魔法陣?前世では義務教育ですわ4
結局二つ目の課題では、魔法陣の最後を日本語で書くことを諦め、普通の古代文字で書くことにいたしました。
そうでないと皆様方の心臓が保たないと、リュカをはじめ試験官の先生方に説得されたのです。
わたくしとしては日本語が使えるのか試してみたいだけでしたので、快く了承しました。
その時の先生方のほっとした顔……。
それほどまでに、わたくしのやったことが規格外だったのですねと申し訳ない気持ちになりました。
ちなみに三つ目の課題、“今行える最も強力な魔法を使って見せる”は、させてすらもらえませんでした。
下級魔法ですらあの威力、上級魔法なんて使われた日にはこの学園もろともチリひとつ残らず消されてしまうと先生方は思ったようです。
さすがにそこまで致しませんし、そもそも攻撃魔法を使うつもりもなかったのに……とやんわり抗議しようとしたのですが、リュカに止められてしまいました。
「“優・良・可・不可”しかないはずの判定で、“極”をくれるって言うんですから、ここは大人しく言うことを聞いて下さい。ってか、これ以上やらかさないでくれマジ頼みます」
真剣すぎて血走った目が恐ろしくて、不覚にも頷いてしまいましたわ。
リュカってば、なかなかの眼力ですわね。
とにかくそういうわけで、魔法実技の試験は無事?終了致しました。
他のクラスメイトの魔法もたくさん見ることができましたし、そういう意味ではとても満足しております。
魔力だけでなく、魔法陣や古代文字をいかに正確に、美しく描くかも魔法の効果に関わってくるのだとよく分かりましたしね。
ただ、ひとつ気になるのが……。
「セレナ様、こんなことを言って良いのか分かりませんが……。リオネル殿下には、お気を付け下さいね」
「?殿下がどうかしましたの?」
エマ様によると、わたくしの試験の様子をものすごい目で見ていたらしいのです。
確かに殿下は、その、多少ユニークな平仮名を書いて、他の方より効果の高い魔法を使っていましたから、わたくしのことを目の上のたんこぶのように思われたかもしれませんわね。
わたくしとしては、殿下の魔法陣を見たからこそ思い付いたものですので、感謝しているのですが……。
「なんだ、こちらを見るな」
エマ様、大当たりですわ。
お礼を言おうかしらとちらりと見ただけなのに、リオネル殿下に冷たい目で睨まれてしまいました。
まあ仕方ありませんわね、わたくしは悪役令嬢。
そんなわたくしにお礼を言われても、嬉しくともなんともないでしょう。
わたくしの有能さを殿下に認めてもらおうとアピールしに行っても良いのですが、まあミアさんもいませんから、ここで悪役令嬢を演じなくてもという気もします。
あの様子だと褒めて頂ける気はしませんし、殿下と喧嘩したいわけでもありませんので、知らんぷりしておくに限りますね。
「あんなこと言わなくても……。婚約者のセレナ様が素晴らしい結果を残したのに、褒めることもしないなんて」
「まあ、ジュリア様……。殿下はミアさん一筋なのですわ。わたくしを思い遣って下さるのは嬉しいですが、気に病んではおりませんので、怒らないで下さいませ」
ジュリア様がわたくしの代わりに怒って下さっているのは嬉しいですが、そのせいで殿下に目をつけられてしまってはいけません。
悪役令嬢のわたくしと一緒にミア様をいじめていると思われたら大変ですもの。
「セレナ様がそう言うなら、私達もなにも言いませんけど……。でも、辛いことがあったら言って下さいね。話を聞くくらいはさせて下さい」
「そうですね!私もあまり殿下達のことは気にかけないようにします。それにあんな様子なら、正直殿下とは婚約破棄した方がセレナ様にとっては幸せかもしれません……」
「エマ様、ジュリア様……」
おふたりの優しさに、胸が温かくなります。
殿下に愛想をつかされたことも、殿下とミア様があのような関係になっていることも、正直わたくしとしてはどうとも思っていないのですが、一般的に考えたら多少なりとも傷ついていると思われますものね。
口に出さないだけで、我慢しているのだと思われているのかもしれません。
「ありがとうございます。こんなに素敵なお友達を持つことができて、わたくしは幸せですわ」
心のままに言葉を口にすれば、おふたりも優しく微笑んで下さいました。
「それに、リオネル殿下がいなくても、レオ様がいらっしゃいますものね!」
「?なぜそこにレオ様が出てくるのです?」
どことなく嬉しそうなジュリア様に、わたくしは首を傾げます。
「まあ……セレナ様、鈍感な上に無自覚さんでしたのね」
「悪役令嬢の話を聞いた時からそんな気はしてましたけどね。侍従の方も苦労なさっているんですね」
「分かって頂けますか、オランジュ伯爵令嬢。しかし男女関係については慎重にお願いします、ルノワール侯爵令嬢。俺が旦那様達に殺されます」
???
わたくしを置いてけぼりにして、三人でため息をつかれていますが、一体どういうことなのでしょう?
しかもその後、三人が三人ともわたくしを生あたたかい目で見てくるのですから、さらに意味が分かりません。
「そうですね、セレナ様はしばらくそのままで宜しいのかもしれません」
「はい、私達が見張っておきましょう、ジュリア様」
そう言ってエマ様とジュリア様が頷き合っているのを、わたくしはただ眺めているだけなのでした。




