス殿下はとても嬉しそうに包みを開けました。
一口食べて、破顔。
おふたりとも、とても幸せそうです。
「へえ。貴族令嬢が菓子作りなんて珍しいが、良かったなフェリクス」
「おや、独り身の君には悪いことをしたね」
レオ様とフェリクス殿下、そんな軽口を言い合うなんて、とても仲がよろしいのですね。
「あ、他の皆様方の分もありますの。クッキーと、さっぱりした飲み物も良かったらどうぞ」
おふたりの様子にほっこりしながらリュカに持ってもらっていたクッキーを差し出すと、他のご友人方も集まってきました。
休憩用のコップをお借りして、作ってきたレモンを入れて炭酸水を注げば、簡単蜂蜜レモンソーダの出来上がりですわ。
「う、うまい!」
「へえ、とても美味しいね」
「……美味い」
ご友人もフェリクス殿下もレオ様も、お口に合ったようでほっとします。
クッキーも喜んでもらえて良かったですわ。
「まさかリュミエール公爵令嬢の手作りクッキーが食べられるなんて!感激です!」
「この味、一生忘れません!」
「え、ええとそれは……」
「しっ!お嬢、年若い純情な青年達の願望を打ち砕いてはいけません。どうか、黙って頷いておいて下さい」
滂沱の涙を流してクッキーを頬張るご友人方に、それはほとんどリュカの手作りであることを告げようとしたのですが、そのリュカに止められてしまいました。
なぜかと理由を聞きたい気もしたのですが、リュカの言う通り、黙って笑顔を返すだけにしたのでした……。




