魔法陣?前世では義務教育ですわ2
今日の魔法実技は、クラス単位で行われています。
なので同じクラスのリオネル殿下はいらっしゃいますが、ミアさんは別。
今日は悪役令嬢のアピールの場ではありませんので、個人的に楽しませて頂きますわ!
わくわく顔で名前を呼ばれていく方々の魔法を拝見していきます。
一つ目の課題では、皆様大体が中級程度の似た魔法を使っていらっしゃいますね。
それにしても、的となっているあの魔法人形は不思議です。
見た目は騎士が剣の稽古に使う藁でできた人形にそっくりですが、どんな魔法を当てられても燃えたり崩れたりしません。
魔法を無効化しているのでしょうか?
「魔法人形の原理に興味を持つなんて、セレナ様は変わってますね。私などずっとそういうものだと思っていましたし、不思議に思うことなんてなかったです」
「まあ、そうなのですか?興味を持つとつい、小さいことまで気になってしまう性格でして……」
「あれ?でも、セレナ様ならすぐにそういうことを調べそうなのに。今までなにもされなかったんですか?」
ま、まずいですわ。
エマ様、さすがに鋭くていらっしゃいます。
「……魔法に興味を持ったのがつい最近なので、今まで気に留めなかったようなことも気になるようになってしまったのですわ」
もっともらしく笑顔で答えれば、なるほどと納得して頂けました。
さすがに前世を思い出したから知りたくなった、という話は説得力ありませんものね。
そうこうしているうちに、リオネル殿下の名前が呼ばれました。
「……あら?」
まずは得意の火魔法から始めるつもりのようで、殿下は魔法陣を描き始めたのですが、最後に古代文字で書くはずの言葉が、普段使われている文字とは違います。
「殿下は別種の古代文字が書けるのです。なんでも、あの魔法陣の図形の一部もその古代文字と同じ国のものだという意見もありますし、一節によるとそれも文字なのではないかと言われているのです」
それって……いえ、確かに。
「ジュリア様はとても博識ですのね。わたくし、初めて知りましたわ」
ジュリア様の言っていることは、恐らく……というか、正しいです。
だって。
「いくぞ、“ふぁいやーうぉーる”!」
殿下がそう唱え描いた魔法陣には、日本の、平仮名で“ふぁいやーうぉーる”と書かれていたのですから。
……大変失礼ではありますが、下手く……いえ、そうですね、海外の方が頑張って書く日本語のような文字で。
前世日本人としては残念な気持ちでその魔法陣を見ていましたが、日本語を知るはずもない他の皆様は、さすが殿下だと羨望の眼差しで見つめています。
実際、発動した火魔法“火柱”は、同じ魔法を使った他の方のものよりも、もの凄い勢いで魔法人形を覆っています。
「ほ、ほんの少しではあるが、人形に焦げ目が……。さすが殿下ですな、素晴らしいです」
火が消え去った後、人形を確認した試験官も目を見張っています。
「皆様は、あの文字を知らないのですか?」
「もうほとんど知っている人のいない文字だとされていますからね。私も何度か殿下の魔法陣で見ましたが、なんかこう……うねうねしてたりパーツが分かれていたり、覚えにくそうな文字ですよね……」
エマ様がお手上げだという様子で教えてくれました。
確かに前世でも日本語は漢字・片仮名・平仮名と三種類あり、平仮名だけでも五十音と多いため、英語などと比べて難解だと言われていましたものねぇ……。
それに、この世界で日本語を書ける人の真似をしようとしても、殿下のような下手く……少々崩れた文字を見本にすれば、初めて書く人はさらに崩れていくでしょうし。
ちなみに先程ジュリア様がおっしゃっていた、ひょっとして文字ではないかという魔法陣の図形の一部、あれは片仮名です。
火魔法には“ヒ”、水魔法には“ミズ”、それと○や△などの形と組み合わせて描く魔法陣は、わたくしにとっては大して難しいことではないのですよね。
まあ、物語に出てくる魔法陣とは少しイメージが異なるので、わたくしも最初は戸惑いましたけれど。
……あ、そうですわ。
続く殿下のふたつ目の魔法に皆様が釘付けでしたので、こそこそとうしろに下がり、リュカの隣に立って耳打ちをします。
「リュカ、わたくしちょっと思いついたことがあるのですけれど」
「止めて下さい」
「……まだなにも言っていないのですが」
相談しようと思ったのに、なぜか速攻止められてしまいました。
「言わなくても分かります。絶対、とんでもないことになりますから、止めて下さい」
そう言い切られると、やりたくなってしまうのが人の性というものでしょう。
「……って反対して止めてくれるような人じゃないことは分かってますけど」
「まあ!さすがリュカですわ!」
わたくしのことをよく分かってくれているリュカに、にこにこと笑顔で返せば、いつもの諦め顔をされてしまいました。
「一応俺は止めましたからね。どうなっても知りませんよ」
「嫌ですわリュカ、わたくしが決めたことなのですから、ちゃんと自分で責任を取りますわ。例え失敗したとしても、それはわたくしの責任です」
「……そういう意味じゃないんですよね……まあいつものことですけど」
そう言うとリュカは、なぜかふっと鼻で笑いました。
どうしたのでしょう、目が死んでいますわ。
「セレナ様?どうしたんですか、名前、呼ばれていますよ」
リュカに理由を聞こうと口を開いたところで、エマ様に呼ばれてしまいました。
試験の順番ですもの、仕方ありませんわね。
「お嬢」
試験官の元へと向かおうと足を踏み出すと、リュカに呼び止められました。
「俺は、ちゃんと、止めましたからね!」
……よほど後からわたくしに失敗したと怒られるのが怖いのでしょうか。
「大丈夫ですわ、行ってまいります!」
安心して下さいねと微笑み、今度こそ中央に足を進めました。
「遅くなってすみません、始めます」
指定された場所に立ち、標的の魔法人形を見据えます。
失敗してもその時はその時ですわ!
わたくしは魔法陣を描くべく、右手の人差し指を顔の前に差し出しました。




