差し入れお菓子は、ヒロインの専売特許ですのよ?1
試験が全日程終わり、穏やかな日常が戻って来…るかと思っていたのですが、そんなことはありませんでした。
まずは学園長先生からのお呼び出し。
お叱りか魔術師への第一歩か!?と、どきどきしながら出向いたお話は、どちらかといえば後者よりのものでした。
定期的に学園の魔法担当の先生の研究を、お手伝いしてほしいとのことでした。
魔法に興味津々のわたくしは、ふたつ返事で了承。
先生からも、最近熱心だから期待していたんだとの嬉しいお言葉を頂きました。
保護者呼び出しとならずに済んで、ほっと胸を撫で下ろしました。
というわけでここ最近、週にニ、三日の頻度で放課後に先生の研究室にお邪魔しています。
そして先日の武術の試験の後、朝に薙刀の特訓を始めました。
できるだけ寝ていたい派のわたくしですが、多忙なランスロットお兄様が朝なら空いているからと時々お相手をして下さるので、早起きを頑張っているのです。
ちなみにあの試験の後、エリオットお兄様はかなり不機嫌でした。
「なんで剣じゃないんだ!俺が、俺が教えたかったっ……!」
剣道と薙刀、構えは似ていますが結構違うものなんですよね……。
またこの世界は西洋風ですから、剣道とも随分違いますし。
弓術に関しましても、精神統一のために弓道を少しかじったことがありましたが、西洋弓とはかなり勝手が違いましたので撃沈でしたわ。
「うーん、なんとなく持ち方は知っているみたいですし、筋は悪くないと思うのですが……。あれだけ扱いに優れているなら、槍で決定とすれば良いでしょうね」
エマ様の婚約者のライアン様にもそう言われてしまいました。
というわけで、わたくしは護身術で槍術を選択することになったのです。
「エリオットお兄様。わたくし体術も習ってみたいと思ってましたの。いずれお兄様に教えて頂きたいですわ」
エリオットお兄様にはそうフォローしておきました。
体の大きいエリオットお兄様が、まるでしゅんとした大型犬のようでかわいいと思ってしまったことは秘密ですわ。
そしてそんなエリオットお兄様を、ランスロットお兄様が勝ち誇ったようでいて、また憐れむような目で見ていたと、後からリュカに聞きました。
……かわいがって頂いているのは大変嬉しいのですが、少々行き過ぎてはいないかと思っているところです。
とまあ、忙しくはなりましたが充実していることは確かで、しかも試験から向こう、何人かのご令嬢が話しかけてくれるようにもなりました。
緊張したような表情や辿々しい話し方など、まだ少し怖がっているような様子はありますが、歩み寄ろうとして下さっているのだと思えば、胸が温かくなります。
貴族令嬢といえば、気難しい方もいらっしゃるのではと思っていましたが、わたくしの偏見だったようですわね。
皆様とてもかわいらしくて親切で、素敵な方ばかりです。
ただひとつ気になること、それは。
「――――それで?悪役令嬢とやらはどうなったんです?」
「ううっ……痛いところをつかないで下さい」
そうなのです、最近朝練や勉学、魔法の研究にと忙しくてちっともリオネル殿下とミア様に接触していないのですわ!
加えて一応婚約者として王子妃教育も王宮に習いに行っておりますので、おふたりに構っている暇がないのです。
「これではわたくし、立派な悪役令嬢になれないのではと心配しているのです……」
「立派な王子妃には近付いていますけどね」
「もうリュカ!意地悪ですわ!」
「文武両道、品行方正。魔法にも明るい。リオネル殿下には勿体無いのでは?って意見まで出てますよ。もう観念して悪役令嬢なんて止めた方が良いんじゃないですか?正直、お嬢には向いてないですよ」
向いていない、その言葉がグサリとわたくしの胸に刺さりました。
「で、ですがわたくしでは殿下を幸せにはできません!リオネル殿下と結ばれるのは、ミアさんと決まっているのです!」
涙目でそう主張したのですが、リュカには鼻で笑われてしまいました。
うう……酷いですわ!
「……まあ、あの殿下にお嬢を幸せできるとは思っていませんがね。向こうが勝手に自滅してくれればそれで良いんですけど」
「?リュカ、ちょっと声が小さすぎてよく聞こえませんでした。今なんと?」
「はい?なーんにも言ってませんよ」
なにか呟いていたと思ったのですが……気のせいだったようです。
と、とにかくこのままではいけません。
忙しいことを理由に悪役令嬢を疎かにするのはいけないことですわ!
「いつからあんたの本業が悪役令嬢になったんですか」
「それはともかく、次の一手を考えませんと……」
リュカの声を綺麗に無視したその時、わたくしの目の前にお茶菓子のクッキーが目に入りました。
そこで、ピンと来たのです!
「これですわ!」
クッキーを摘まみ高らかに掲げると、リュカが訝しげな表情をしました。
「クッキー?毒入りでも作るんですか?あ、媚薬入りとか?」
「な、ななななにをおっしゃっているんです!そんな物騒なこと考えておりませんわ!もっと健全なことです!」
健全ねぇ……とリュカがひょいとクッキーを摘んで口に入れます。
「ほれで?にゃに考えへてるんです?」
「……むしゃむしゃ食べながら喋らないで下さいませ」
我が道を行くリュカに脱力しながらも、わたくしは思いついたことを話していきました。
「ふーん、お嬢にしてはなかなか良いこと考えたんじゃないですか?」
「……お嬢にしては、は余計じゃありませんこと?」
最近リュカのわたくしへの扱いが雑になってきている気がしますが、気を許してくれているのだと前向きに考えることにしましょう。
とにかく早速明日、作戦開始ですわ!
「名付けて“あの子の手作りお菓子で胸キュン大作戦”ですわ!待っていて下さいませね、殿下、ミアさん!」
「作戦名、ダサ……」
リュカの暴言にも挫けることなく、わたくしはいそいそと明日のシナリオを書くべく、机に向かったのでした。




