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これが巷で噂の異世界転生?2

セレナ・リュミエール公爵令嬢。


漆黒の巻き髪にツンと釣り上がりぎみの紫眼は眼光鋭く、元々顔立ちのくっきりした美人なのだが、けばけばしい化粧も相まって、悪女のイメージが強すぎる。


その上170センチと女性にしては背が高く、その長身から見下ろされた令嬢たちが、何人も眼力に怯え泣いてきた。


あまり笑わない、あまり話さない、口を開けば紡がれるのは毒のような言葉の数々。


それゆえ、学園でも避けられることが多かった。


そしてそれは、自身の婚約者であるこの国の第二王子も例外ではなかった。






「……これが周りから見た今までのわたくし。間違いありませんわよね?」


「まあ、そーっすね」


リュミエール公爵邸に戻って来たわたくし達は、自室のソファに掛けて話していました。


はじめこそ急に変貌したわたくしに警戒していたリュカも、事情を話せばすっかり肩の力を抜いてくれました。


……というか、文字通り力を抜いてだらっと座りお茶をすすっています。


「それにしてもひどいですわね。濡羽色の髪を巻いているのも、頑張ったお化粧も、少しでもかわいらしく見せたいがための努力でしたのに」


「あの第二王子(クソガキ)の女の好みが目がパッチリのかわいい系美少女だっつーから、お嬢がそうしたんでしたね」


「切れ長の眼だって美しいのに……まるで最高級のアメジストのようで、わたくし鏡を見て驚きましたわ」


「邪悪に見えるってよく言われてますけどね。目つきが悪いのは、ただ単に人見知りで恐い顔になっちまうだけだし、きつい口調も緊張して上手くしゃべれないだけなんですけどね」


「この背が高くてスラリとしているのに、ボンキュッボンなわがままボディも素敵ですわ!前世では華奢でしたから、憧れだったのですよねぇ……。このずっしりとしたお胸!」


「……それ、貴族令嬢として、男の前で言っちゃダメなやつですからね?おい、揉むな」


リュカはそういいますが、ない者からすればものすごく羨ましいのです。


髪だって、前世は色素が薄い焦げ茶色をしていたので、母上様のぬばたまの髪がとても羨ましかった。


こんな感じでリュカとやり取りしていると、はあっとため息をついて、リュカはわたくしを見ました。


「最初は信じられなかったけど、あんたが前世の記憶を思い出して人が変わったってことは、理解しました。俺とあんた以外知らないようなことまで答えたんだ、お嬢であることに間違いはないんでしょう」


だから警戒も解いたが、それにしても変わり過ぎだろ!と頭を抱えています。


そう言われてもセレナはわたくしで、わたくしはセレナなのですから仕方ありませんわ。


ここでわたくしの前世について、お話ししておきましょう。


わたくしの前世の名前は、如月(きさらぎ) 怜奈(れな)


如月流という、日本舞踊の流派を代々受け継いできた家系に生まれました。


セレナと怜奈、名前が似ているためか、セレナと呼ばれてもあまり違和感ありませんね。


両親は幼馴染で相思相愛で結ばれたのですが、父上様はわたくしが幼い頃に他界。


母上様は家を守りながら、必死にわたくしを育ててくれました。


といっても、屋敷には世話人達が大勢いましたし、お稽古にやってくるお兄様お姉様達にもたくさん遊んで頂きました。


ですから、寂しいと感じたことはあまりありません。


この身に流れる血がそうさせたのか、幸いにも舞うことはとても好きでしたし、お茶を点てるのもお花を挿すのも、わたくしにとっては楽しい時間でした。


学校では友人もたくさんできて、それはもう素敵な毎日でしたわ。


少々欲を言えば、思春期を過ぎたあたりから、稽古場のお兄様達とはあまり会えなくなり、男性との関わりが少なくなってしまったのは残念でした。


中・高とも女子校でしたからね、そんなわたくしが両親のような大恋愛に憧れたのは、当然のことだったのでしょう。


いつか素敵な方と……そう夢見ていた時に、わたくしの生活は一変しました。


不治の病に侵されていることが分かったのです。


みんなから心配されて、泣かれて、励まされて。


一度は、もうわたくしには生きる価値はないのだと思いました。


ですが、部屋に引きこもっていたわたくしに、ある日母上様がかけてくれた言葉で、目が覚めたのです。


人生、最期まで楽しまないと損だと!


「ですから、神様が与えて下さったのであろう今世も、わたくしは楽しんで生きたいのですわ」


「あーうん、ガンバレー」


まあリュカったら、本気にしていませんわね。


ですが、急に敬愛するお嬢様が豹変してしまったのですから、考えることを放棄してしまうのも仕方ありません。


リュカはスラリとした体躯に紺藍の髪と浅葱色の瞳が上品な、自他ともに認める立派な従者ですが、幼い頃は孤児院で育ちました。


出会った頃は、敬語なんて知らねーよという感じでしたし、彼の努力で貴族の従者らしい振る舞いを身に着けはしましたが、こんな風に肩の力を抜いて自然体でいるのが、本来の彼の姿なのでしょう。


きっといいお兄ちゃんだったのでしょうね、年下の子たちに懐かれてもみくちゃにされているところが容易に想像できます。


うふふと生温かい目で見つめていると、居心地悪そうにリュカが口を開きました。


「……あのさ。今のあんた、見た目と中身のギャップがありすぎて、すっげー違和感。お嬢のその姿は、あんま的を射てなかったとはいえあの第二王子(クソガキ)仕様なんだしさ、もうこの際あんたの好きなように変えてやってくれない?」


「まあっ!よろしいんですの!?」


リュカの言葉に、わたくしはキラリと目を輝かせました。


「実はわたくし、先程からずっとこの体(セレナ)をぷろでゅーすしたかったんですの!もっと素材を活かして、自然な美しさを全面に押し出したかったのですわ!ええとまず、お化粧を落として……」


ああ、わくわくいたしますわ!


髪も顔立ちも体型も、前世とは全く違うんですもの!


リュカの許可も頂きましたし、思う存分やれますわ!


ああでもないこうでもないと自分(セレナ)をどう変身させようか迷っているわたくしを見て、リュカが複雑な表情をしていました。


「お嬢……記憶はあっても、もう以前のあんたじゃないんですね」


しかし、あまりにはしゃいでいたわたくしは、その時リュカが呟いた一言にも、その表情の変化にも、気付くことはできませんでした。

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[一言] リュカ、適応力すごいね……そして、つらい……前のセレナが好きだったんだな……
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