閑話*応援団*
今日は本編お休みして、番外編です。
女子達のわちゃわちゃです(*´∀`*)
最後の実技試験が終わった日、学園のある一室には、第三学年を中心とした十数名の令嬢たちが集まっていた。
その多くはセレナと同じAクラスに所属する令嬢、珍しいのは、上は侯爵家から下は男爵家の者まで、幅広い身分の者が揃っているということだ。
「皆様、揃いまして?」
「ええ、お誘いした方は全員」
その中で最も高い身分のヴィクトリア・ベランジェ侯爵令嬢がそう声をかけると、その場の令嬢達が確かめ合うように頷いた。
そして扉がしっかりと閉まっていることを確認すると、すうっと大きく息を吸い込み、思い切り声を上げた。
「それではこれより、リュミエール公爵令嬢、セレナ様の魅力について皆でとことんお話し合いを致しましょう!!」
「「「待っておりましたわ!!」」」
嵐のような拍手が鳴り響くとともに、令嬢達の黄色い声が上がった。
セレナが怜奈としての記憶を取り戻して以来、少しずつ周囲の令嬢達のセレナを見る目が変わった。
どう変わったかといえば、まさに一匹狼の悪女というセレナにびくびくしながら遠巻きに見ていたのが、外見・言動の変化に戸惑い、その後美しさに時折見惚れ、そして今や完璧な淑女だと羨望の眼差しで見つめ、凛々しい立ち振る舞いに頬を染めるようになったのだ。
婚約者である第二王子と男爵令嬢の醜聞も、セレナの好感を上げることになった。
婚約者からの不当な扱いに怒ることも哀しみに暮れることもなく、毅然とした態度を取っている。
そして、第二王子の婚約者という肩書がなくても、自分ひとりできちんと立てるのだと身を以て証明している。
また、エマやジュリアという公平な友人を持ち、友好国のフェリクスやレオからも好感を持たれ、令嬢達の憧れの的であるリュミエール兄弟からも愛されている。
それだけでなく、勇気を出して声をかけてみれば、公爵令嬢という高位貴族でありながらとても気さくで気遣いにあふれていた。
その上、あの容姿だ。
美人で高身長のスタイル抜群、今回の武術試験での騎士服が、さらに令嬢達を焚き付けた。
巷で流行っている小説に出てくる“男装騎士”と重ねて見てしまう令嬢は、ひとりやふたりではなかった。
「本っ当に、控えめに言って最高でしたわ!」
「ランスロット様との絡みがまた……!」
「あら、オランジュ伯爵令嬢とのやり取りも素敵でしたわ!」
もしもこの世界にカメラやスマートフォンなどがあれば、間違いなく写真撮影会が始まっていた。
それほどまでに騎士服姿のセレナは、令嬢達のツボに入っていたのだ。
「私達のことも気遣って下さいましたよね……」
「しかも、ライバルであるブランシャール男爵令嬢にまで、あのようなお優しい言葉をかけて……。全く、世の男性方にはセレナ様を見習ってほしいですわ!」
そしてその言葉の数々もまた、理想の男性に言われたい台詞と見事に一致していた。
ちなみに間近でそれを聞いていた男性陣は、『そんなこっ恥ずかしい台詞、イケメンにしか言えねぇよ!それも俺等程度のそんじょそこらのイケメンでは無理!』と思っていた。
とにかく、この数ヶ月でセレナは多くの令嬢達の心を掴んでいたのだ。
ちなみに前世で怜奈はそのような扱いをされたことがない。
なぜかといえば、それは大いに容姿の違いだろう。
その言動にはほぼ違いがないのだから。
前世の怜奈は、小柄で華奢、色素の薄い髪にくりくりとした大きな目の、とても愛らしい顔立ちだった。
見た目からもほわほわとした雰囲気を醸し出しており、いわば妹系美少女だったのだ。
そんな彼女が時折男前な台詞を言っても、“天使!”“妹にしたい!”“守ってあげたい!”という反応がほとんどだった。
舞う姿は巫女姫のようだと褒めそやされ、薙刀で戦いを行っても“カワイイのに強い!”という感想ばかり。
それがあら不思議、能力・言動はそのままに、容姿を今世のセレナとすっかり入れ替えれば、“素敵なお姉様”になるのだ。
「見た目だけじゃないっていうのが素敵ですよね。ここだけの話、第二王子殿下には幻滅してしまいました」
「私も以前は素敵な王子様!って思っていたんですけど……最近、考えが変わりました。セレナ様がもし、王子様だったら……」
そこで令嬢達の頭に浮かんだのは、王子服姿のセレナ。
『わたくしとダンスを踊って頂けませんか?』
「「「「きゃあああああっ!!」」」」
妄想だけで萌える、後日、ある令嬢がそう言った。
そんな盛り上がりの中、ひとりの令嬢がぽつりと零す。
「ですが私、セレナ様には女性としても幸せになって頂きたいですわ……。大切にされない結婚だなんて、可哀想です」
「確かにあの様子では、第二王子殿下と一緒になっても、幸せにはなれませんよね……」
部屋の温度が急降下する。
セレナの今後を想って、善良な令嬢達は憂いの表情を浮かべた。
「……わたくし、セレナ様にはアングラード様がお似合いだと思いますわ」
「確かに……。私、ダンスの試験で同じグループだったのですが、おふたりのダンスは、言葉では言い表せないくらいとてもロマンチックな光景でしたわ……」
その現場に居合わせた令嬢達は、頬に手をあててほうっとため息をついた。
「わたくしも見たかったですわ!なぜわたくしは同じグループではなかったのでしょう!?」
「お話を聞いただけで失神しそうでしたのに、直接見たらどうなっていたことか……!いえ、それでも見たかったですわ!」
そう、リオネルとミアの寸劇→颯爽とレオ登場→夢のようなダンスシーンというあの日の出来事は、学園中に広まっていた。
それと共に、リオネルとミアへの批判も高まっていた。
「皆様、ここはひとつ、わたくし達が動くしかありませんわ」
それを黙って聞いていたヴィクトリアは、決意を込めた目をして、令嬢達にそう提案した。
そしてその言葉に、その場にいた全員の心がひとつになった。
「皆で力を合わせて、陰ながらセレナ様を応援しましょう。……しかし、強要は致しません」
ごくり、とどこかで息を飲む音がした。
「名付けて“セレナお姉様応援団”。加盟なさりたい方は、挙手をお願い致しますわ!」
「はい!」
「はい!」
「はいぃい!!」
即座に全員の手が挙がったことに、ヴィクトリアは満足気に頷いた。
「今この時をもって、わたくし達は同志です。他にも見所のある方がいらっしゃったら、わたくしの所に連れておいでなさい!」
「分かりましたわ!」
「これからよろしくお願い致します、ヴィクトリア様!」
斯くして、陰ながらセレナを支える令嬢集団、“セレナお姉様応援団”が結成されたのだった――――。




