護身術は淑女の嗜みでございます!1
昨日の魔法実技については、帰宅してからよく考えてみると、少しやりすぎた感がありましたけれど、高評価を頂けそうなので良しとすることにいたしました。
……とリュカに話すと、もう少し反省しても良いんじゃないかと叱られてしまいました。
あの後、試験官の先生方から学園長先生に話が行き、試験が終わったらゆっくり話を聞かせてもらいたいと申し出がありました。
婚約破棄して平民となった暁には魔術師を目指すのも良いのではと思っているので、わたくしとしても良い話なのではと期待せずにはいられません。
……魔法人形の破壊と庭園の木々を乱したことのお叱りでないと良いのですが。
その可能性、無きにしもあらずです。
もしそうだとしても、一応木は魔法で元通りにできましたので、注意くらいで済むでしょうか。
さすがに学園で問題を起こし、学園長先生自らのお叱りを受けるなど、母上様だけでなくこちらのお父様・お母様にも申し訳が立ちませんもの。
……まあ、それは後ほどゆっくり反省するとして、今は今日の試験に集中しましょう!
わたくしは、半ば無理矢理昨日の失態から目を逸らしたのでした。
「はぁぁ……。ついにこの日が来てしまいました……」
「私は楽しみです!学園でも武術を習えるようになるなんて!」
今回の試験から導入された、護身術の試験、今日がその日となります。
今日の装いはもちろんドレスなどではなく、なんと学園が用意してくれた簡易騎士服に身を包んでいます。
前世でいう、体操服みたいなものになるのでしょうか?
かわいらしいジュリア様も、凛々しいエマ様もとてもお似合いですわね!
ちなみに今回の試験は、二クラスごととなっており、なんとミアさんのクラスと合同です。
「武術なんて初めてで……不安です……」
「大丈夫だよ。今回はただ適性を見るだけだっていう話だから」
ということで、怖がるミアさんの不安を取り除こうと優しく声をかけるリオネル殿下の姿があります。
ですが殿下のおっしゃる通り、護身術の試験といっても今回は剣術・槍術・弓術・体術など、それぞれに合った武術を探るだけのようですから、そこまで緊張なさらなくても良いかと思うのですが……。
まあエマ様のように、ご実家が騎士を多く排出しているご令嬢は、幼い頃から嗜んでいらっしゃる方が多いですから、楽しむ余裕もありますわよね。
「そういえばセレナ様も楽しみだっておっしゃってましたよね。でも、武術なんて初めてでしょう?」
寄り添うおふたりを一瞥した後、ジュリア様がわたくしの意識をおふたりから逸らそうと思ったのでしょうか、視界を遮って尋ねてきました。
「いえ、実は少々心得が――――」
わたくしがそう言いかけた時、ざわりと周囲から驚きの声が上がり、反射的に振り向くと、そこには。
「……お兄様方?」
「っ!?ライアン様!?」
リュミエール公爵家の兄弟、ランスロットお兄様とエリオットお兄様、そしてエマ様の婚約者であるライアン・フーリエ様が試験官とともにいらしたのです。
「静かに!今回の試験には、特別講師として王宮から騎士団員を派遣して頂いた」
なるほど、今の学園には武術を教えたりその適性を見分ける教師がいない。
そのため騎士団員の要請を行ったのですね。
ですが、だからといってなぜうちのお兄様……?
そして、ランスロットお兄様は騎士団の所属ではなかったはずなのですが……?
「それはもちろん、公爵家の権力で、ね。ちなみに面白そうだったから僕もねじ込んで参加できるようにしてもらったんだ。ああ、ちなみに僕も槍術はなかなかのものだから、心配しないで」
ランスロットお兄様は、わたくしの心の声が聞こえるのでしょうか?
まさに今不思議に思っていたことをお答えになりました。
試験官の説明によると、どうやらエリオットお兄様が剣術、フーリエ様が弓術、ランスロットお兄様が槍術をそれぞれ担当し、体術は学園の先生が見て下さるようです。
男性陣は得意な武器のグループへと向かい、女性陣はそれをまず見学、のちグループに分かれてぐるりと回る予定だそうです。
「ライアン様が来るなんて、聞いてなかったわ……。知っていたら、もう少し準備して来たのに!しかも、こんな服装の時だなんて……」
突然の婚約者の登場に、エマ様が急にそわそわし始めました。
普段快活なエマ様も、愛しの婚約者の前ではかわいらしい姿になってしまうのですね。
これぞ恋する乙女、素敵ですわ……!
「大丈夫ですわ、エマ様。きっとフーリエ様も普段の自然体のエマ様が見たくて秘密にしていたのでしょう。いつものエマ様のままで素敵ですから、自信を持って下さいませ。騎士服でも、エマ様の凛々しさとかわいらしさが十分伝わるとわたくしは思いますわ」
「セ、セレナ様……!!」
思ったことを口に出しただけなのですが、なぜでしょう、エマ様の顔がほんのり赤らんでいますわ。
そして周りにいるご令嬢方も。
わたくし、ひょっとして恥ずかしいことを口にしてしまったのでしょうか!?
「すみません、変なことを言ってしまいましたか?わたくしの悪い癖ですわね、思ったことをすぐ口にしてしまうのは」
「セ、セセセセレナ様!もう!もう分かりましたから!そのへんで!!」
なぜかエマ様の顔がさらに赤くなってしまいましたわ。
「あーうんお嬢。そのへんで止めておきましょう。ご令嬢方が真っ赤っかなのに対して、ご令息方が真っ青になってます」
「リュカ?まあ、なにを言って……」
そんなわけがないでしょうと周囲を見ると、確かにご令嬢方は真っ赤になってわたくしを凝視しています。
対して殿下をはじめとする令息方は、信じられないとでも言いたそうな顔をしています。
……フーリエ様からは、なぜか好敵手でも見つけたかのような顔をされました。
「うーん。セレナ、今日は別に、そういうのは必要ないんだよ?」
「騎士服姿なのがまた令嬢方のツボに入ったようだな。まあ男を誑かすよりよほどマシだ」
困ったように笑うランスロットお兄様と、うんうんと頷くエリオットお兄様の言っている意味もよく分かりません。
「あの……そろそろ始めても良いですかな?」
恐る恐る声を上げた試験官の声に、わたくしたちは試験中だということをやっと思い出したのでした。




