差し入れお菓子は、ヒロインの専売特許ですのよ?4
ほろほろと泣くミアさんの涙を、ハンカチで優しく拭い、気持ちを切り替えるようにぱんと手を打ちます。
「お菓子作りは正確に材料を計れば、大抵美味しく出来上がるものですわ。わたくしは口しか出しませんから、ミアさんおひとりで、心を込めて作って下さいませ」
こくんと頷き、ミアさんは泣くのを止めてくれました。
「悲しい気持ちで作るよりも、大切な人を想いながら作った方が美味しくなりますよ」
「……分かりました。よろしくお願いします」
素直にそう言って頭を下げるミアさん、とても健気でかわいらしいですわ!
全く、殿下も見る目がおありですね!
うふふとミアさんに微笑みかけていると、どこからか視線を感じました。
なんでしょうときょろきょろしてみると、扉の隙間から、ご令嬢が覗いているのが見えました。
「なにかご用ですか?」
目が合ったので話しかけてみれば、びくりと肩を跳ねさせ厨房に入って来たのは、三人のクラスメイトでした。
「お、お取り込み中すみません。えっと、その、ジュリア様に……」
「私ですか?」
思いもよらず名を呼ばれ、ジュリア様が驚きました。
どうやらフェリクス殿下は、レオ様達クラスの方と、訓練をしに最近出来た剣術の稽古場へ向かったそうです。
ジュリア様がお菓子を作ると聞いて、探されるのではないかと気を利かせて教えに来てくれたようですね。
「お優しいのですね、ありがとうございます」
「いっ、いえ!私達は別に……」
お礼を口にすると、真っ赤になってご謙遜なさいました。
それにしても、剣の訓練ですか……。
フェリクス殿下に渡しに行くなら、皆さんで召し上がれるものも用意すると良いかもしれません。
もちろんジュリア様が作るクッキーはフェリクス殿下のものですが、わたくしが作ったものなら問題ありませんわね。
ジュリア様も、ご友人達もいる中、フェリクス殿下だけに渡すのは気が引けるでしょうし……。
そういえばレモンと蜂蜜があったはず。
運動された後の、さっぱりしたものも用意しましょうか。
頭の中で簡単に順序立てて、教えに来て下さったご令嬢方に向き直ります。
「あの、もしよろしければ一緒に作りませんか?わたくしもフェリクス殿下以外の方用に作ろうと思いますので」
「えっ!?」
あ、そうでした。
普通のご令嬢はお料理をしないのでしたわ。
「ご、ごめんなさい。無理にとは言いませんの、もし良かったらという意味で……」
「ぜひ!」
「こちらがお願いしたいくらいです!」
「よろしくお願いしますわ!」
と思ったら、意外にもお三方とも興味津々のようです。
「リュカ、最近お料理って流行りなんですか?」
「や、そんな話は聞いたことないですけど。あ〜まあ、お嬢達がやろうとしてるのを見て、やってみたいなと思ったんじゃないですか?」
こっそりリュカに聞いてみたのですが、別に料理が流行っている訳ではないようです。
お三方とも気を遣ってやりたいと言ってくれた訳でもなさそうでしたので、ご一緒して頂くことになりました。
皆様婚約者が学園に在席されているとのことでしたので、作ったお菓子はお相手に渡してはと提案してみました。
すると皆様顔を綻ばせて、ますますやる気になって下さいました。
全く、どうして皆様こんなにかわいらしいのでしょう。
恋とは、こんなにも女性を輝かせてくれるものなのですね。
「さて、大人数になってしまいましたが、楽しく作りましょうね。では、材料の分量ですが……」
近くにあったホワイトボードに分量と作り方を書けば、皆様意外と簡単にできるのねとほっとしていました。
そうそう、そんなに難しく考えなくても良いのです。
皆様手際もなかなかのもので、心配していたミアさんも、ホワイトボードを確認しながら一生懸命手を動かしています。
これなら、わたくしが手を出す必要もなさそうですね。
そこで、皆様の様子を見ながらわたくしはレモンと蜂蜜を手に取りました。
綺麗に洗って輪切りにし、蜂蜜で漬けるだけ。
そう、運動後にとても適したレモンの蜂蜜漬けです。
といっても漬かるのに時間がかかりますので、皆様の目を盗んでこっそりと……。
「お嬢?なにしてんですか?」
「リュ、リュカ。目ざといですわね……」
リュカに見つかってしまいましたが、まあ変なことをするわけじゃありませんので、きちんと説明しました。
そしてこっそりと、レモンを敷き詰めた入れ物に向かって、魔法陣を描きます。
「つーか、そんなことよく考えますね」
「本当にできるかは分かりませんが、多分大丈夫だと……えいっ!」
魔法陣に描いた片仮名は、“ジカン”“ススム”。
ついでに氷の属性の図形を交えて、冷蔵の効果も入れてみましょう。
冷やしながら時間の進みを早める、みたいな感じですわね。
「“冷蔵&時間促進”」
「呪文名、そのまんまですね」
なかなか良いものが思い浮かばないんですもの!
分かりやすくて良いじゃありませんかと思いながら発動させると、思った通りの効果がきちんと蜂蜜漬けにかかったようです。
入れ物が冷え、レモンが蜂蜜を吸って柔らかくなっていくのが分かります。
これなら、クッキーを作っている間しばらく置いておけば、しっかり漬かるはずです。
「恐らく成功ですわね。さあ、わたくし達もクッキーを作りましょう」
「え、俺もですか?」
レオ様達もいらっしゃるとのことですもの、たくさん作らなければ。
思った通り、リュカはとても器用で生地作りも上手にこなしていました。
エマ様たちもそれを見て驚き、負けていられません!と闘志を燃やしていました。
リュカってば、すっかり仲良しですわね。
さて、予想以上にリュカが有能だったので、わたくし手持ち無沙汰になってしまいましたわ。
……あ、そうですわ。
「先程の……。ああ、やはり。ふふ、程よい甘さで美味しい」
材料の中から懐かしい味のものを取り出し、せっかくならばと、もうひとつお菓子を作ることにしました。
いつもありがとうございます!
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毎日更新キツくなってきたなぁと思っていたのですが、皆様のおかげでもう少し頑張れそうです!
そのうち二日おきとかになるかもしれませんが……笑
もうしばらく天然お嬢様にお付き合い下さいませ♡




